第1話 6

 白熱しているのはお姫さんと鬼藤くらいで、あとはやる気がないのかどんどん当てられていく。

 先生に振り分けられたチームはもうオレとお姫さんと犬対、鬼藤と取り巻き三人になってしまっている。

 オレと犬はお姫さんに当たらないように配慮しながら、なんとか避けていく。

 柔らかくて軽いボールだが、鬼藤が投げるとスピードが違う。当たれば多少なりとも痛みはあるだろう。

「猿と犬に守られてばかりとは、ずいぶんひ弱な桃太郎だな」

「あなたこそ、猿と犬すら倒せないような腕なんじゃなくて?」

 おどおどして桃之助の陰に隠れてた桃子からは想像できない喧嘩腰の言葉だ。

「エンジ、邪魔」

「邪魔とはひどいな」

 お姫さんと背中合わせにボールの行方を見張っていると、標的が変わった。

「いたっ」

 当てられた右手をかばうようにして、犬が小さく呻いた。

「千和!」

「だ、大丈夫……でも、ごめんね。当たっちゃった」

 護衛の三人の中で、運動が苦手なほうの犬にしては、よく頑張ったほうだった。

「気にすんな」

 オレは鬼藤の周りにいる男子にボールを当てると、跳ね返ってきたものを受け止めた。

「これでおあいこだよ、鬼のボスさん」

 委員長を選ぶ目的があるとはいえ、ドッジボールはそもそもチーム戦だ。勝つなら数を減らしていくしかない。

「ぶっ殺してやるよ、猿」

 鬼藤の気迫に背が冷たくなる。ほんとに、年下なのかこいつ。

 けれど、引くわけにはいかないんだよね。オレって。

 お姫さんから意識を逸らせた今がチャンスだ。

「うっきー、なんちゃって」

 助走をつけて、勢いよく投げつける。

 取り巻きの一人に勢いよく当たって、もう一度オレのところへとボールは返る……はずだったが、鬼藤がそれを止めた。

「うるぁあああ!!」

「あっぶねぇ!!」

 大砲の弾ように唸りをあげて、豪腕から放たれたボールが真横を通り抜けていく。

 おいおい、お姫さんにこれを当てるつもりか?

「……冗談じゃねぇぞ」

 外野へ行ったボールは、また鬼藤の元へ戻る。

 また弾丸のようなボールが、すれすれを飛んでいく。

 オレは陣地の空間をうまく使いながらそれを避けるものの、うまく攻撃に転じれずに焦れてきた。

「くっそ」

「なんだ、猿回しより容易いじゃねえか」

「当ててもねえのに、いきがってんじゃねえよ。オレはぜってぇ当たんねえ」

 犬、猿、雉。物語では動物として描かれているが、実際は人間より能力の優れた部族の長だった。楽々の家は代々身軽で、オレは今一族の中で親父の次に優れている。

 ――負けない自信はある。

 鬼藤の怒涛の攻めをかわしながら、昔のことを思い出した。

 桃之助とは物心つく前から傍にいて、幼い頃は家柄に関係なく遊んでいた。

 二人だとちゃんばらしたり探検したり、やんちゃなこともできたのに、お姫さんがくっついてくるとおままごとが始まるから鬱陶しく思ったものだ。

「くらえ」

 避けていても始まらない。一か八かボールへ手を伸ばす。

 受け止めれば、攻撃に転じられる。オレはボールの威力に圧倒されながらも、受け止めた――はずが、横から突き飛ばされて、ボールは床を転がった。


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