第4話 2
今日の五時限の体育は、女子はバレーボールで男子は水泳。
さっきまで体育館でボールを追いかけていたけれど、暑さのため休憩を挟むことになった。
体育は二クラス合同だから、それぞれ大なり小なりグループに分かれて過ごしている。わたしは千和と体育館から出て、風に当たって涼んでいた。それでも体に籠った熱はなかなか引かなくて、額には汗がぷつぷつと浮かんでくる。……夏本番はこれからだというのに、思いやられるなぁ。
「男子のほうでも見に行く?」
「うん」
途中水道で十分に喉を潤してから、校舎裏の日陰を歩いていくと、プールにたどり着いた。きらきら反射する水面を、見覚えのある金色の頭と赤色の頭が切り裂いていく。
派手に水しぶきが舞い上がる中、向こう側にいる先生と目が合った。
鬼藤くんと同じだけど違う。淡く輝く優しい金色の眼。
初めて会ったときのことが脳裏に鮮明に蘇る。
先生は、なんで眼を逸らさないんだろう。
そこに意味を見出したくて、期待してしまって、胸の奥が苦しくなる。
「エンジくん、鬼藤くんより泳ぐの速いね」
千和の一言で、思わず息を止めていたのに気付いた。
ほんの数秒のことだけれど、長い時間そうしていたように思える。
「……なにやってるんだろうね」
馬鹿らしいなぁと思いつつ、思わず笑ってしまう。
レースはエンジが数秒の差で勝って、歓喜の雄叫びを上げながら、掲げた拳を水面に叩き付けた。水面からたくさんの飛沫が光を反射させながら舞う。いいなぁ、プール。泳ぐのも大して得意じゃないけど、この暑さだったらさぞ気持ちがいいことだと思う。
鬼藤くんの舌打ちが、すぐ近くで聞こえてきそうだ。
エンジは瞬発力が鬼藤くんより優れているみたいで、スピードを測るものは鬼藤くんよりもいい成績を残していることが多い。毎回二人が張り合っているものだから、周りも賭けなんてしている始末だ。
「エンジくーん、鬼藤くーん」
千和が右手を大きく振ると、気付いたエンジが寄ってきた。プール側は高く造られているので、エンジがしゃがみこむ。
「見た見た? オレさいっこーにかっこよかったでしょ?」
「否定はしないわ」
「んもー、桃子ったら素直じゃないな」
「たまーにはかっこいいね、エンジくん」
「千和まで!」
エンジが指を弾くと、水滴が飛んできた。熱を帯びたほっぺに、冷気が気持ちいい。
「もー」
「気持ちいいでしょ」
「髪は濡らしたくないんですー!」
千和がエンジの横から、プールへと顔を覗かせる。
「……九鬼くん、いないのかな?」
「おいおい、また九鬼かよ」
「いいでしょー、べっつにー」
千和とエンジが言い合っているのを横目に、わたしも先生の姿を窺おうとしたら、鬼藤くんと目が合った。気付いた鬼藤くんにフッと顔を背けられて、彼は仲のいい男子の輪へと入っていった。
いつもの行動だけれど、毎回ほんの少し寂しいと思ってしまう。
歩行祭もあったし、先日は体育祭もあった。イベントを一緒に過ごして仲良くなれたような気になっていたけれど、実際はマイナスがゼロになっただけで、他のクラスメイトと比べたら壁を感じざるを得ない。
わたしの身分からしたら、受け入れて貰えただけすごいことなのだけれど、人間って生き物は果ての無い欲を持っているもので。もっと、もっと、仲良くなれるのではないか。鬼藤くんは望んでないかもしれないけど、わたしは仲良くなりたい。
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