32話 拳を掲げて
「敵チームは守りを固めるらしい。攻めの人数を少なくして、連携を取りやすくするつもりなんじゃないかな」
僕は偶数クラスの作戦を盗み聞きして、その内容に僕の考えを付け足して発表した。その場にいた各クラス代表の2名は口々に質問をぶつけてくる。
「守りが固くなるのなら、攻められないんじゃない?」
「それを知っても対策できなくね?」
「もっとちゃんと聞いてきた方がいいんじゃない?」
自分の言い方が悪かったことを少し後悔し、代表を落ちつけるように手のひらを見せた。
「守りを固めるってことは、棒の近くに協力な壁を作り、外側の壁は比較的簡単に攻略出来るってこと」
僕はペンでノートに図を描いてみせた。
「だから、僕たちは壁を剥がすように棒へ近づけばいいんだよ。攻撃チームを2グループに分けて、一方は外側から、一方は内側に潜り込んで、そこから防御を崩していく」
僕はドヤ顔で図にある敵チームの壁に線を入れる。他に意見がありそうな人がいないか代表それぞれの顔を覗いた。どの顔にも、疑問の念を抱いているような表情は浮かんでいない。
「よし、とりあえず棒倒しはこれでいいかな?」
全員が異論無しということを確認すると、次の話に進んだ。
「よし、じゃあ次は騎馬戦。これは囮作戦がいいと思う」
今度は騎馬戦の図を描いた。
「敵の陣営へ無謀に突っ込み、敵陣の真ん中で敵の気を引きつける。その間に、他のメンバーで鉢巻を奪うって作戦でいいと思う」
僕は敵の騎馬隊にバツをつけていった。
「どう?」
「なるほど。いいと思う」
「なんか、これなら余裕で勝てそうだな」
「よし、じゃあこれで」
一方的な作戦会議になってることに気がついたが、もう遅かった。その後解散して、僕は教室に戻った。放課後ということもあり、教室に残っているのは1人しかいない。
教室に夕日が差し込み、その光を机が乱反射する。窓は全開にされており、風が吹くたびに心地よい涼しさを味わえる。
「あ、啓太! 早かったね」
自分の席で教科書とノートを広げて勉強していた亜子が僕に気づいた。
「まぁね。意見がすんなり通ったから早く終わった」
「ねぇ、この後時間予定空いてる?」
「うん。今日はアルバイト休みだから、空いてるよ」
亜子は空いてるという言葉を聞くと嬉しそうな表情をした。
「その......ここ教えてくれない?」
亜子は教科書に目を向け、練習問題を指した。
「もちろんいいよ」
そう言いながら、亜子の前の席から椅子を借りた。そして、日が暮れるまで2人で勉強した。
***
体育祭の前日。
残暑がグランドを覆い尽くし、太陽は堂々と僕たちを眺める。風は砂を宙に浮かせて遊ぶ。
練習に練習を重ね、ついにリハーサルの日がやってきた。クラスのやる気は暑さを忘れさせるほどで、爽快にも感じられる。整列から入場まで、滞りなく進み、僕たちの出番が来るのを待った。
2,3年生の試合はえげつないもので、第三者視点では、何が起こっているのかわからないし、何より迫力があって、見ている人たちを釘付けにする。運動場に熱気が溢れかえったように闘志が揺さぶられる。たった1年間で、僕たちもあんな風になるのかな。そう考えると恐怖すら感じた。
そんな演技を披露された後に、僕たちの出番が控えている。順番が逆のような気がするが、先生方の意向なので仕方がないことだ。
まずは、女子の騎馬戦。次に男子の棒倒しで、最後に障害物競争である。
「よーし! みんな、張り切っていくぞ!」
「おう!」
平井が士気を高めようと拳を空へ向かって伸ばした。すると、クラス全員が後に続いて拳を掲げた。
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