Untitled,2017
@tamtam_puding
第1話 Roppongi>>>>>Akasaka
別れた妻が人気俳優と交際していると知ったのは偶然の出来事だった。
その日、美容整形外科医龍ヶ崎光志は、自身が経営するギャラクシー・クリニック・グループの全国支店長会議に出席し、会場である六本木ヒルズから、恋人の待つ赤坂へと車を走らせていた。
東京は10月に入りすっかり秋の気配だ。空気はひんやりとし、都会の街路樹は乾きはじめていた。今年の夏は8月に入ってからも小雨続きで、雨がやんだあとも気温はそう上がることもなく、夏らしい日などほとんどないまま季節は秋へと申し送られてしまったようだ。毎夏恒例、逗子海岸の別荘でのパーティも、曇天の下では何を撮ってもインスタ映えしない、と恋人の真奈に拗ねられさんざんだった記憶がよみがえる。
龍ヶ崎は今年42歳になる。
世間ではオジサンと言われる年齢だ。しかし、定期的なトレーニングで無駄な贅肉もなく、仕事柄、肌のメンテナンスを怠らない彼は30代前半にしか見えない。
20年以上前、“フェミ男”という体の線が細く女性的な雰囲気を漂わせる男性タレントが大人気だった時期があった。
当時19歳の龍ヶ崎は今でいう読モをしていた。フェミ男の代表といえば俳優のいしだ某や武田某だが、ストリートファッション誌が勢いのあった時代で、原宿界隈では彼ら以上に龍ヶ崎が人気だったと言っても過言ではない。
フェミ男といえばピタTだが、わざとレディースブランドの服を着る、なんてこともおしゃれだった。いしだ某がzuccaのレディース・ワンピースを着てOliveの表紙に出れば、龍ヶ崎はヒスグラを着てCUTIEに出た。
やがてフェミ男という名称は消滅し、龍ヶ崎の少年時代も終わる。ガラスのような透明さと折れてしまいそうな華奢な体つきは徐々に消失したものの、42歳の彼にまだその繊細な面影は残っている。
流行はいつも龍ヶ崎の前に現れては消えてゆく。
インターネットが普及してからの移り変わりの速さは異常だ。
ギャラクシー・クリニックの宣伝は長い事TVスポットと雑誌だったが、いまではSNSを多用している。だから真菜のいう「インスタ映え」はわかるけど、実は心の底ではどうでもいいと思っている。
-最近の流行りにはなにか違和感を感じる-、
そんな愚痴を、弟分としてかわいがっている医師、末次勝利にぼやいたら、龍ヶ崎先生は若い子が好きだから合わせないとしょうがないですよ、と一笑に付された。
若い子、たしかに22歳の真奈と龍ヶ崎は20歳差だ。
真奈と出会ったのは去年の夏、美容整形手術を受けるモデルの付き添いで、龍ヶ崎のクリニックに来院したのが始まりだった。
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