第67話 少女九龍城忍法帳

 鈴を鳴らさないように生活する。

 それが見習い忍者である私、百地千草(ももち ちぐさ)に与えられた修行だ。


 忍者は現代にも存在する。

 私たち伊賀忍者は、表向きは観光地の忍者屋敷なんかで働きながら、裏では諜報活動や破壊工作のスペシャリストとして活躍している。甲賀忍者を初めとしてライバルも多く、何気に厳しい競争社会を生きている。


 伊賀の里に生まれた子供は里の中にある小中学校に通い、高校からは都会の生活を学ぶために都会へ出るのが習わしだ。タピオカミルクティーもパンケーキもない田舎暮らしに飽き飽きしていた私としては、都会への進学は願ったり叶ったりだった。

 おしゃれなアパートではなく古ぼけた女子寮に住むことになったのは予想外だったけど……それでも住めば都というもので、周りに同性しかいない、ギスギスした争いもない少女九龍城での生活を私はかなり気に入っていた。


 師匠から与えられた修行も今の私にとってはさほど難しいことではない。身につけた鈴を鳴らさないように生活することで忍者らしい身のこなしを習得する……これは伊賀の里なら小学生だってやってる修行だ。

 でも、それはつまり高校生の私が失敗するわけにはいかないわけで、ハッキリ言ってかなりのプレッシャーだ。師匠の修行チョイスは本当にいやらしい。私にお仕置きするために選んでいるとしか思えない。

 ちなみに音のしない鈴をいつも腰にぶらさげているのはいかにも不自然なので、鈴はスカートの内側にぶら下げて隠してある。鈴を鳴らさないで歩いているところを見られて「あの子は忍者かもしれない」なんて噂を流されたら、それこそ本末転倒だ。


 さてと、今日も都会生活を満喫するために流行のスイーツショップのリサーチでもしますかね……。

 そんなことを考えながら、食堂から自室へ戻っている最中のことだった。

 廊下の角を曲がった瞬間、天井から目のついた大福のようなものが落ちてきた。


「きぇええええええっ!! お化けぇええええええええっ!!」


 ねっちょりと顔に貼り付いた大福型お化けを引っぺがして投げ捨てる。

 そいつはケタケタと笑い声を上げながら廊下の奥へ転がり去って行った。

 こ、腰が抜けて立てない……。


 これでも忍者なので人間が不意打ちされても負ける気はしない。動物もゴリラ以外なら勝てると思う。でも、お化けは忍者の専門外なので絶対に倒せない。お化けを倒すのはお坊さんや陰陽師の仕事だ。

 倒せないものが怖いのは仕方ないので、私は別にビビりというわけではない。中学3年生の夏休みに行われた肝試しのときだって、小学生をエスコートする役をするはずなのに一人だけビビっておもらししたなんてこともない。


「はぁっ……はぁっ……」


 動悸が収まらない。

 少女九龍城の気楽な雰囲気は嬉しいけど、お化けやら幽霊やらがたまに出てくるのは困りものだ。この前なんか緊縛された裸の女の幽霊に遭遇してしまって、わざわざ住人仲間のめちゃ眼力の強い子に追い払ってもらった。眼力だけで幽霊を追い払うとか、なにその忍法?


「な、なんかすごい叫んでたけど大丈夫っ!?」


 廊下の角から住人仲間がひょっこりと顔を出す。

 今年の春、私と同じタイミングで少女九龍城に引っ越してきた女の子、鵜飼舞鈴(うかい まりん)さんだ。

 私と鵜飼さんは部屋が近いもの同士で、お互いの荷解を手伝い合った間柄である。

 しかも地方出身という共通点があり、それからも『よく話し合うお隣さん』として仲良くさせていただいているが、いかにも田舎から出てきましたって感じの私と違って、鵜飼さんはびっくりするほど垢抜けている。


 メイクはナチュラルで微かに整える程度。下手したら野暮ったく見えてしまう黒髪ロングストレートも、鵜飼さんにかかると少女漫画のヒロインもかくやという雰囲気に仕上がる。アイドルみたいなパッチリ目ではなく、狐を彷彿とさせるようなほっそり目をしているところに微かな色気を感じずにはいられない。

 こういう子なら素敵な恋の相手もよりどりみどりなんだろうなぁ……ちょっと恥ずかしいけど可愛くなる方法とか教えてもらおうかなぁ……いやいや、そんな暢気なことを考えている場合じゃない。


「……だ、大丈夫」

「鈴の音も聞こえたんだけど、もしかしてキーホルダーでも落ちたの?」

「す、鈴っ!?」


 どうやら腰を抜かしたときに鈴が鳴ってしまったらしい。

 そりゃあ、床板に生尻をパァンッって打ち付けたら鈴だって鳴るよ!


