何度デモ帷ハ堕チ

「まず一つめ。もう結果が出ちゃってるし俺にとってもちょっと想定外な感じになってるけど、どうしてコンノさんじゃなくキトウインさんを吊るべきだったのかから」

全員が耳をこらして聞いている。

「理屈はキシドさんも言っていた罠師の護衛の問題なんだ。コンノさんを吊れば襲撃は2択、護衛は3択だっていうあれ。じゃあキトウインさんを吊ればどうなるのか。

 実はキトウインさんを吊れば霊感師を護衛する必要はなくなる、はずだった。これについては霊感師が襲撃されてて間違えた推理だったけど、それでも理屈自体は正しいはずだから聞いて欲しい」

「構わない。続けてくれ我那覇君」

真舟が合いの手を入れた。真剣な顔つきで我那覇を見つめていた。

「キトウインさんは自分が罠師だとは言わなかった。だから罠師は生きてる想定だ。キトウインさんを吊ればソメナイさんが嘘を吐いてるのか真実を語っているのか霊感師が判定してくれる。だから一見コンノさんを吊るのと同じように霊感師を護衛すれば良いように見える。

でもソメナイさんはコンノさんを占うって言ってた。だからコンノさんが・・・・・・死んでいれば、自ずとサエキさんが偽の術師であることもソメナイさんが本物であることもわかる」

人狼は狼同士を襲撃することができない。つまり朝に紺野が死亡していれば佐伯の主張は破綻する。そうなれば霊感師の結果を聞くまでもなく染内が真の術師であると確定する。

「逆にコンノさんが生きていれば、コンノさんは嘘をついた事になる。ってことはソメナイさんと協力関係にあるってことだから、サエキさんが本物だ。つまりスゴウさんが教えてくれるキトウインさんを処刑した結果を聞かなくてもどっちが本物か判別出来る。だから霊感師の結果は重要じゃない。つまり真の術師を護衛出来てさえいればいい。人狼は必ず術師を噛む。そして罠師は2択を当てればいい」

 紺野を吊れば霊感師と術師どちらかを守ってもどちらかが襲われる可能性は拭えない上、仮に真の術師を護衛していても霊感師が襲撃されれば真実は闇の中である。

だが鬼桐院を吊れば術師さえ護衛していれば襲撃は防げる。というのが我那覇の算段だった。

「実際はスゴウさんが襲撃されてしまった。多分狼は術師が護衛されて噛めないと踏んで霊感師のスゴウさんを噛んだんだと思う。どちらにせよ、コンノさんがここにいない以上サエキさんの主張は破綻してる。偽者であることは変わりがない」

「なるほど……なるほどね。コンノさんを吊らなければ術師の結果だけでわかるのか。確かに結果は歴然だ。それはよく分かったよありがとう。でも――」

京山は霧島を見やって言葉を躊躇した。

「ガナハ君はどうして、キリシマさんの提案がわざとだと・・・・・・欺瞞だと言い切れるんだい?」

言葉を引き継いだのは染内だった。

「シスイが言ってたのを覚えてるかな。あいつ【勝つ為の筋道】って言葉を使ってた。多分今回のキトウイン吊りの仕組みに気付いたとき、こういう手順の事を言いたかったんじゃないかって思ったんだ。これって定められたルールじゃないけど、法則っていうか、攻略法?みたいなものだなって。これは完全に想像だけど、あいつこのゲームやったことあるんじゃないか?だからあいつは開始早々に『ルールの穴』なんて回りくどい言い方でルール以外に目を向けさせようとしたんじゃないかって」

法外の法。考えが及ばなければ思いも付かない絶対的な不利有利の法則。進行。

我那覇はその側面に触れた。その存在を認知した。だからこそ霧島の不和に、異常に気付いたのだ。

しかしそれとは別に周りの様子がおかしいことに我那覇は気付いていなかった。

否。

そもそも、周りの誰もが既プレイヤーの可能性を考慮していなかったのだ。

「ちょ、ちょっと待って。どういうこと?みんながみんな突然連れてこられた訳じゃないって事?」

悠木が明らかな動揺を見せる。

「知らないフリしてゲームに参加してる奴がいるの?!ってかシスイも?!」

「・・・・・・なるほどね。シスイが噛まれる直前の態度――。何か秘密を暴露しようとしている様に見えたわ。てっきり自分が本物の術師だ!とか言い出すのかと思ってたけれど・・・・・・。既プレイヤーの存在を報せようとしていた?」

貴志戸が納得したように自分の考えを語り出した。

「えぇっと。話が少しずれてきたから戻して良いかな」

貴志戸の独り言を遮るように京山が強引に話を引き戻した。

「つまりガナハ君はシスイさん同様キリシマさんが既プレイヤーだと仮定して、この場面における間違った吊り方を敢えて僕らに提案した、そういうこと?」

「そういうこと。ほら占いが白とか黒とか、そういうのも全部キリシマさんの提案だったろ?他にも突然妖狐の存在を言い出したりさ。振り返ってみればキリシマの提案はどれも慣れてる人のそれだった。シスイがキリシマに進行を預けたのも、既プレイヤー同士の探り合いだったんだと思えば、全部筋が通る」

