10.12「alice in rainyland」



一度訪れて気に入っていた店に石鹸を買いに

行きました。店の入口に看板はなく店じまい

をしてしまったようです。少し開いていた入

口から、匂いを追って中に進みました。裏口

のドアを開くと、そこには湖が広がっていま

した。たくさんの石鹸を混ぜたのでしょうか

。湖は綿菓子のような泡に覆われています。





ボートの舫いを解きました。二本のオールを

泡の中に差し入れます。ふわふわと立ち上が

る泡と靄に隠れて湖の向こう岸は見えません

。私は静かにボートを滑らせる。雨のない国

があるといいます。この湖の向こうかもしれ

ません。雲のない空はどうなっているのでし

ょう。星は、どんな風に光るのでしょうか。





―――――――――――――――――――🐈





『雨の国のアリス』という話を書きはじめて

から、静かな雨が降り続いている。まるで小

説の中の雨がやまない世界が、現実に食み出

してきたかのよう。娘が続きを読みたいと言

ってくれた。誰かのために書けてよかった。

愛は無償で、小説も愛だったらいい。アリス

が見る青い空がエンドロールに続くように。




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