第3話:絡み付く変態美人ズ
「つまり、ただのフリーターって事?」
「はい、その通りですよ、
やっと理解してくれたよこの人。
さすがに注目を集め過ぎたので場所を変えようと提案を受けた。
俺としては勘違いしてもらったままでも全然構わなかったのだが、どうしても俺をスカウトしたいらしい
変態美人ズ曰く、俺に出張ホスト的な仕事をさせれば、すんごく稼げるらしく、好条件で契約するからうちの店に来いという魅力的なお誘いを受けていた。
スカウトするからには、今現在契約しているであろう店とも話をしなければならないから、とどこのお店なのよ早くいいなさいよと詰め寄られていたわけだ。
カフェから移動する車の中、そしてどデカいビルをひたすら上へ上へと上がるエレベーターの中、そして瑠璃さんのオフィスだと言うこの街全体を見下ろすこの部屋で、どれだけ説明しただろうか。
その度重なる説明の結果。
「つまり、ただのフリーターって事?」
「だからそう言ってんでしょうが!!」
「いや、でも正直信じられないですよ」
とりあえず現在の状況をご説明。
革張りの黒くシックなソファーの真ん中に俺が座り、その右腕へと胸を押し付けて、なおかつ組んだ右脚を俺の右膝に乗せている
対して俺の左腕へと胸を押し付けて、なおかつ俺の左脚を自分の両脚で挟み込んでいる牡丹さん。両サイドから女性特有の良い匂いがして内心ものすごくドキドキしている。
何この高級セクキャバみたいな状況。
いや、高級どころか激安キャバクラすら行った事ないんですけどね、俺。
「とりあえず離れてもらえませんか?さすがに居心地悪すぎるんですけど」
俺もそんなに悪くはないと思ってはいるが、こんな事をされるまでに魅力的な男だとは思っていない。
ここまでの事をされればされるほど、騙されてるんじゃないかって疑い出すのが正直な所だ。
「あんなプレイを見せつけておいて、今さら離れろだなんて、ねぇ~」
「ええ、あんなプレイ見ちゃったら、離れられるわけないですよねぇ~」
だからプレイじゃないっつーのに、あれは日常会話だ。
いや、友達の彼女に告白されるのが日常だっていうイケメンみたいな生活を送っているわけではない、断じて。
え~っと、あれは世間話?いや、非日常話?
「とにかくプレイじゃなくって、友達の彼女に告白されたから断ってただけです。そもそも、あなた方が仰るプレイについて詳しくお聞きしたいんですが」
俺が話を進めないと、一体何をどう勘違い中なのかも把握が出来ない。
だから誤解を解く事も出来ない。
ひたすら否定し続けた結果、両腕と両脚に絡みつかれているわけで。
態勢を変える事なく、瑠璃さんが俺の目を見つめる。
「ともかく、私達はあなたがフリーターであると言う事実を確定させたい。その上で本当にこの業界の事を知らないと言うのであれば、私達が一から教え込むわ。だから、今は先にあなたの事を教えてくれる?」
はぁ、よかろう。
身の上話をさせた事を後悔させてやろう。
と、話し始めようと思ったところで、両サイドの美人達は俺の腕を離してソファーを立ち上がり、瑠璃さんが俺とは向かい合うソファーへと座り直した。
まぁいいけど、この方が話しやすいし?胸の感触が名残惜しいとか、一切思ってないし?
何て事を考えていると、牡丹さんがコーヒーの用意をしてくれているようだ。
「コーヒーを落とすのに少し時間が掛かります、先にお話をお願いしてもよろしいですか?」
では改めて、身の上話をさせた事を後悔させてやろうか。
牡丹さんが瑠璃さんへとタブレットを手渡したのを見つつ、身の上話を始める。
「高校を卒業した後、こちらへと1人出て来ました。元々は関西に住んでいました」
「へぇ、関西人なのね。その割にはイントネーションに違和感がないわね」
「ええ、母がこちらの出身でしたので、特に抵抗感なくこちらの話し方が出来ます」
コーヒーが落ち終わったようだ。
牡丹さんがどうぞ、とコーヒーをすすめてくれる。
頂きます、ずずずっ。
おいしい、いい豆を使っているようだ。
「で、こちらでは一人暮らしなの?」
「そうですね、アパートを借りて1人で住んでいます」
「フリーターと言うことだけど、大学に通うわけでもないのにわざわざこちらへと引っ越して来た理由を聞いてもいいかしら?」
来た。
「大学受験の当日、両親と妹が試験会場まで送ってくれたんですよ。で、僕を送った帰りに交通事故で両親は即死。妹は目を覚まさないまま、二ヶ月後に亡くなりしてね。その後、諸々の事後処理を終えてから、こちらへ越して来たんです」
ほら、みんなそんな顔をするんですよ。
そんな顔をする奴らを今まで大勢見て来たんだ。
あいにく俺はその顔が嫌で嫌で堪らなくてね。
だから俺はこちらまで出て来たんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます