サヨナラと言われた、君と出会った夏
@rindou3214
第1話
「サヨナラ、今まで楽しかったよ。ありがとう」
「なんで……なんでサヨナラだよ!これからもずっと一緒じゃないのかよ!」
我慢していた涙が頬を伝う。
「あなたといた時間は短かったけど、私にとって最高の思い出だった。楽しかった。私に少しの生きる力を与えてくれた。でもね、お別れなの」
彼女はそうして最後に俺と目を合わせた。
「ありがとう。大好き」
そうして彼女は……
日本にも夏という季節がやってきた。制服も夏服へと変わり、教室のエアコンが働き始めた。
俺、真紀一哉まきかずやはエアコンの効いた教室に入った。ひんやりとした空気を体全体で感じる。改めて夏になった実感が湧く。梅雨入り前だというのにこの暑さ、まじやばい。
教室にはクラスの人数の半分くらいがいたが、友達のいない俺にとってクラスメイトはただの同じ教室で勉強している赤の他人くらいの認識しかなかった。高二になってはや二ヶ月、クラスメイトの名前を覚えられない今日この頃である。
静かに自分の席に座って本を読む、授業を適当に受ける、家に帰る。俺の一日は何もない、と言うかなさすぎてびっくりするぐらいの一日だった。
でも今日は何かあるようだ。そう思ったのは、自分の机にカバンを置いた時だ。机の上に何かメモ用紙が貼られていた。
「なんだこれ?……っと、真紀君へ。放課後屋上に来てください。村川二葉むらかわふたば」
村川二葉。その名前は流石の俺でも知っている。容姿端麗で、成績もトップクラス。更にはスポーツ万能。友達も多く男子からも人気の高い、うちの高校の有名人だ。
村川も俺と同じクラスなのだが、俺は絶対に関わり合えるはずがないと思っていた。村川こそが本物の高嶺の花だった。それが俺の机に置き手紙?どう言う事だろうか。こんなに一気にラブコメ展開に普通入りますかね?あまり期待は出来ないな。
辺りを見渡すと村川は今日も沢山の女子に囲まれて話をしていた。しばらく眺めていたが特に俺の方を見るわけでもなかった。もしかしたら、誰かのいたずら?……えっ?俺もしかして虐められる?屋上でボコボコにされちゃう?怖ぇーよ、超怖い。
いつもはそこそこ頭に入ってくる授業も今日は手紙の事を考え過ぎたおかげで全く頭に入らなかった。そして気づけば放課後になっていた。
結局、今日一日村川とはいつも通り何もなかった。やっぱりいたずらか……。でも、もし本当に村川だったら……。そう思うと足は自然と屋上を目指していた。重い足を一歩、また一歩。屋上へと上がる階段の前まで来ていた。お願いだからいじめられませんように。心でそう願いながら、一段一段階段を上がって行く。
ドアノブを持ってふぅっと息を吐く。メッチャクチャ緊張する。これまで生まれてあまり人と関わらなかった俺にとってこんな経験はもちろん初めてだ。何度か息を大きく吐くと不思議と心が落ち着いて来た。よし今なら行ける。ドアを開ける。ギィーッと言う鈍い音と共に梅雨の前のジメッとした風が体に当たる。顔を上げるとそこには、今にも泣きそうな彼女の姿があった。
肩まで伸びた綺麗な髪の毛をなびかせ、彼女は立っていた。俺に気付いた時、彼女は少し笑顔になった。やっぱり村川は可愛いと思ってしまった。
「真紀君、来てくれてありがとう」
「えっと……。どうして俺を?」
今思っている一番の疑問を問いかけてみた。
「真紀君、口が固そうだから。私の相談を人に話したりしそうにないから。私この気持ちを誰かに絶対聞いて欲しくて、真紀君ならって思ったの。聞いてくれる?」
村川は目を赤く腫らしており、さっきまで泣いていたのかと思った。
「うん」
俺は別に拒否する理由がないと思うと、頷いた。別に拒否してメリットが生まれるわけではないだろう。告白じゃないのか、ちょっとショック。
「ありがと。真紀君はやっぱり優しいな。見た通りだよ」
「見た通り?俺そんなに優しそう?村川と関わった事ないよね?」
「うん。だけど私はずっと見てたよ。変な意味じゃなくてね。だから決めたの。相談するならこの人に、真紀君なら大丈夫だって」
そんなに俺を信用してくれているのかと思うと嬉しくなって来た。今までそんな風に俺を見てくれる人はいなかった。だから思った。こんなに優しい子を裏切りたくないと。自分を信用して彼女はこれから俺に話をする。こんな子を裏切ったりしたら、俺は最低なクソ野郎になってしまう。
「俺は、村川の話を誰にも言わない。どんな事を言われようが、受け入れる」
「そんな事言ってくれるのか……。本当に優しいな君は……」
彼女は涙を流した。そして……。
「私は今とっても死にたい。だから真紀君。あなたの力で私に生きる勇気をください。」
思っていたよりも重い相談だった。彼女は今確かに死にたいと、そう口にした。
「どうして死にたいと思う?」
「もう、こんな人生嫌なの。色々な人から注目されて、声をかけられ、私は普通に暮らしたいだけなのに。もう注目されるのは嫌なの。でも真紀君だけは違った」
「俺だけは?」
「私に何も関心せずに、注目をしない。私は本当はこんな人の隣に居たいんだって思えた。だから真紀君に、私の生きる勇気を出させて欲しい」
「俺はさっき、君に言った。どんな事も受け入れるって、俺は君に楽しく生きて欲しい。だから俺は君を助ける」
「やっぱり真紀君は……優しいな……」
そう言って彼女はその場に倒れた。
村川が倒れて一時間が経った。とっくに部活も終わりを迎え、校舎にいるのは俺と保健室のベッドで寝ている村川だけだった。俺は村川の隣で彼女を見ながら考えていた。
村川に生きる勇気を与える。その為には何が必要か、何をしてあげるべきか。
「……ん?あれ?ここは……」
「起きたか、村川」
「あれ?真紀君?どうして私、保健室に?」
「お前が俺に相談した後に倒れたんだよ。緊張し過ぎて疲れが溜まっていたんだと思う」
「そうなんだ……」
「村川、俺さ熱くなるキャラとかじゃないけどさお前の為に頑張るから」
「うん、頼もしいよ。ありがとう。これからよろしくね」
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