「い、いや……なんでもないよ……」

「そう? 部屋の鍵とかなくしてたら大変じゃないか?」

「へ、平気だから……」


 ちゃりん♪

 立ち上がった拍子にスカートの内側に隠した鈴がまたもや鳴ってしまう。

 あからさまに心の動揺が体の動きに出てしまっていた。


「……なんか変なところから音しなかった?」


 鵜飼さんがほっそりとした目をさらに細めて私の下半身をじっと見つめてくる。

 それから、彼女は今までに見たことのないにやけ顔をして聞いてきた。


「まさか、エロいところに鈴をつけてたりとか?」

「んなっ……んなわけあるかーっ!」


 鈴の音一つからなんて想像をしてるんだ、この人は!?

 見た目に反してスケベなの? なんなの?


「まあまあ、そんなマジになって否定しなくてもね? 結局は性癖なんて人それぞれなんだから、私は百地さんが人前でエッチなオモチャを使っていても気にしないよ。人の迷惑にならない範囲なら、いくらでも性欲を満たしてもらって構わないから」

「いや、だからね……」


 未だに足がぷるぷるしている私をこの場に残して、鵜飼さんは笑顔で手を振りながら去って行ってしまった。

 せっかく仲良くなってきたのに変な勘違いを……。

 でも、忍者であることがバレるよりはマシかもしれない。


 正体を一般人に知られたら最後、師匠からとんでもないお仕置きをされることになる。中学生のときなんか、1週間の山岳サバイバル(パンツ一丁でスタート)をやらされて、縄張りの主であるヒグマとガチンコバトルをする羽目になった。

 師匠の忍術は人の心を覗き見るため、嘘をついてしらを切ることができない。少なくとも今の時点で、無様に鈴を鳴らしてしまった分のお仕置きは受けることになるだろう。今から帰省したときのことを考えると憂鬱だ。


 鵜飼さんからちょっと変に思われるのは必要な犠牲だった。

 私はそう割り切ることにしたのだけど、しばらくして少女九龍城で変な噂が流れ始めた。


 ×


「うーかーいーさーんっ!!」


 ドアを押し開けて、返事も待たずに彼女の部屋へ踏み込む。

 鵜飼さんはキャミソール姿で出窓に腰掛けて、足の爪に塗られた真っ赤なペディキュアをふーふーして乾かしている最中だった。

 両手の爪にはすでに同じ色のマニキュアが塗られている。今日は三連休の初日なので、これから始まる休日を楽しむため、うっきうきでネイルアートを仕上げたのだろう。少女九龍城のうらぶれた六畳の和室も、鵜飼さんがいるだけで古民家ネイルアート屋さんに見えてくるから不思議だ。


「あれ? どうしたの、百地さん?」


 ペディキュアを乾かしていた鵜飼さんが私の方にちらりと流し目を送る。

 悪びれた雰囲気はなく、むしろからかっているようにすら見えた。


「噂を流したの、鵜飼さんでしょ! 私が人前でエロいオモチャを仕込んでるって!」

「あー、あの噂?」


 素っ気ない態度で聞き流す鵜飼さん。


 彼女に鈴の音を聞かれてから一週間で、私はすっかりセルフ羞恥プレイ大好きの変態女子高生という扱いになってしまった。

 この前なんか、自分も同じような趣味を持っているとかなんとかと、あまりよく知らない先輩住人から声をかけられた。

 私は周りに噂は事実無根だと言って廻ったが、住人仲間たちは「この少女九龍城では割りとソフトな方だから気にすることないよ」と取り合ってもらえない始末だ。

 忍者であることがバレなかったのは不幸中の幸いだけど、かといって変態女子高生呼ばわりされるのは御免被る。鵜飼さんに反省した様子がない以上、彼女を徹底的にこらしめて、責任を持って噂を否定してもらうしかない。


 手段は……百合だ!


