第1話 9
「ただいま」
夕方になって、オレはやっと帰ってきた。
「え、エンジ、その髪……」
広々とした玄関で出迎えてくれた桃子は、桃子が島に来た初日にオレが彼女にした反応と同じ反応をしている。
「似合うだろ」
鏡花ちゃんの家は美容室を経営していて、オレは放課後相談を持ちかけると、彼女は快諾してくれた。
ごわごわにならないように丁寧に染めてくれた髪は、落ち着いた深い赤色。
――オレと同じ名。オレの色。
「オレもケジメをつけようと思ってね」
まっすぐに桃子を見つめる。桃子も逸らしたりなんかしない。今まで、こうして互いの視線を正面切って交わしたことなんてなかった気がした。
「あんたの覚悟はわかった。だから、桃之助も命令だからじゃなくて、オレの意志でここに居ることにする。
――これでいいか、桃子」
大切に箱に入れられて、傷つかないように丁寧に扱われていた、オレが煩わしいと思っていたお姫様はもういないのだ。
桃子の鬼藤に立ち向かう姿を見ていて、オレも桃之助を恐れて思考停止するのを止めようと決意した。
「おかえり、エンジ」
桃子はオレの出した答えに、今まで見たこともない、とびっきりの笑顔をくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます