一万年寝坊した眠り姫

ちゃむ

第1話 創世神話

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遥か遥か昔、初めに火の女神アーシアがいました。

アーシアは初めに火山を作り、二日目に大地を割り、三日目に岩を砂に変えて砂の海と川を作りました。


思い通りに星を作ったのだけれどアーシア様は思いました。


――――――なんだか寂しいわね


そこには自分の話を聞いてくれる相手がいませんでした。

居るのはごく小さい知能の足りない物言わぬチリのようなものばかり。


――――――つまんない


退屈したアーシアは溶岩のプールに浮かびながら眠ってしまいました。





どれほど眠っていたのか、ふと目が覚めると世界は一変していました。

世界の半分はなんだかしょっぱい水で水浸しになっていました。

赤く岩だらけで荒涼としていた大地は緑のもので溢れていました。

なんだか小さく蠢く者たちもたくさんいます。

言葉は交わせないけれど物言わぬチリよりはマシな知能を持った者たちが沢山です。


最初は好きだった景色を勝手に変えられて少し怒った神様ですが、すぐに考えを改めました。



でもどうしてこんなことが起きたのかしら?



気づけば星には取り囲むように二つの輪っかがかけられていました。



――――――これは何かしら?



輪っかをゆすってみると、思わぬものが其処にいました。


「ふざけんな。くそ火山。ここまで作んのにどんだけ苦労したと思ってんだ」


ひどくご立腹。

でも言葉を話せるだけの知能を持った者達がそこに居ました。

アーシア様は嬉しくなりました。


――――――一緒に遊びましょう!


ぜひともお友達になりたいと思ってアーシア様はアピールをしました。


「いい加減にしろよ、くそ火山。お前のせいで計画が滅茶苦茶になっちまった。オービタルリング壊れちまったじゃねぇか。テラフォーミング中断になっちまったぞ」


益々怒らせてしまいました。

悲しくなってシュンとしてしまったアーシア様でした


「移民船団の人口が減りすぎてテラフォーミングはできたとはいえ未知の病原体だらけの星には降りられない。人口を増やさなければ」


ところが彼らはよくわからないことを言って、大人しくしていてもアーシア様のところまで降りてきてくれません。


「飯と薬がねぇ」

「プラントが噴火で壊れたせいで十分な生産ができねぇんだよ!我慢しろ!」

「死ねっていうのか!」


どうしたことかお友達同士で喧嘩して輪っかがどんどんとボロボロになっていってしまいました。


「もう帰る」


急にどこかへ行ってしまおうとするので、アーシア様はすがる思いで泣きながら引き止めました。


――――――行かないで!



「ぎゃあああああああああ。休火山になってた火山が急に噴火しやがった! 何か人類に恨みでもあんのか、あのくそ火山。移民船までぶっ壊れちまってもう帰れない」



お友達はもう何処かへ行くのは止めたけれど、メソメソと泣き始めてしまいました。

何が良くなかったのでしょう?


「もう寝る。地上の病原体対策はデミにやらせよう。デミは後で抗体を回収して労働要員にしちまおう」


お友達はなんだか良くわからないことをつぶやくとアーシア様を無視して輪っかの中で寝てしまいました。



無視しないで。一人にしないで―――――――



アーシア様も悲しくなってしまいました。

でも下手にかまうとまた怒らせてしまいそうです。

そんな時、輪っかから百人のお友達が星に降りてきました。

姿かたちは寝てしまったお友達とは似ているようでちょっと違うけど、知能は同じくらいです。ちゃんと会話ができそうです。

やっとお友達が来てくれた!

アーシア様は嬉しくなりました。



――――――一緒に遊びましょう!!!!




「ぎゃああああああああああ、火砕流がああああ」

「喜んで供物をささげさせていただきます。どうか、どうかご容赦を」

「大変申し訳ありませんが先約が」


いろいろな返答がありましたが、アーシア様にようやく会話のできるお友達ができました。


めでたしめでたし。





創世期 アーシア伝

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「はい、おしまい」


ドラゴニュートハーフの女性が絵本を閉じる。

三人の子供が女性を囲んで寝転がっている。



「お母さん。さすがに変なアレンジ入ってない?」

「あー、やっぱりそう思う?でもこれ私のおばあちゃんが口伝してくれたのと一字一句一緒なのよね。おばあちゃんはアーシア教の司祭だったし、聖典に記載されてる言葉そのままだって、苦笑いして言ってたわ」

「そうなの?ふーん」

「晶はアーシア様のこと好き?」

「なんか変」

「ありゃりゃ。鈴香は?」

「はた迷惑な外道」

「ぶふっ。どこで覚えたのよそんな言葉」

「し、翔太はどう」

「好き!無視しちゃかわいそうだよ」

「そうだねー。無視しちゃかわいそうだよね」

女がくしゃくしゃと頭をなでた。

「あーずるい、翔太」

ドラゴニュートハーフの子供がハーフエルフの子供を指さす。

「鈴香もおいで」

女が手を広げるとドラゴニュートハーフの子供が文字通り宙を飛んで飛びついた。

「えへへ」

女はドラゴニュートハーフの子供の頭も撫でてやる。

「もう寝なさい。夜も遅いわ」

「「「はーい」」」

子供たちを抱えて女は寝室に向かう


窓の外に満天の星。赤い三日月。

そしてその光を遮る黒い帯が二筋あった。












――――――――バン

突然、大きな音を立ててハーフエルフの男性が家に飛び込んできた。

「あなた」

「まずい、ばれた。子供を抱えて今すぐ逃げろ!」






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