才能

三裏

第1話

私は、絵を描くことが好きで小学生の頃から描いている。

決してうまいとは言えないけれどそれなりにできているから将来はイラストレーターになりたいと思っていた。思っていたのだ。


そう親友が「私も描いてみる」というまでは。

親友が私がやっているから絵を描きたいといった時は嬉しくて使わない画材をあげたりした。

でもそれが間違いで、私の判断ミスで、失敗だったのだ。


親友はたった数週間で私の十数年の努力をいともたやすく越えた。

それはもう万人受けしそうなのに独創的で、一瞬で親友が描いたとわかるような絵だった。

私は後悔したし絶望した。才能の前では努力なんて無意味だし、そんな才能を見た後で「イラストレーター」になるなんて言えなかった。


でも私は、それでも私はまだ私というイラストレーターをこの世にだしたかった。

出したくて悪いとはわかっていながらも私は親友に

「二人で描いたということにしてコンテストに応募しない?」といったのだ。

親友がいい人だということを利用して私は親友と描いたという事にしてコンテストに応募した。


私たちの絵は、親友の絵はもちろん金賞を貰い、賞金をもらい、私というイラストレーターはこの世に誕生した。

嬉しいと思う反面親友の才能を私のもののように振舞うことに罪悪感を覚えた。


そして高校を卒業して、二人でプロになりフリーとしてそこそこの額を稼げるようになった。

罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、親友の力ではあるがプロとしてデビューして居ることへの嬉しさでなんとか生活していた。


しかしそんな日々は突然終わる。

親友が「描けない」といったのだ。

最初は私とやるのが嫌になったのかと思ったが、親友の絵を見てわかった。個性のかけらもないつまらない絵、誰にでも描けそうな下手くそな絵、こんなの私にでも描ける。

とにかくこんな絵じゃ世の中に出せない。そう思って活動を休止した。


活動を休止して、二人でこれからどうするのか話し合った。

話し合っているうちに私はあることに気づいてしまった、私は親友が描けなくなっている事に喜びを感じている。親友が私と同じ立ち位置まで落ちてきていることに安心している。

本当は心配しなきゃいけないのに、親友が1日でもまた描けるように励まさないといけないのに、心の底から応援できない、親友が落ち込んでいて謝って来ているのに、「頑張れ」と言いながら描けないことが嬉しくてたまらない。


程なくして親友はまた描けるようになった、しかも前よりもさらに綺麗で芸術的な神々しい絵を。

また描けなくなってほしい、また私と同じ立ち位置に来てほしい、離れないでほしい、もう描かないでほしい。


手がなくなればもう描かなくなる。


私はいつしかそう思うようになった、描いている親友を見てこの手さえなければと何度も思うようになった。








そしてある晩私は親友の枕元に立ち───






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才能 三裏 @sino_xxx

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