第16話:宮坂三姉妹の真の姿

「ふぅ、お腹も落ち着いてきたことだし、そろそろ出ましょうか」


 瑠璃るりさんがそう言って店長さんを呼び出し、「お会計をチェックお願い」と伝える。もちろん店長さんも伝票を持って来ていたので瑠璃さんにだけ見えるように差し出し、そして黒光りするカードを受け取っていた。


「もしかしてそれ、噂のブラックカードってやつですか?」


「ええそうよ、ちなみに私だけでなくこの2人も個人的に持ってるから。ちょっと前ならいざ知らず、今となってはそんなに珍しいモノでもないわよ」


 いくらですか、僕も出しますよとは言い出せないような高級なレストランで4人分のお会計、一体どれくらいの金額が書いてあったのかすら想像がつかない。

 店長さんがカードと控えの伝票を持って戻って来た。


「本日はご来店、誠にありがとうございます。ご両親にもよろしくお伝え下さい」


 そう言って丁寧に一礼する店長さん。


「へぇ、ご両親をここに連れて来てあげるなんて、瑠璃さんて親孝行なんですね」


 ポロリと独り言のように呟いた俺の発言に、店長さんが目を丸くしておられる。おや、どうしましたか?

 その様子を見ていた瑠璃さんが、店長さんにニコリと笑いかける。何かを感じ取ったらしい店長さんが、にこやかに頷く。何このアイコンタクトは。目と目で通じ合う~な感じ?


「ご馳走様でした、また近いうちに来る事になるわ。その時を楽しみにしててね」


 ひらひらと手を振る瑠璃さんを先頭に、俺達はレストランを出た。


「おぇ、バーに行くでしょ?あの夜景をお義兄にーちゃんに見せたら絶対喜ぶよ!」


「そうね、そのつもりよ。さぁ、こっちよ優希ゆうき君」


 姉妹に両手を引かれ、次の場所へと向かう。どうやら夜景が見えるバーらしい。牡丹ぼたんさんも背中を両手で押して来る。自分で歩けますってば。




 なるほどこれは…、とても言葉では言い表せない。キラキラしててとても綺麗です、はい。この光景を描写するだけの表現力なくて、ごめんなさい。


「おや、君は昼間の新人君じゃないか。そんなに美女達をはべらして、君は一体何者なんだい?」


 カウンターに座っている人物、確か亀西かめにしとか言ってたっけ?隣に座っている女性がこちらに向き直り、会釈してくれる。


「何者も何も、僕はただのフリーt「亀西君、こんばんわ。この子は私が今日スカウトした桐生きりゅう優希ゆうき君よ。さっき契約したばかりなの、ちょっと詳しい説明をしようと思ってここに連れて来たのよ」


 瑠璃さんにさえぎられてしまった。そうか、もう契約してしまっているから俺もプレイヤー扱いになるのか。


「そうですか、じゃぁお邪魔したら悪いですかね。でも自己紹介だけいいですか?桐生君、僕は亀西かめにし信弥しんやです。スペックス所属だから君の先輩になるけど、良かったら信弥って呼んでくれると嬉しい」


「ご丁寧にありがとうございます、信弥さん。僕も優希と呼び捨てにしてもらえれば」


「うん、よろしく優希。じゃ、僕達はこれで失礼するよ。皆様、失礼致します」


 宮坂三姉妹に対し深々と一礼し、去って行く信弥さんとお連れの女性。それにしてもスペックスって何だ?


「お義兄ちゃん、スペックスっていうのは『Specialスペシャル Experienceイクスピアリエンス』の愛称よ。長いからみんなそう言うの」


 スペックスねぇ~、言い間違えないように気を付けないとな。セックススペックス。瑠璃さんならそこまで狙って名前を決めたんじゃないかと疑ってしまう。




 夜景が見やすいテーブル席に陣取り、それぞれ飲み物を注文する。瑠璃さんはシャンパン、牡丹さんはレモンモヒート、俺と紗雪さゆきさんはジンジャエールを頼んだ。俺達はまだ未成年だからな。


「「「「乾杯」」」」


 もちろんこの辛めのジンジャエールも、俺が普段飲む物よりも数段ランクの高い物なのだろうが、宮坂三姉妹とこの夜景を見ながら飲んでいるという事で、こうもおいしく感じるのだな…。


「牡丹ちゃんはさ、あたしと一緒で初めてだったわけでしょ?その、じんじんしない?」


「ええ、とっても。でも、もうちょっとで何かを掴める気がするわ」


 雰囲気をぶち壊してくれるなよ、俺すげぇ居心地悪くなったわ。周りが気になるからもうちょっと音量低めでお願いします。ほら、バーのマスターっぽい人がニヤニヤしながら近付いてくるじゃん。


「いらっしゃい、お嬢様方。どこぞの御曹司を取り合いしているんですか?」


「いいえマスター、仲良く分け合いしているのよ?」


 上手い事言ったつもりかも知れないが、ホントの事を冗談っぽくさらりと言うの止めて下さい、心臓に悪いです。ほら、冗談に取られてなさそうですよ?マスターがまじまじと俺の顔を見てくるじゃん。


「お客様、とんでもないお三方に選ばれましたな。どうやったらこのご令嬢達のハートを射止められるのか、私にも教えてほしいものですわ」


「ふふ、マスターも相変わらずお若いですね」


 ほらまた来たぞこの違和感アラート。ご令嬢、ごれいじょう、宮坂さんちのご令嬢、お金持ちっぽいイメージの名字…、宮坂グループ?大企業の?


「え~っと間違ってたらゴメンなさい、宮坂三姉妹さんはもしかして宮坂商事や宮坂重工やらにご縁があったりしますか?」


 突如マスターが両手を叩いて大爆笑し、三姉妹もニヤニヤし出す。


「お客様!知らないでお近付きになったんですか?アンタはとんでもない幸運の持ち主ですな‼ご縁も何も、宮坂グループ本家直系のお嬢様方ですよ。瑠璃お嬢さんは何か自分で起業されたそうですが、本来全く働かなくても生きて行ける人達なんですよ?」


 マジで?こんな偶然あるの本当に。俺明日死ぬんじゃない?


「お義兄ちゃん、いいよそんなの気にしなくて。あたしらどころかうちの両親にも祖父母にも、経営権はないんだから」


「そうなんですよ、姉が起こした事件がきっかけでね、お爺様にも伯父様にも引責辞任させてしまったのです」


「だから今はただの株主なのよ、私達はその株主の娘ってだけ。ほら、株主も株主の娘も世の中には一杯いるものよ?」


「宮坂グループの筆頭株主がそんなに一杯いて堪りますかって。これ以上はお邪魔ですな、また御用があればお呼び付け下さいまし」


 マスターは来た時同様、ニヤニヤしながら去って行った。


「だからレストランの店長さんは僕をあんな目で見てたわけですか…」


 頭を抱える。もうあの店行けないよ。いやそんな頻繁に通えるような店じゃないのだが、あぁ恥ずかしい。

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