異世界ファンタジー ぐーたらスケルトン
真っ白な空間だったな。まるでノイローゼになったゲームデザイナーがやっつけで作ったような空間だ。
距離も分からない、方向も分からない。そもそも浮遊感があるのみで、自身すら本当に存在しているのか分からない。考える事が出来ているから、在るとは信じたい。
成る程、虚無とはこう云う事かい。
さて、『最終決戦』ってのがこの空間の原因だ。名前からは連想できる事は多いと思う。
西部のガンマンが睨め合っていたり、ヤバいミサイルがポンポン飛んでいたり、思い浮かべるモノはロクでも無いだろうが、大体そんな感じでやっぱりロクでも無いものだ。
俺の居たトコでは、人間界と魔界っていう二勢力が歪み合っていた訳さ。
それで魔界を率いる魔王に、勇者っていう殺し屋を、女神っていうパッパラパーが押し付ける。それで人間勝利、魔王は大人しくなりめでたしめでたし……っていう展開数百年辺りのサイクルで毎度毎度繰り返されていた訳よ。
あ、俺魔王ね。元人間の。
一応日本の健全な男子高校生だったんだけどよ、森で偶然見つけたエロ本がどうやら異世界へ繋がる魔道書だったらしいんだわ。
しかもエロ本の魔力で俺は馬鹿じゃねーのってレベルの最強ステータスになってたね。
やっぱエロの力って偉大だわ。
で、話を戻すとエロ本で召喚された先が剣と魔法のファンタジーな世界だったんだ。お約束過ぎるとは思ったけど、道端にエロ本が落ちていたら、健全な男子高校生はそりゃ読むさ。
後から知ったんだが、魔王が強いっぽいから女神が異世界から強い勇者を呼べって事らしい。
んで、真っ黒いローブ着た爺さんが奴隷にする魔法を突然唱えてきたんだ。それがエロ本の力で得た最強ステータスで弾かれると、もう爺さんメッチャビビって、口では比喩出来ない珍妙な表情をしていたね。
確か今度はやたら重そうな肩パットを付けた銀ギラ銀の騎士が、腰の剣を振りかざして襲い掛かってきたんだ。
そういや剣のロングソード、ショートソードの違いは騎兵か歩兵かの違いしか無く、ロングソードよりも長いショートソードもあるんだなぁと、剣を見つつ長い口上を聞き流しながら聞いていたのね。
結局自分の力に自信が無い頃だったし、避けちゃったけど、その避ける速度を以って、無駄にデカい肩パットにぶつかって騎士が吹っ飛んで壁にめり込んだね。珍妙な表情で。
その後は乱闘とかして、死屍累々(殺してはいないけど)になった後、宝物庫掻っ攫って出て来た訳さ。
そして、気付くとトントン拍子に魔王になっていた。あの後国際指名手配されちゃったのが切っ掛けかなぁ。
こういう事もあって人類の敵になってみた俺なんだけどさ、魔王だけに勇者が鉄砲玉よろしくバンバンやって来るね。
さて人ってのは何度も同じ事をしていれば飽きが来るもんだ。例えばカレーを作り過ぎて、でも残す訳にもいかないから毎日カレーカレーカレー。俺はそれが勇者勇者勇者だっただけさ。
カレーを食べ続けているとたまには別のものを食べたくなって、コロッケにしたりスープにしたりと、色々工夫をするもんで、俺だってたまには違う勇者と戦ってみたかった。
毎回プレス機で型取りしてきたかのように、同じようなタイプのばっかり来るんだ。そりゃ作り手に文句も言いたくなるよ。
ところが文句を言いたくても通信手段すら碌に無いときた。呼ぶ時は一方的なのに、カスタマーサービスをちょっとは見直せとも言いたくなるが、それすらオゾン層の向こう側で知らんぷりだよ。
だから俺は考えた。相手に出てこざるを得ない状況を作り出してしまえば良いと。
そんな訳で俺は嫌がらせをする事にしたんだ。古典とかだと脱いだり脱がせたり楽しい事やって出てこさせるのが一般的だけどさ、自分で『女神』なんて言っちゃっているように、プライドの高そうな奴はこっちの方が都合がいい。それに俺は人を楽しませるより嫌がらせる事の方が好きだ。
ではメガミサマのよう天上人が嫌がる事とはなんだろう。俺は、立場を乗っ取られる事だと思う。
何もしなくても良いくせに英雄を仕立て上げ、自分に信仰を集めるように仕向ける。その癖本人は表に決して出ようとしない。その態度が、俺には凄く、人間を下に見ているように思えてならなかったものだ。
先ず俺は、人間を辞める事からはじめた。
立場を乗っ取るって事は成り上がる規模が大きいほど大変なものさ。別に人間である事が嫌だとか、選民意識があるだとかそんなものじゃなかったんだけどね。
ただ、もうその頃には人間の姿をしたナニカだったよ。恐らく俺はスーパーヒーローの気持ちが一番解っていたと思う。
異様に力を持った只の人間って言えばそれまでなんだけど、どうも周りに及ぼす影響が強すぎてね。たらればの話になっちゃうんだけど、元の世界に帰れたとしても俺は人として過ごせなかったろうさ。誰だって、核ミサイルを家の隣に置きたくないしね。