 この少女九龍城は女の子しかいないやら、人と変わっていることを気にする空気が一切ないやらで、女の子同士で付き合うことに抵抗がない子が多い。それどころか、ちょっと興味があるから試しに一回……なんてノリの子も結構いる。

 私はくノ一なので色仕掛けもそれなりに使える。耐える訓練を受けたプロ相手には通用しないが、そこら辺の女子高生を……しかも百合的な感情に流されやすい相手をメロメロにするなんて赤子の手をひねるくらい簡単だ。

 否、赤子の手をひねるのは罪悪感が半端じゃないので、むしろ鵜飼さんを百合的に屈服させる方がよっぽど簡単と言える。


 さてと、軽く反省させちゃいますかね。

 鵜飼さんに近づこうと一歩踏み出した瞬間だった。

 彼女の右手が素早く動いたかと思うと、猛スピードで飛んできた太い荒縄が私の体に巻き付いてきたのだ。

 私は反射的に荒縄をふりほどこうとする。しかし、鵜飼さんが手首を素早くひねると、荒縄は一瞬にして私を亀甲縛りの形に食い込んでしまった。亀甲縛りはギチギチと音を立てるほどキツく、どう考えても普通の女子高生の仕業ではない。


「中学時代の体操服に真っ赤な荒縄ってのもなかなか素敵なんじゃない?」


 両手足までも拘束されて、床に転がった私を鵜飼さんが見下ろす。

 彼女の全身からはただ者ではないオーラが隠す気もなくあふれ出ていた。

 それに対して、中学時代の体操服(寝間着にするために持ってきた)で芋虫みたいに転がされている私の情けなさときたら……。


「鵜飼さん、あなた……まさか――」

「今頃気づいたの?」


 鵜飼さんが優しい笑みで私を見下ろす。

 彼女の笑みから感じられる優しさは、弱者に対する……自分に負けたものに対する哀れみに他ならなかった。


「私は甲賀忍者だもの。伊賀忍者がいると分かったら格付けせずにはいられないよね?」

「うぐぐ……甲賀の人間に後れを取るなんて……」


 里の師匠に知らされたら、死ぬよりも酷い目に遭わされるに違いない。中学のときの1週間なんてものではなく、きっと丸1年はみっちりしごかれることになるだろう。そして少女九龍城にも戻ってこられなくなるはずだ。

 私の忍術を使ったら、これくらいのピンチは切り抜けられる。

 でも、できることなら使いたくはなかった。

 簡単な解決法が使えないとなると、ここは為す術なしの演技で油断させるが吉か。


「そーれ♪」


 鵜飼さんが私の体に馬乗りになり、体操服の上着に手を掛ける。

 荒縄でギチギチに押さえつけられているそれを彼女は無理やりはだけさせた。

 何の色気もないスポブラが露わになり、汗ばんだ肌が外気に触れてヒヤッとする。

 鵜飼さんが両手をわきわきさせると、彼女の手の平も急速に汗ばんできた。

 いや、汗ばんできたなんてレベルじゃない。

 彼女の手はハチミツに両手を浸したような有様に変貌していた。


「ふふふ、これぞ私の忍法ぬるぬる地獄! 私は手の平からローションのようにぬるぬるした液体を出すことができてね……しかも、この液体はとろろのような痒みを引き起こし、触られたものに地獄のようなもどかしさを味わわせるってわけ♪」

「なにそのエロ漫画に出てくるみたいな忍術!?」

「人間は痛みに耐える訓練はできるけど、痒みに耐える訓練はできない……って聞いたことがあるでしょ?」

「いや、ないけど……」


 ローションまみれの手がスポブラの上から私の胸を揉みしだき始める。

 素っ気ないスポブラはあっという間にローションを吸い取り、水に濡れた和紙みたいにスケスケになってしまった。薄水色の生地に肌の色が透けて、さして大きくもない私の胸の形をくっきりと浮かび上がらせた。


