加速スル光 闇へト伸ビル音
次の朝時間がやってきた。
部屋の施錠が解除される前に電源がついたままのタブレットからクラウンが告げる。
[おはようございます 五つめの夜が明け、朝を迎えました]
我那覇は画面を見ることなく、目を閉じたまま扉が開くことだけを待っていた。
<夜が明けました。【キシド】様が死体となって発見されました>
ドアが開錠され、我那覇を広間へと導く。
扉が開いたことを確認した我那覇は画面をちらりとだけ見て、足早に広間へと歩き出した。
「染内さん。まずは結果を教えてください」
議論時間が始まってすぐ、京山が促す。誰もが霧島の言葉に引き摺られ重い空気が広場に漂っていた。
当の霧島は広場にいるにはいるものの他のプレイヤーから離れ一人壁際で項垂れていて何を考えているのか、何を思っているのかすら全く窺えなかった。
「その、えっと占いの結果なんだけどさ」
染内はその場の重い空気とは違う、何か別の暗い空気感を漂わせていた。
「その様子じゃ狼見つけられなかったんだ」
悠木がぶっきらぼうに言った。
霧島の言葉が正しければ人狼は3人か4人。酒々井が否定しなかった事を考えればこの数は確定的だった。
少なくとも鬼桐院は人狼、そして佐伯が人狼側の人間である為、人狼が3人であれば染内の結果次第でこの場での村陣営の勝利が決まる。
(いや、たとえ狼を見つけられなかったとしても真舟さんアリスと俺しか残ってないんだ。俺を占う事なんてないだろうし、アリスが狼じゃないってわかればそれだけで勝てるはずだ!)
・・・・・・はずだった。
「霧島さんを、占ったんだ・・・・・・ゴメン」
染内の発言はこの場の誰もが予想だにしていなかった。
「え、ちょ、ちょ・・・・・・えぇ?ちょっと待ってよ!え、バカなの?!」
ぶっきらぼうだった悠木の語気は当然の様に荒くなる。
「いやだって!昨日の彼の言葉、負ける為とか言ってたけど狼が自分を残す為に最後の最後で嘘ついてたんじゃないかって思ったら気になって気になって仕方なくて。
それにさっきまで平然と嘘ついてたやつだよ?!あっさり認めたからってその後全部ホントの事だなんてどうしてそう思えるんだ!」
「え、あうん、ごめん・・・・・・」
逆上した染内を前に悠木は呆気にとられてしまった。
二の句を告げず、誰もが染内を責められない空気が広がってしまっていた。
そんな空気を変えたのは、アリスだった。
「どう、するの?」
自信なさげにこの場にいる全員問いかけた。しかし単なる問いかけではない。
本来ならば、染内が人狼を見つけられなくても霧島さえ吊ってしまえば残る人狼は身動きすら出来ないはずだった。その目算が潰れてしまった今、人狼を推理で探り当てなければならない。
誰かが人狼を追い詰めなければならなかった。
「とりあえず、だ。霧島を吊るのは後にした方がいいだろう」
きっかけを作ったのは真舟だった。
「え、なんで?」
「彼が人狼でないことは証明された。なら彼を吊る意味がどこにもないだろう。我々が彼の事を気にせず人狼を処刑してしまえば全て終わるさ」
「確かに今、霧島を吊るのはあまり意味があるとは思えない。かといって闇雲に誰かれ構わずにつりあうのも良くないと思う」
「なら我那覇くん、キミならどうする?」
「俺は・・・・・・」
京山から意見を求められ、少し汗をかいていることに気付いた。
霧島の凶行を見抜いた我那覇は共感者からある意味信頼されている。うっすらと立ち籠める暗雲の中、3人だけの議論が始まった。
「俺は霧島を吊るのは構わないと思う。吊る意味がないっていうけど、じゃああいつを放置していて問題無いのかっていと、そうじゃないし。わざわざ残す理由もない、っていうのが正しいと思うんだ」
「確かに彼の発言力はすごい。だが既に我々は彼が敵だとわかっている。なら、彼の言葉に耳を貸すこともない。いてもいなくても変わりはない」
「いや、あいつは罠師の所在について話して、実際に貴志戸さんが襲撃されてしまってる。逆だよ。俺たちは耳を貸さない。だけど狼に有益な情報をあいつは狼に提供できる。誰を狙えばいい、誰は無視出来る。ってね」