そんな事情もあって、魔王の権限でさくっと人間を辞めてスケルトンになったんだ。
いやいや。これでもメリットあるんだよ?スケルトンはアンデッドってくらいだから、破壊されない限り永久に生きる事が出来る。傷とかも内部のエネルギーを変換して自己回復するし。
そして何より、以外にも皮肉なことにアンデッドは最も神に近い種族なんだ。
人間の常識じゃ、アンデッドってヤツは人間の負の感情や悪霊等が憑りついたものだって言われている。他の論が出なかったのは教会勢力の大人な事情もあるけど、半分当たっているから信じちゃうのさ。
俺も魔界に来てから初めて知ったんだけどね。アンデッドが動くには強い感情の力が必要だ。人間が動くには核である魂、媒体である肉体、そして肉体と魂を繋ぐ精神の三つが必要だ。
そして強い感情は強靭な精神となり、(色々なあ要素が混ざっているが七割程は魔力なのでここでは『魔力』と記す)精神が『魔力』に干渉して筋肉のような働きを成す。
だからぶっちゃけ、負の感情何て云うネガティブなものじゃなくても普通に動くのね。
でもポジティブな強い感情を持って死ぬ奴なんざ滅多に居ないから、無念だとか憎悪だとか、そういった負の感情で動く方がどうしても目立つんだよね。
ほら、なんか聞いた事ないかな?蘇った英雄の話とか、天界から戻ってきた教祖の話とか。絶対に死んでいる筈なのに一瞬だけ物凄く動いた人間とか。
あれとかはポジティブな念を受けたアンデッドの例な訳で、自身の感情の他にも他の人間の感情も混ざっている。だから下手すると生前より強化されてたりする訳なんだ。その手の話って蘇った後やたら強化されてるよね。
さて、つまりだ。
ながいながい年月を掛け、人々から物凄く想われるようになったアンデッドは、神にだって匹敵する力を持つ。だってその規模で思われることを『信仰』なんて人は呼ぶくらいだからねぇ。
一番の問題はこれが単なる思い付きのアイデアであって、女神のヤツが本当に干渉してくるのかは俺には分からなかった。
でもそうやって悩んでいたら何も進めないしね。
それで、女神釣れちゃったんだ。ちょろすぎだろ女神。実は己に疑心暗鬼気味で、「もう女神来なくても良いんじゃないかな」程度に思ってたよ。
でも向こうも周りも戦う気満々だったし、行く事にしたんだよ。よっこらせってね。俺が負けても最悪、魔界と人間界は女神から解放された。十分やっていける。
それでも、やっぱり勝ちたいよね。
……って、無いはずの表情筋緩めていたらご覧の有様だよ。いや、俺、勝ってたからね。女神が何段階も変身するわ、今までの勇者の亡霊持ってくるわ、なんか謎の主人公補正付くわってあっても、惨めに成る程全部力で踏みにじってやったさ。
それで「こんなヤツの為に。あ~、アホらしい」って思い始めた頃だったかな。あいつ、一瞬メロンみたく顔に血管と神経浮かび上がらせて、なんかウッキョキョイって猿みたいな声を張り上げて呪文にもならない感情を無理矢理力にしやがった。
うん。(腐ってなかった時期は無かったと思うけど)腐っても勇者と魔王と云う世界の概念を作り出した戦乱の『神族』だ。世界と親和性がアホみたいに高かったのね。
俺が大衆から支持されて神になっているけど、あいつは無理矢理、自分以外の何かが存在できる力をひっぺがして、自分の力に還元させやがった。その光景はグロイっていうか、醜悪って言った方が正しいかな。
無理矢理自分と同調する気のないモノを片っ端から貪るから内部から肥大。ボコボコと変な病気にかかった野菜みたいにコブが出てきて、しかもそれが少し割れてデロリとした何かが出てきている。
更に厄介な事に、力そのものは強大になっているから自分より上位の存在……主神とか宇宙の意思とか物理法則とかそういうのまで崩壊させ、取り込んでいくし、俺自身も少しずつ力は奪われていくわで、でも聞く耳持たねーのアイツ。自我が吹っ飛んでやがるから。
俺はこれ以上ないくらい必死になった。もう駄目って分かっているのに、俺を神にしてくれた皆が後ろに居るから頑張れた。こんなに頑張っているんだから良いだろ、さっさと止まれ。もう勇者も魔王も良いだろ、それでみんな上手くやってるんだ。寧ろ前より良くなっているんだ。だから、お前なんかが今更出しゃばってんじゃねぇ!
……そう思ってたのに、ご覧の有様さ。あの女神、最初から最後まで自分の事しか考えてなかったなぁ。
女神はこの世界の存在を喰らい、爆弾になって汚い花火を散らし消滅。世界も消滅。この綺麗さっぱりなこの空間で、存在の残りカスになった俺がプカプカ浮いてるひでぇ状況だ。
もう何もない。久しぶりに寝ようかな。
なんか疲れたよ。
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