銀髪少女と超常犬

@rukun

第一章 緑の弾丸(一)

 

 橙色に染まった、この大港街の一角で、バンドネオンの蛇腹が伸び縮みしながらリズムを刻み、ピアノは不規則にも思えるがうっとりするような音を奏で、ギターは深みのある低音で音のコーディネートをしていた。そこにいた人々は、男女が一対となり、少しずつ踊り始めていた。このダンスは男性が女性を主導し、脚と脚が追いかけ合う魅惑のダンスと呼べるものであるが、人々は顔をほころばせ、楽しげに踊っていた。

 石畳の地面の隅っこで、銀髪で小さい鼻をした十八歳くらいの少女が、黒くて牙の大きい、小さい冷蔵庫ほどの大きさの犬と二人で佇んでいた。

 「乾いたパンみてえに固まってねえでよ、踊ろうぜ」

 なんと太った黒い犬が、野太いがしゃがれた声で喋った。

 「踊るって誰とよ」

 銀髪の少女の声ははっきりとしているが透き通っていた。

 「俺に決まってんだろうよぉ」

 黒い犬はその小さいしっぽよりも尻そのものを左右に大きく振っていた。

 「バカいわないで。犬とダンスなんて周りから見たら……キャ!」

 全てを言い切る前に、黒い犬が銀髪の少女の腕を咥え、頭を勢いよく振り上げると、少女の身体は宙を何回転かして、ダンスパーティの方へきれいに足から着地した。楽器の奏者らがびっくりして、変な音を出してしまったのち、音色とダンスが止まった。

 だが、一人の男性が拍手をしながらすばらしいアクロバットだと言うと、立て続けに別の拍手が起こり、気づけば少女は多くの歓声を浴びていた。普段目立たない銀髪の少女は頬を赤らめ、

 「あ、ありがとう」

 と少しどもりながら言うのみだった。

 黒い犬がまた尻を振りながら

 「お前らはそんなもんじゃないだろ、もっと踊り狂いやがれ!」

 と言うと、情熱的な音楽が流れ始め、人々はさらに激しく踊り始めた。黒い犬は軽快にステップを踏み、銀髪の少女は仕方なさそうに、

 「バカね、どこにムードメーカーのブルドッグがいるのよ」

と言い、でも少しにやけながら、黒い犬の前足に合わせてステップを踏み始めた。

 

 音楽がますます盛り上がり、弦楽器がさっきとはうってかわって高い音を響かせ始めた時、踊る人々の横をバスケットボールほどの大きさをした緑色の塊が、目もくらむほどの速さで走り抜け、人々はその勢いで横に一回転した。それから一秒もせず、家ひとつ分の大きさをした、白い正方形の箱がガタガタ言いながら、同じスピードで横切り、人々は突風で一メートルほど突き飛ばされた。人々も楽器も倒れたが、銀髪の少女だけは倒れずに二本足で着地していた。

 黒い犬は牙を剥きながら立ち上がり、

 「てめぇら、二度もダンス止められてはらわた煮えくりかえってんだろ、なんだか分からねえけど、この報いは俺、レイブン様が受けさせてやる。いくぜイリナ!」

 と言うと、

 「待って、私踊って疲れているところよ。」

 と銀髪の少女イリナは制止しようとしたが、黒い犬レイブンは半ば強引にイリナを背中に乗せ、緑の塊と白い鉄箱を追いかけていった。

 残された人々は茫然と口を開けながら石畳の地面に座っていた。

 

 

 

 














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