「うっ……か、かゆっ……」


 ローションに含まれている痒み成分で肌がピリピリし始める。

 その痒みは徐々に胸の一部分に集中してきた。

 私は下唇を噛みしめ、未知の苦痛に耐えようと試みる。

 鵜飼さんがうっとりとした目で見下ろしながら、スポブラの下に手を滑り込ませてきた。


「あれれ? なんだか硬くなってない?」

「そ、それは生理現象だから! 鵜飼さんだって女なんだから分かるでしょ!」

「硬くなるのは生理現象かもしれないけど、気持ちよがってるのは事実じゃない?」


 真っ赤なマニキュアが塗られた指先がくるりくるりと円を描く。

 しかし、硬くなった場所には決して触れようとはしなかった。

 それがあまりにもどかしくて、私は全身が暴れ出しそうになってしまう。


「き、気持ちよくなんて……」

「人間は苦痛に耐えるようにはなれても、快楽に耐えるようにはなれないの。ほら、さっさと負けを認めて楽になったら? そうしたら、このビンビンに硬くなった百地さんの可愛いところ、思いっきりいじってあげるんだけどなぁ……」

「……わ、私は快楽になんか負けない!」


 口ではそう言いつつも、実際のところは今にも負けそうな心境だった。

 さっきから全身がビクビクしっぱなしで、もがけばもがくほど荒縄が食い込んでくる。

 口の端から垂れたよだれが畳に小さな水たまりを作っていた。


「ふうん、意外と耐えるんだ」


 鵜飼さんがスポブラの下から手を抜き取る。

 彼女の手の平は分泌されたローションと私の汗がない交ぜになり、さらにトロトロになってむせかえるような匂いを放っていた。


「私には百合の趣味はないけど、伊賀忍者を倒すためならしかたない。百地さん、今から私なしには生きられない体にしてあげる。上半身の痒みなんかとは比べものにならないから、覚悟だけはしておいてね?」


 鵜飼さんの手がズボンの中に滑り込んでくる。

 そ、それだけは本気でまずいっ!

 くっ……仕方ない……。

 この術だけは使いたくなかったけど――


「忍法動物変化っ!!」

「動物変化? 今更、そんな古典的な忍術で――」


 どろん、と私の体が白い煙に包まれる。

 辺りに広がった白い煙が晴れたとき、私は体長2メートル、体重200キロを超える巨大マウンテンゴリラに変身していた。

 体を縛っていた荒縄は古びた輪ゴムのようにちぎれ飛び、痒みを引き起こすローションはふさふさとした体毛によって弾かれている。対人間を想定した忍術など、最強の霊長類であるゴリラには通用しないのだ。

 これは流石に予想外だったのか、鵜飼さんは唖然とその場に尻餅をついていた。


「な、なんでゴリラ!? 忍者が変身するならガマガエルじゃないの!?」

「ウホ(普通に考えてガマガエルよりゴリラの方が強いでしょ)」


 忍者のイメージを守れていないのは分かっている。

 だから、この忍術を安易に使いたくはなかったのだ。

 まあ、使いたくなかった一番の理由はゴリラの姿になるのに抵抗があるからだけど、それでも甲賀忍者に負けて師匠からお仕置きされるよりはマシだ。少女九龍城での生活もまだまだ始まったばかり。私は都会のおしゃれライフを全然堪能できていない。こんなところで里に連れ戻されるわけにはいかないのだ。


「これでも喰らえ!」


 鵜飼さんが隠し持っていた手裏剣を投げつけてくる。

 私はそれを人差し指と中指で挟んで受け止めた。


「ウホ!(効かない……ゴリラだから!)」

「だったら、これなら!」


 鵜飼さんが今度は手の平にたまったローションを銃弾のように飛ばしてくる。

 ローションの弾丸は私の目に命中したが、ひるみもしなかったし、痒みも感じなかった。


「ウホ!(効かない……ゴリラだから!)」

「こ、こんなに強いの……」


 露骨にうろたえる鵜飼さん。

 私はキングコングよろしく彼女の胴体を片手でつかんだ。


「ウホウホ(私はスカートの中に鈴を吊して、鈴を鳴らさないで生活する訓練をしていただけなの。ちゃんと住人仲間たちの誤解を解いてくれるよね、鵜飼さん? もちろん、私が忍者であることはちゃんと伏せて……)」

