籠女(綺堂談義其の三)

篠田 悠

 かごめ かごめ かごのなかの とりは

 いつ いつ でやる

 よあけの ばんに

 つると かめが すべった

 うしろの しょうめん

 だあれ







 深夜、暗い路地に不気味な歌声が響いた。

 買い物帰りの妊婦は、その声に振り返る。

 誰も居ない。

 おかしいなあ、今確実に、歌が聞こえたのに。

 子供が遊んでいるのだろうか。

 妊婦は再び歩き出す。

 大きな影が、妊婦を覆った。

 妊婦は空を見上げる。あっとした。屋根の上に、誰かがいる。

 着物を着て、長い髪。

 顔には、怪我でもしたのだろうか、包帯を巻いている。

 妊婦は不自然な光景に、恐怖を覚える。

 思わず身を固めるのと同時に、腹の子が動くのが分かった。

 腹の子が蹴っている。

 まだ、生まれるまで二週間もある筈だというのに。

 激痛が襲う。

 同時に、膣から羊水が滴り流れた。

 子供が、産まれようとしている。

 いや、引き出されようとしている。

 妊婦は激痛に耐えきれず、買い物袋を落とした。

 その場にうずくまる。

 助けて!

 叫ぶ。

声が枯れる程に。

誰も助けに来ない。

 屋根の上に居た男が、すっと、妊婦の前に飛び降りた。

 人間ではできない、荒業である。

 妊婦は恐怖した。

 お願い、この子だけは……。

 ああ、頭が出た。

 吸い出されるように、胎児はずるずると妊婦の腹から這い出す。

 血が溢れ、流れる。

 まるで滝のようだ。

 流れる血が男に到達していた頃には、妊婦は死んでいた。

 胎児を無理やり引き出される激痛に耐えきれなかったのか。

 それとも、余りに出血が多かったからか。

 男は血だらけの胎児を抱くと、へその緒を無理やりに千切り、死んだ女に背を向けた。




 かごめ かごめ かごのなかの とりは

 いつ いつ でやる

 よあけの ばんに

 つると かめが すべった

 うしろの しょうめん




 男は振り返った。




「だあれ」

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