20話 カウントダウン
学芸会まであと4日。
「――これらはここ最近、本当にあった話ですので、みなさん、気をつけてください」
朝の全校朝会中なのだが、いじめを止める計画を見直したりしていて話の内容をあまり理解していなかった。
学芸会当日、今いる体育館で行う。劇が終わった瞬間にプロジェクターとパソコンをギャラリーへ運び、スクリーンを出す。ここまでやるための人数が圧倒的に足りない。
僕たちの劇が終わった後に映すのは不可能である。前もってギャラリー付近に置いておく必要があるが、先生たちに見つかれば意味が無い。
それから、僕は物語終盤に舞台に立つことになっている。幸いにも、亜子はフリーだ。彼女にプロジェクターの起動等は任せるつもりである。そんなことを考えているうちに朝会は終わり、教室に戻った。
休み時間にはノートに体育館の内装を描き、脳内シミュレーションをする。休み時間、いじめっ子たちが邪魔で仕方がなかったが、ある程度の想像は出来た。
体育館に入ってすぐ右の方にギャラリーへと続く階段がある。しかし、当日はそこから入ることは出来ないだろう。
もう一つ、運動場側にある外階段がギャラリーへと繋がっている。そこは生徒が舞台裏へ行くための手段として使われるから無理。と思ったが、僕たち4年生の劇は学芸会最後の演技だ。
その外階段を利用すればギャラリーへと運ぶのは簡単だ。亜子1人で移動させるのはさすがに厳しいから、あと1人を誰にするかも決めなければならない。
外階段の近くにプロジェクター等を隠せる良い場所がある。前日くらいに隠せば大丈夫だろう。今の今まで余裕だろうと高を括っていたのが恥ずかしい。
「何してんだ?」
簡易的に書かれた体育館の見取り図を覗いて言ってきたのは関崎だ。
「てか、体育館は2階にもトイレあるだろ。書き足せよ」
「そうだったな。ありがとう」
「んじゃ、またな」
そう言い残していつものようにどこかへ行こうとした関崎は、何を思ったのか急に止まった。そして。
「そこは小道具置き場になってるぞ」
意味ありげな言葉を呟いて行ってしまった。
「小道具置き場? 何の話だろ」
理解出来ないその言葉に戸惑うが、考えるだけ無駄だと割り切った。関崎はたまに意味不明な言葉や話をして、去っていくのだ。今回もそれの一部だろうと思う。
宗田は劇で何の役もついていない。だから亜子と一緒にプロジェクターの準備をしてもらう。その協力を得るために、折本が良い感じにくっつけてくれればいい。ビデオは川内が上手く撮れていれば何の問題も無い。
あとは過酷ないじめを耐えきるだけ。
***
学芸会の2日前。そして、迎えた放課後。
今日でいじめが最後と考えれば苦しいことはなかった。今までいじめを受けていて、大怪我をしなくて良かったと思う。
亜子もなんとか頑張ってくれた。彼女もいじめが無くなることを楽しみにしている。
昨日川内からもらった動画を見てみたが、とても良かった。いじめられていた人には申し訳ないが、これもいじめを無くすため。少しばかり罪悪感はあった。
宗田と赤西の仲も良い感じになったらしい。宗田がニヤニヤしながら言ってきたのだ。折本に何をしたのか聞いてみたが、教えてくれなかった。たった数日で2人をくっつけた方法に興味があったが、仕方ない。それから、宗田も亜子と一緒にプロジェクターの設置等を手伝ってくれると言ってくれた。
準備は整った。
あとは明日学校に来て亜子と最終確認を取り、プロジェクターを隠すだけ。
翌日。
指定した時間に亜子と学校で合流した。本番前日とはいえ、やはり準備が万全であるため、そこまで緊張していない。むしろ、勝ちを確信していた。
「おはよう」
「おはよう。じゃあまずはプロジェクターの使い方を教えるね。ついでに動画を見てみるか」
体育館の裏側で試しにプロジェクターを起動させた。このプロジェクターは最新の型で、パソコンを必要としないのが便利である。
体育館の壁に向けて映し出してみた。すると、『学芸会に来ていただきありがとうございます!』というタイトルが表示される。そして可愛い動物の絵が踊り始め、動画は終わった。
「え? どうした?」
おかしい。おととい川内から動画をもらってすぐにプロジェクターを使った。その時はちゃんとした動画が流れたのだ。
「啓太?」
「ごめん。僕もよくわからない。けど、何かおかしい」
いきなりすぎて混乱してしまう。こんな急に動画が別の動画に変わるなんて......そういえば。
ある事件を思い出した。それは一種のウイルスがプロジェクターを自己らせた話だ。
とある会社の会議中に使われたプロジェクターが、そのウイルスに感染していたらしい。会議の直前に映し出す画像をチェックしている時は普通に稼働した。
しかし、会議が始まりプロジェクターを使用すると、何故か設定した画像とは全く違う画像が表示されたとのこと。
これがキッカケで会社が1つ倒産しそうになったという事件である。借りたプロジェクターがこれと似たようなウイルスに感染しているのなら正直絶望的であった。
「もしかしてあの、テレビでやってたウイルス?」
亜子も同じ事件を知っていたらしい。
「多分そうかもしれない。どうしよう、これじゃ......」
さっきまでの余裕は無くなった。とりあえず今日中に代わりのプロジェクターを用意しなければならない。
「とりあえず隠す場所に持って行った方がいいんじゃない?」
「そうだね」
そう言って体育館の隣辺りにある物置へ行く。普段から鍵はかかっておらず、中に物が置いてあるわけでもない。
「嘘......だろ......」
その物置の中には学芸会で使用する小道具や背景等の物がある。それは物置にプロジェクターを隠せないことを示していた。
「なんで......」
この物置が普段使われていないから学芸会の時でも大丈夫だろうと思っていたせいだ。物置をここに置く必要性を考えればすぐにわかったことなのに。
「亜子、ごめんな。本当すまない......」
自分の弱さ鬱陶しい。そして憎い。ここまで来たのに、ここまで協力してくれた人たちがいたのにどうしてもっと確実な手段が思い浮かばなかったのか。
悔しくて涙が溢れそうになり必死に堪えた。歯を食いしばり、他に隠せそうな場所がないか考えた。でも、そんな場所どこにも......。
もういっそ諦めた方が楽かもしれない。結局はいじめが無くなる根拠はどこにもないのだ。
「まだ諦めたらダメ!」
「へ?」
泣いていたせいで声が変に裏返った。
「せっかくここまで来たんだよ? プロジェクターは他から借りればいいし、隠す場所だってきっとある!」
「でも......」
「啓太はそれでいいの? 私はいじめられてる啓太なんて見たくないし、私もいじめられるのは嫌。いじめを受けてる人を助けられるのは啓太しかいないんだよ? そんな人たちを放っておいていいの?」
後ろからかけられる力強い励ましで冷静を取り戻した。
「そうだよね、せっかくここまで来たんだ。最後まで諦めるわけにはいかない」
涙を拭って、ひたすら考える。この状況を打開する方法を。
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