籠女(綺堂談義其の三)
篠田 悠
序
かごめ かごめ かごのなかの とりは
いつ いつ でやる
よあけの ばんに
つると かめが すべった
うしろの しょうめん
だあれ
*
深夜、暗い路地に不気味な歌声が響いた。
買い物帰りの妊婦は、その声に振り返る。
誰も居ない。
おかしいなあ、今確実に、歌が聞こえたのに。
子供が遊んでいるのだろうか。
妊婦は再び歩き出す。
大きな影が、妊婦を覆った。
妊婦は空を見上げる。あっとした。屋根の上に、誰かがいる。
着物を着て、長い髪。
顔には、怪我でもしたのだろうか、包帯を巻いている。
妊婦は不自然な光景に、恐怖を覚える。
思わず身を固めるのと同時に、腹の子が動くのが分かった。
腹の子が蹴っている。
まだ、生まれるまで二週間もある筈だというのに。
激痛が襲う。
同時に、膣から羊水が滴り流れた。
子供が、産まれようとしている。
いや、引き出されようとしている。
妊婦は激痛に耐えきれず、買い物袋を落とした。
その場にうずくまる。
助けて!
叫ぶ。
声が枯れる程に。
誰も助けに来ない。
屋根の上に居た男が、すっと、妊婦の前に飛び降りた。
人間ではできない、荒業である。
妊婦は恐怖した。
お願い、この子だけは……。
ああ、頭が出た。
吸い出されるように、胎児はずるずると妊婦の腹から這い出す。
血が溢れ、流れる。
まるで滝のようだ。
流れる血が男に到達していた頃には、妊婦は死んでいた。
胎児を無理やり引き出される激痛に耐えきれなかったのか。
それとも、余りに出血が多かったからか。
男は血だらけの胎児を抱くと、へその緒を無理やりに千切り、死んだ女に背を向けた。
かごめ かごめ かごのなかの とりは
いつ いつ でやる
よあけの ばんに
つると かめが すべった
うしろの しょうめん
男は振り返った。
「だあれ」
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