気がつけばほぼ全員が我那覇の言葉をしっかりと聞いていた。佐伯もこの話に驚いているような素振りを見せた。


「つまりシスイとキリシマは何らかの方法でこのゲームを知っていた。或いは勝ったことがあるんだ。しかも偶然勝ちました、なんて話じゃなく言葉を濁したまま他人に説明して誘導できるレベルで熟知してる。だからキリシマはキトウインさんを吊った方が有利だって気付いてないはずがない」

「・・・・・・」

全員が、佐伯ですらキリシマへ明らかな敵意を向けていた。【知っている】事を知らせずにいる。知らない者たちへの明確な裏切り行為を許せる者はいないだろう。

諦めたのか大きく一息つくと、霧島が腕を組んだまま語り出した。

「そうだね。俺は確かに既プレイヤーだ。そしてシスイも恐らく、いや十中八九既プレイヤーだろう。ただしこれだけは言っておくよ。好きでこのゲームを続けてるわけじゃない。好きでこんな騙し合いを繰り返してる訳じゃない。少なくとも私はね」

口調も言葉遣いも、やけに大人しかった。これまでの飄々とした態度も、我那覇と対決した際の怖ろしさも全く感じられない、まさにあきらめの境地のようだった。

「どうせ次に吊られるのは俺だろう?だから先に言っておこう。狼たち。貴志戸さんを噛みたまえ。彼女が罠師だ。いや、生き残っているのなら、彼女しかいないというべきかな」

全員の注目が貴志戸に集まる。貴志戸は少したじろいで、ぎこちない態度で反論した。

「残念だったわね、私は罠師じゃないわ。私を襲撃しても意味無いわよ。それに白状したようだけど貴方、村の敵なのね」

「これだけばらされてしまえば今さら取り繕っても無駄だろう?罠師の候補は酒々井と貴志戸、そしてリュウゼンの3人だけ。他の人は発言の仕方からして違う。だから既に候補としてありえるのは君だけだ」

途中から霧島の態度が少しずつ冷たく鋭いものへと変貌していった。

「どうして人狼に肩入れするんだ。あんた狼じゃないんだろ?自分から負けるようにするなんて・・・・・・」

我那覇の言葉を聞いて霧島は小さく笑う。

モニターをちらっと見てから、大きく息を吸って、吐いた。

「もう疲れたんだよ。俺だって始めは生きるために必死だった。我那覇君君のように、或いは酒々井、あいつの様に。村が勝つ為にはどうすればいいかとか、狼が民意を動かすには何が重要かとか。一度だけ妖狐になったこともある。ハッ。痛快だったねあの時は。みんなから信用して貰って、信頼されて。俺が狐だと気付いた時あいつらはどんなキモチだったんだろうなぁ!」

嘲るように、見下すように喋り続ける霧島の姿は痛々しかった。

「でも結局は俺だけが残り続ける。俺だけが勝ち続ける。いや、違う。どんなに勝利を収めても、どんなに一緒に勝ちを喜んでも。どんなに信頼を友情を絆を育んだところで!敵になればみんな裏切るんだ。みんな手を切るんだ。。ここの連中はそれを楽しんでる。それを望んでる。俺も酒々井もお前もあんたらも全員!全員あいつらの玩具さ!」

もうそれは悲鳴だった。その怨嗟は誰にも届かない。その苦しみを理解出来る者はこの場にはもう、いない。

「俺は楽になりたいんだ。延々と続く殺し合いから降りたいのさ。だがあいつらはそんなこと許しちゃくれない」

「だから、負けるのか。わざと負けて死のうってことなのか?俺たちを巻き込んで!死にたいって!」

「何が悪い!おまえらも今まさに狼を殺して生き残ろうと死力を尽くしてるじゃないか!他人の命を踏み台にして自分が望む未来を手にしようとしてるだろうが!その終着点は死だ!俺たちに元の暮らしに戻れる余地なんてものはない!だったら!死んで!何が悪い!未来もない、残せる物もない、愛する人も既にいない!死んだ!

その剣幕に応えられる者はいなかった。

その叫びを受け止められる人などどこにもいないのだ。

「せめてこのお粗末なゲームにスパイスを一つ彩るくらいが丁度良い。さあ足掻けよ村人共。滾れよ狼共。罠師は今日ここで死ぬ。狼は1人しか見つからないぞ。染内お前わかってるか!自分がしてること!お前は今から人を殺すんだ!」



[議論時間が終了致しました。それでは皆様部屋へとお戻り下さい]



個室に戻るまで、乾いた笑い声がいつまでもこだましていた。

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