第1話
第1話 1
鬼ヶ島。
日本の西方の海に浮かぶ島。外周は約百キロほどで、美しい海や自然が多く残る。
観光地として栄えつつも、移住をする人は少なく人口は減少傾向。島の半数ほどは、昔から住む鬼と呼ばれる人々だ。
飛行機とバス、フェリーを乗り継ぐこと半日。さらに港から車で二十分程移動して、お姫さんはこれから住む別荘へとたどり着いた。
ほとんど座ってるだけなのに、足腰にくる長旅だ。
「着きましたよ、お姫さん」
キジの運転する黒塗りの高級車。その後部座席に、オレと膨れっ面のお姫さんが乗っている。
どんな表情をしていても美人なので、絵になるのがオレには羨ましい限りだ。
彼女は桃太郎の子孫に当たり、ここ鬼ヶ島は大変因縁のある場所。
過保護な彼女の兄君、桃之助の判断で、オレ達――物語の猿、犬、キジの子孫に当たる三人――は彼女の護衛として派遣されてきた。
「お兄ちゃん、あなたたちが一緒に来るなんて一言も言ってなかったわ」
「仕方がないでしょう、場所が場所なんだから」
「寮じゃなくって別荘に住むことを約束しただけで、かなり譲歩したと思うけど」
これはなかなか機嫌は直りそうにないな。オレはこういうのは面倒だから機嫌を直そうとは思わない。
キジとバックミラー越しに目が合う。お姫さんの不機嫌に当てられてこっちも不機嫌だ。
眉間のくっきりした皺がなんとかしろと訴えている。
「あー……とりあえず降りてもらおうか。苦情はお兄様にでも頼むよ」
――オレ達だって、好きで来てるわけじゃないんだ。とまあ、さすがにそこまでは口にはしないけどね。
お姫さんはショルダーバッグと、来る途中に寄ったらしいドラッグストアの袋を手に提げて、足早に車を後にした。
大きい荷物は先に届いているから、特に手伝うこともなくオレは手ぶら。
「女って面倒くさいね、キジ」
「私からすれば、お前も十分に面倒だ」
なんだよ、その言い方。
思いがけない方向からの攻撃に苛立って、降りるときにちょっと乱暴にドアを閉めた。
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