君はあの時の…

くさかみのる

君はあの時の…


 混沌とした夢の中にいた。

 それが夢だと理解できたのは現実では起きなかったことが目の前に広がっているからだ。

 足元に倒れているのは少女だ。髪は艶やかさを失い、くすんでいる。腹部からの鮮血が酷いのか、服を染め上げるのは鮮やかな紅で、刺されたのだろうか。いったい誰に?  そうぼんやりと考える自分の手に慣れた武器の感覚があった。

 剣先から滴り落ちているのは赤い雫。たった今、誰かを切り裂いたのだろう鉄の濃い臭いがする。

 つまり、彼女を殺したのは俺なのだろうか。ありえない。彼女が名を呼んでくれる、その声が好きだったのだから。

 ふと影ができた。

 それは目の前にたった人物によりできたもので、見上げると青年がいた。肩にぞんざいと置いた剣。こちらを見る瞳には優しさなど一片もない。

 ああ、彼は俺が憎いのだと理解した。憎まれている理由は倒れている少女だろう。なにせ俺は彼女の命を奪ったのだから。

 いや違う。これは夢だ。俺は彼女を殺してなどいない。殺せなかったのだから。

 違うと言いたいのに口が動かない。

 青年の剣が滑らかに動くと刹那、体を貫かれた。胸を一刺し。

 避けることも、防御することもできなかった。痛みよりは衝撃が体を走りぬけ、けほりと咳が出る。口内に広がるのは血の味だ。

 体の力が抜け、膝から崩れ落ちるのを青年が抱きとめてくれる。流れ出る血が俺と青年を染めていく。

 これは夢だ。夢だと目を閉じる。

 現実では少女は殺せなかったし、青年はあの時、俺を殺してくれなかった。

 だから覚めてほしい。生きろと怒鳴ってくれ。そうしないとこのまま、自分の弱さに負けてまた死を望んでしまう。それではダメだから。

 目覚めてほしい。名を呼んでほしい。きちんとしろと怒鳴って。

 広がる赤と、立ち込める鉄の臭いが意識を濁していく。

 このままでもいいじゃないか、もう終われるのだからと弱音を吐く自分が顔をだす。

 立っているのは青年だけになった。俺は地面からそれを見上げている。

 青年がこちらを見下ろす。

「あんたが望むなら、俺が――――――」

 あの時に聞きたかった言葉が聞こえ、それが最後に俺の意識は沈んでいった。




君はあの時の…  感情。

  ※殺してほしかったという感情


説明がないと、わーかーらーなーい!!

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君はあの時の… くさかみのる @kusaka_gg

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