「ではキミは狼を探すより彼を吊ってしまえと?彼を吊れば、人狼を狙う処刑の回数は減ってしまう」
「じゃあ真舟さんは」
我那覇は核心に切り込む直前、少し息を呑んだ。今までの議論では誰かに疑われたことはあっても、確かな根拠もなく他人を疑う事はなかった。
我那覇は始めて、他人を陥れるための言葉を口にした。
「真舟さんは誰が人狼だと思うんです」
「それは・・・・・・」
「人狼を探すのは大事だと思います。でも今霧島を吊る吊らないで議論してるのって違くないですか。どういう風に進行していけばいいのか、っていうのは確かに重要でした。重要でしたけど、今はそんな事どうでもいいですよ」
真舟がやろうとしていた議論は貴志戸と霧島の再来だった。霧島を吊る事で何がえられるのか、何を失うのかをはっきりさせようとしていた。
それは意味のあるものではあった。そして意味があることは既に我那覇自身が証明した。
しかし、我那覇本人がそれを否定する。
「真舟さんは霧島を吊る吊らないで議論時間を徒に使おうとしてる、違いますか」
我那覇には確信めいたものがあった。それは真舟が人狼であると言うものだった。
アリスを信じている彼からすれば残る候補は真舟だけ。当然疑うのも自然だった。
そんな我那覇を見て、霧島は呟いた。
「お前、一体なにものだよ」
何故か霧島の言葉を誰も聞き逃すことなく耳を傾けた。傾けて、しまった。
「始めは只巻き込まれただけみたいな風で一喜一憂してみたり。自分の推理が当たってたらテンション上がって失言して疑われてみたり。道標だった酒々井が退場したら急に進行に目を向けるようになって、既プレイヤーの存在に辿り着いて、ついにはロジックで他人を追い詰めるのか」
怒っているようで悲しげで、驚いているように見えて冷静な、酷評しているようで驚きを隠せていない。ごちゃまぜの声色だった。
「お前、このたった十数時間でどれだけこのゲームに馴染んでるんだ?いや、本当にお前。これが初めてか?」
正気でないことは確かだった。我那覇に向けられたその視線は焦点が合っている様には見えなかった。我那覇を見ているようで、その向こうの何かを捉えようと必死だった。少しずつにじり寄ってくるその光景は不気味の一言に尽きる。
「なあ、お前なんなんだ?頭の中どうなってんだよ。教えてくれ。教えてくれよ。お前、なんだってそんな出来がいいんだ?そのくせ、そのくせに自分に後悔したくない?お前何かに後悔する様な人生送ったことあるのか?なんだそれ。なあ」
霧島が今ほどの熟練に要した参戦の回数は二桁を裕に超える。壮絶な騙し合いの中運や仲間の助けで何度も命拾いし、何度も疑い、疑われ、ここまでやってきた。
その繰り返しで培ってきた経験則や論法を、我那覇はたった一戦の、しかもその最中で身につけている。
その事実だけは、霧島にとってどうしようもなく受け入れ難かった。
「何が言いたいんだ」
我那覇には返す言葉はなく、言葉を返す必要すら感じられないほどに理解出来ないものだった。
「お前がこの先何処までいくのか、何処まで考えられるのか見たくなった。いや見なくちゃいけない、見収めなくちゃならない。誰かが、お前みたいな奴の事を否定しなくちゃならないんじゃないか」
「・・・・・・こいつ、なにいってんの?ついにおかしくなった?」
傍目から見ても理解不能だった。我那覇ですら、霧島が何を言いたいのか全く理解出来ずにいた。
「お前、今回のゲーム勝てると思ってるか?」
「思ってるとかじゃない、勝つんだ」
完全に二人だけの空気だった。
「じゃあ、大事な事を教えてやるよ。お前はまだ、勝つ為に必要な情報を二つほど見逃してる」
みつけてみろ。霧島は確かにそう言って、処刑台へと自ら進んでいった。
「ヒントをやるよ、同数投票だ。そこに鍵が隠されてる」
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