「あ、あはは……分かりました……なんて言ってるかは分かんないけど……」

「ふんっ!」


 脳天に軽くデコピンを入れて、鵜飼さんを気絶させる。

 私はゴリラから人間の姿に戻ると、甲賀忍者をやっつけた証拠として、気絶している彼女の映像をLINEで師匠に送っておいた。


「うっ……かゆっ……」


 人間の姿に戻ってきたせいか、胸と股間辺りの痒みが一気にぶり返してきた。

 今日は丸一日、そわそわすることになりそうだ。


 ×


 それから数日かけて、私は鵜飼さんが誤解を解いて廻るのを監視した。

 少女九龍城を歩き回りながら、噂には根も葉もないこと、噂の出所は自分であることを説明している彼女は、まさにセルフ市中引き回しといった光景で、そのおかげで私が変態女子高生であるという誤解はすぐに解けることになった。

 そんな一方、今度は「少女九龍城にゴリラが出没する」という噂が流れたのだけど、鵜飼さんは関与を否定している。いやいや、あなた以外に誰がゴリラを目撃したんですかと! これは今後も彼女を定期的に懲らしめていく必要がありそうだ。


 私は師匠からお仕置きされることはなかった。

 甲賀忍者を返り討ちにしたのはアッパレだけど、先に正体を見破られているのでプラマイゼロ。なので、お仕置きを受けることもなかったけど、特別にほめられることもなかった。こちとら時代遅れになりつつあるタピオカミルクティーすら満足に飲めていないので、おとがめなしで本当に助かった。


 さて、鵜飼さんのその後についてなのだけど……。


「ねえねえ、あなたも私のゴッドハンドで天国を味わってみない?」

「ええー? いきなりそんなこと言われてもぉ……」

「とかなんとか言って、意外と満更でもない感じ? ほら、ちょっと試してみるだけ――」

「鵜飼さん、なにやってんの?」


 食堂前の廊下で鵜飼さんがナンパしているところに割り込む。

 ナンパされていた女の子は、気まずくなったのかそそくさと逃げていった。

 鵜飼さんをじろりとにらみつけると、彼女はしらばっくれた顔で視線を逸らした。


「い、いいでしょ、ちょっと遊ぶくらい? 忍術で犯罪してるわけじゃないし……」

「百合の趣味はないって言ってなかったっけ?」

「えへへ、それが百地さんを責めたときに意外と楽しんでる自分に気づいちゃって……」

「私で目覚めないでよ、馬鹿!」


 国民的美少女フェイスをだらしなくヘラヘラさせている鵜飼さん。

 この子、本当に懲りないな!

 きっとこの美少女フェイスに騙されて、いいように翻弄された人間も多いのだろう。


「忍術を悪用するようなら甲賀の里に報告するよ?」

「伊賀忍者のくせに甲賀へ告げ口するの!?」

「あなたが無様に気絶してる映像を甲賀に送りつけてもいいんだけど?」

「くっ……ここはひとまず退散!」


 鵜飼さんが懐から煙幕玉を取り出し、それを床にたたきつける。

 周囲が真っ白な煙に包まれたかと思うと、彼女はあっという間に姿を消してしまった。


 しゃにむに追いかけようとして思いとどまる。

 お化けに驚いて鈴を鳴らした件のせいで、私はスカートの中の鈴を以前の二倍に増やされていた。大ざっぱに跳んだり跳ねたりして鈴を鳴らしたら、今度こそ正真正銘の変態女子高生として噂されてしまうことだろう。

 それに私の動物変化は人前で使うことはできない。純粋なパワーでは鵜飼さんを圧倒できるだろうけど、一見すると危険な凶器に見えない彼女のローションの方が時と場所を選ばない。ある意味、忍術合戦は手の内がバレてからが勝負なのである。ここで安易に追いかけたら、案外やられるのは私の方なのかもしれない。


 大昔から互いをライバル視してきた伊賀忍者と甲賀忍者。

 その戦いは少女九龍城でも延々と続けていくことになりそうだ。


(おしまい)

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