第3話 6

 歩行祭は、島の一周するように敷かれた国道をひたすら歩いていく行事だ。一日目は宿泊施設までの四十キロを歩くことになっている。

 世の中には二十四時間で百キロ踏破するようなイベントもあるらしいから、それに比べたら多少は時間に余裕があるように思う。夜通し歩くのは避けられてよかった。 

 真夏ほどではないけれど、日差しは透き通っている。海沿いなので波間も反射してキラキラしているから、何度も眩しくて目を細めた。

 潮風のおかげで内に籠るような暑さはないけれど、その代わりに汗と混ざってベタベタする。気持ち悪くて、桃子ちゃん、鏡花ちゃんと何度か制汗スプレーを振りかけた。

 わたしに合わせてゆっくり歩いてもらっているから、スタートが早かったのにいつの間にか隣のクラスの子たちにも追い抜かれていく。

 毎回抜かれるグループに、鬼藤くんを横目で見ていくから、鬼藤くんはすこしイライラしている。鬼藤くんの運動能力なら、きっと先頭のグループすら追い越していてもおかしくないからだと思う。

 エンジくんも余裕そうだなぁ。

「やあ、桃子さん」

 潮の香りに混ざって、柔らかくて甘い香りが漂う。そして、桃子ちゃんに差し出された一輪のユリ。

「九鬼くん」

 桃子ちゃんは今日も「要らない」と一言で断る。

「残念。おや、今日は顔色がよくないね。お嬢さん」

 ぼーっと九鬼くんの顔を見ていたら、鏡花ちゃんが間に入ってくれた。

「あんまりジロジロと女の子の顔見ないでよ」

「それは失礼」

 鏡花ちゃんと手を繋いでいるから、差し出されたユリを受け取るのを悩んでいたら、鬼藤くんが代わりに受け取ってくれた。

「くーきー、置いてくよー?」

「今行くよ、それではまた」

 九鬼くんのグループの派手な鬼の女の子に呼ばれて、九鬼くんはウインクを投げてから去っていった。

 イケメンって、何しても絵になるよね。はしゃぐ元気がなくて、ほっぺの引きつった変な笑い方になった。

 鬼藤くんは受け取ったユリを眺めて、わたしのリュックに挿してくれた。

「エンジじゃねぇけど、アイツは辞めといたほうがいいと思う」

 先日の玄関での話しだろうか。首を傾げると、鬼藤くんはため息をひとつこぼした。

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