33話 リハーサル
「よーい、スタート!」
合図に合わせて4人1組の騎馬隊が縦横無尽に駆け回る。女子たちは作戦通り、囮チームが敵陣へ向かって無鉄砲に突っ込む。敵はその出来事に驚いたが、冷静対処する。作戦通り、囮チームは四方八方から敵の視線を集めるような形になった。その隙に敵の鉢巻を次々とかっさらっていく。偶数クラスは不意打ちを塞ぐ手段はなく、僕たち奇数クラスは圧勝した。
「やった! これは啓太が提案した作戦のおかげだな」
平井が僕の肩に腕を乗せる。僕は照れながら「そんなことないよ。女子の動きが良かったからだよ」と言った。現に、女子の動きがここまで機敏でなければ、反撃されて負けていただろう。
「次は俺たちの番だな。精一杯頑張ろうな!」
僕は彼のテンションについていけず、あまり元気な返事はできなかった。
棒の周りに壁を作り、そこに上のりが立って、準備完了の合図を出す。そして、よーい、スタートの声と共に特攻隊が走り出した。僕たちの特攻隊は全員で14人いて、壁は22人、上のり1人に遊撃3人だ。
それに対して、敵の特攻隊はぱっと見6人で、残りは壁になっている。この6人を抑えることが容易いことはたくさんの人が察しただろう。この6人はひときわ体格が良いわけでもなければ、身長もそこまで高くない。偶数クラスは何を考えているのだろう。
僕は外側の壁として隣の人たちと肩を組んで、敵の侵入を防いでいたが、僕のところに突っ込んでくる人はいなかった。そして、僕たちの特攻隊は作戦通り、壁の一箇所を集中放火して、防御を崩し、棒を倒すことに成功した。偶数クラスの人は僕たちの棒に触れることすらできないまま、試合が終了したのだ。
「おっしゃー! 啓太、やっぱりおまえのおかげだよ! ありがとな」
「いや、そんな......。多分相手側の采配ミスだと思うし、こんなんで気を緩めたら本番失敗しちゃうよ」
ここまで僕の作戦が上手くいくとは思っていなかったので、素直に嬉しかった。
「啓太、お疲れ。はい、水。熱中症で倒れてる人いるっていうから、気をつけてね。そういえば、啓太の作戦のおかげで勝てたんでしょ?」
亜子が僕のところに水を持ってきてくれた。それを受け取ってから感謝の言葉を述べ、僕はそれを一口のんでから、質問に対する応答を言った。
「そんな、僕1人じゃ勝てなかったよ。みんなが協力し合って手に入れた勝利だよ」
最後のプログラムである障害物競走も2位という結果で、無事リハーサルの全日程が終了した。明日が楽しみで仕方がないというクラスメイトの騒がしい声の隣に、1つ引っかかるものがあった。
「なんで悩んでるような暗い顔してるんですか」
大夢が僕の顔を覗き込んで言った。
「明日本番なんだよ?」
「いや、少し気になることがあって。でも、もう大丈夫、気にしてくれてありがとう」
僕は大夢に心配をかけさせないために、嘘をついた。正直を言うと、明日が不安で、引っかかっていることが、とても重要な事項であるような気がして、落ち着けない。
「まぁ、無理しないでよ」
「暗い顔も、無理するのもいつものことですし」
「あ、智子いたんだ」
僕は驚いて思ったことを口に出してしまった。
「影が薄いことはいつものことですし」
メガネを浮かせて格好つける仕草を久々に見たため、吹き出しそうになった。最近喋ってなかったが、元気そうでよかったと思った。
「そうだ、啓太知らないだろうから教えてあげたら? 陽路と付き合ってってこと」
「え? 陽路と付き合ってるの⁉︎」
「そうだよ。市民プール行った帰りに、陽路が告白したんだって」
「告白って......陽路も勇気あるね。ちょっと見くびってたよ」
智子は余計なことを言ったなという表情で大夢を睨みつけ、ふいっと僕たちに背を向けてどこかへ行ってしまった。
結局、さっきまで引っかかっていたものがなんなのかわからなかった。夜になってから布団に潜ったあとも探り続けたのに、その『何か』はその正体を明かさずにどこかへ消えていった。
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