3-5
「……見渡す限りの廃墟だねぇ」
移送を担当してくれた公安所有の白い小型
「なんだ。改まって」
「いや、
場所のせいもあってか、普段より落ち着いた調子で会話しながら、ロイは自身の装備を確認する。
二人がいるのはイースト三番街のさらに外側、ヴェストシティの外縁部だった。三番街からはそう遠くない場所だが、当然、通常の公安官の巡回ルートからは外れた地点だ。彼らが外縁にまで来ているのは、例の『赤目』という特殊個体討伐のためである。
「この辺りは居住する者も少ない場所らしいが、警戒は怠るな」
「ああ。公安官が魔法使いどころかチンピラに襲われて死んだとか洒落になんねーからな」
言ってロイは、手にしていた公安官専用拳銃、〈グレイ・ハウンド〉を帯革にあるホルスターにねじ込む。そして腰に付いている携帯用の電気灯を灯した。
今の時刻はちょうど十八時半。すでに日が落ち、辺りは暗い。先ほど時計台の鐘が鳴ったので、すでに魔法使いが活動を始める時間帯に入っている。夕方には地を這う霧もしっかりと出現しており、それも一段と濃かった。
「で、目撃地点はどこだっけ?」
「ここから東南へしばらく進んだところだ」
セルジオは制服の内ポケットにあった地図を抜き、広げる。そしてざっと方角とルートを見定めた。この地図は署長から受け取ったバインダーに入っていたもので、魔法使いの目撃地点と予想される縄張りが、それぞれクロスマークと円で記されていた。縄張りの範囲はそこそこ広い。
(ふむ……)
地図を見て、セルジオは胸中で思案する。
現在地から縄張りの範囲までは少々距離があるが、歩きでも支障はない距離だった。縄張りの範囲に入るだけなら、ここからなら二十分程度だろうか。無論、瓦礫などで道が完全に寸断されていなければ、だが。
「アテになんのかよ? こんな地図」
ロイが腕組みしながら地図を覗き込む。
「一応な」
答えて、セルジオは地図を畳んで制服の内ポケットに戻した。
この地図は、公安に保管されている中で最も新しいものの
区画放棄前にあったはずの建物も、崩れたり、外縁部の人間が取り壊したりで無くなっている箇所があると聞く。しかも場所によっては、道路の損傷が激しかったり、ここの住民が追加の建物を建てたりで道が行き止まりになっている場合もあるらしい。
目的地の直近まで車を着けてもらわなかったのは、そうした道路状況を鑑みてのこともある。
実際、ここから先は路面の状態が悪いようで、相当回り道しない限り、車がこれ以上入れそうにないのだ。自分たちが車に乗ってくれば回り道してでも車で進めただろうが、結局車がどこまで入れるかはわからないし、こんなところにシルトワーゲンを置いておいたら、何をされるかわかったものではない。
ちなみに、この任務に投入された人員は自分とロイの二人のみだ。これは主に公安省の決定であるらしかった。連携の取りやすさなどを考慮して、そもそも少数で行われやすい魔法使いの討伐だが、外縁部であることもあって最低限の人数というわけなのだろう。
「じゃ、行くか」
短く言って、ロイが歩き出す。だが彼の様子を、セルジオは怪訝に思っていた。
いつもなら、自分を抜擢した上の人間に対して、愚痴の一つでもこぼしそうなものだが。
「今日はえらく大人しいな。何か悪いものでも食べたか?」
ごく軽く、セルジオは尋ねる。
するとロイはその場で立ち止まり、くるりと振り向いて、にやりと笑って見せた。
「わかってねーなぁ。たまには殊勝にして、主任殿のご機嫌とっとかねーと、また別のとこ飛ばされちまうだろ? お前の下についてると楽だからな」
褒めていいのか叱っていいのか微妙な返答。まぁ、それをハッキリ言ってしまうあたりが彼らしいというかなんというか。
「……まったく」
セルジオは軽いため息とともにロイを追い越し、先へ進む。
だが後ろに付いてきたロイは、ものの三分と経たないうちに、結局愚痴をこぼしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます