浅見くんとエンジくん
――やりたいゲームある?
光る四角い画面の中、エンジくんからのメッセージがぼんやりと浮かび上がる。
エンジくんと一緒に攻略していたゾンビと戦うゲームが終盤を迎えつつあるので、次のゲームタイトルを模索しているところだ。
エンジくんとは同じ学校で隣のクラスに居るのに、対面で話すことは滅多にない。
彼は桃子さんの護衛という名目で転校してきたらしいので、彼女の側を離れることは基本的にない。だから普段、僕とエンジくんはLINEとゲーム内でやりとりをしている。……同じ学校で隣のクラスにいるのに関わらず、である。
ネットの友人と変わらないよなぁ。そう思いつつ、この関係は大変居心地が良くて気に入っている。
何よりエンジくんとは趣味嗜好が似ていて、ゲームのプレイに関しても相性がいい。
欲しいタイミングで回復をくれたり、僕が遠距離武器を使えば、彼が近接武器で敵に真っ向から切り込んでいく。僕とエンジくんの立場が入れ替わっても、違和感なくのめりこめる。背中を任せていられる。
今まで誰かとゲームをしていて、こんなに楽しく思えたことはない。
僕は気になるタイトルをいくつか挙げておいた。
そのままベッドに横になると、ゲームアプリを立ち上げて――画面端の日付を確認して顔をしかめた。
「明後日は体育祭かぁ……」
うちの学校は三学年二クラスずつしかないから、一組と二組で分けた紅白戦になる。ちなみに僕たち二組は白組だ。
二年のプログラムは障害物競走になっているから、九鬼くんも尋常じゃないほど気合が入っている。
どっちにしろ僕にはチーム貢献は出来なさそうなので、スマホを充電して、次のゲームへと思いを馳せた。
体育祭当日。
雲ひとつ無い晴天で、僕たちは接戦を繰り広げていた。
「負けるわけにいかない……負けるわけには……」
後ろでブツブツ言っている九鬼くんを尻目に、僕は次の競技のために整列した。
いよいよ障害物競走だ。グラウンドに網と平均台、タイヤなんかが配置されていく。
「おっすー、浅見くん」
「エンジくん」
「返事遅れてごめんな。なににしようか決まらなくってさ」
「いつでもいいよ」
エンジくんは「サンキュ」とにっこり笑うと、体を伸ばし始めた。
「エンジくん最終グループだよね。鬼藤くんとか九鬼くんと同じ」
障害物競走は四人一グループで走ることになっていて、最終グループは速い人達で構成されていたはず。
エンジくんの運動神経がいいのは体育で知っていたけれど、九鬼くんも鬼藤くんも並外れた運動能力の持ち主だ。
「オレさー、こういうのめっちゃ得意なんだよね」
エンジくんは最後に背伸びをすると、「まあ見ててよ」とピースして見せた。
奇跡的にも同じグループの走者内で二番目にゴールに滑り込んだ僕は、自分のクラスのテントに戻ってきた。
「おつかれ、あさみん!」
「ありがとう、木崎さん」
「めっちゃかっこよかったよ」
木崎さんが僕の背中を思いっきり叩いて走り去っていった。女子の力とは思えないほど痛い。
叩かれたところをさすっていると、わっと歓声が上がった。
最終グループが走り始めたようだ。
顔を上げると、アクションゲームかと錯覚するような光景がそこにあった。
鬼藤くんと九鬼くんが速いのはわかるけれど、それを凌駕するほど、機敏に動き回るエンジくん。僕がさっきやっていた、同じ障害物を彼は何も不自由なく駆けている。
網の下を潜るときの低い姿勢での匍匐前進、平均台は三歩で跳ぶようにしていく。
――忍者、みたいだな。
そのまま誰も寄せ付けない速さで、エンジくんはゴールテープを切った。
興奮のままに、戻ってくるエンジくんに駆け寄ろうとしたら、男女問わずエンジくんの周りは人で埋め尽くされてしまった。……人混みはなかなか引かなそうだ。
さっきのエンジくんを見ていて、ふと忍者やアサシンのゲームをやりたいと思った。
彼はどうだろうか。スマホを起動して、LINEでメッセージを送ると、翌日、シンプルに「OK」と返ってきた。
ゲームの中でなら、彼にも引けを取らない動きが僕にもできる。
ちなみに体育祭は赤組の優勝で終わり、九鬼くんが隠れて涙していたのは僕だけの秘密にしておいてあげよう。
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