疑イ信ジ、アテモナク惑ウ
「やっぱり【白】か!」
我那覇ははしゃぐように声を上げたが、その瞬間自分の行動が間違いであったことに気付いた。
「『やっぱり』……?どういうこった、ええ?お前、アマミヤが白だったこと知ってたのか?オイ!」
「フム。さすがに今の言葉は聞き逃せないね!明らかに怪しい!今日はガナハ君を吊ってみるべきだ!ウン!」
「お兄ちゃん……?」
三者三葉我那覇を責立てる声が荒げられ、我那覇は急激に萎縮していく。血の気は失せ、額からは脂汗が滲み、視線が一点に定まらない。
(まずい、まずいまずいまずいまずい?!迂闊だった?!こんな、こんな!)
どうにかしなきゃ。その言葉だけが頭を支配し、具体的な解決案は露ほども浮かばない。思考は突然の負荷にオーバーヒートを起しその回転をやめ、急速な冷却は回転軸を凍り付かせたようにくっついて回り始める気配すらなかった。
アリス、霧島、酒々井、貴志戸の4人以外から受ける視線が冷たく、どろりとしたものへと変わってゆく。
「ちょ、ちょっとまってくれ別に俺は結果を知ってたわけじゃない!そもそも俺はアマミヤさんに投票してないだろ!ほら!俺がもし人狼でアマミヤさんが白だってことわかってたなら、アマミヤさんに投票してるだろ!」
「そうかな?勿論私は人狼じゃないから言えるが、私だって白だ!そして君は私に投票しているな?君からすれば私とアマミヤ君、どちらが吊れていても良かったんじゃないか?だから君は敢えて私に投票したのではないか?」
真舟は自信満々といった態度で反論する。咄嗟にでた言い訳も簡単に打ち破られた我那覇は、ますます落ち着きを失っていた。
「まって。お互い言いがかりは止した方が良いわ」
急回転する我那覇の視界が、貴志戸の一言でやんわりと元の光景を取り戻していく。
「ム?言いがかり?その言い方は心外だね!まさかガナハ君を庇おうというのかな?君とて彼を庇うのなら疑わなければ」
「そう、庇っているのよ」
真舟の脅しにも取れる問いかけに貴志戸は動じることなく、むしろその言葉を堂々と踏み越えるように被せて答えた。
その毅然とした態度にたじろいだのは、真舟の方であった。
「ガナハさん。落ち着いて答えて頂戴。貴方はどうしてアマミヤさんを白だと思ったのかしら」
貴志戸は我那覇へと近寄り顔を近づけて問いかけた。
貴志戸の瞳は深い深い碧色をしていた。不思議なことにその深い色に吸い込まれるよう感じた我那覇の思考はゆっくりと落ち着きを取り戻していった。
「あ、ええと。まず、術師の二人のどちらかは確実に偽物なわけだろ?そう考えたら、まずソメナイさんからすれば偽物のサエキさんが投票したアマミヤさんは人狼じゃないってことになるだろ?」
全員が糾弾をやめ、我那覇の言葉を静かに聞いていた。
「で、サエキさんからすればトゲサカさんはソメナイさんの次に人狼の可能性が高い人物のはずなんだけど、そのトゲサカさんがアマミヤさんに投票してる。つまり、」
「つまり、術師二人の視点どちらから見てもアマミヤさんは極めて人狼から遠い存在、というわけだね」
霧島が我那覇の最後の言葉を奪っていった。アリスが静かに霧島に抗議の視線を送っていたが、霧島はウインクを返すだけだった。
霧島の結論を聞いて、貴志戸は元の位置へ戻っていった。
それぞれ、我那覇の言葉を咀嚼しているのだろう。真舟も先程の勢いを失い、腕を組んで黙り込んでしまっていた。
「まあサエキさんの視点でトゲサカさんが黒かどうかは別として、悪くない推理なんじゃないかな?ねぇ。シスイ君」
ここまで一度も口を開かず場を眺め続けていた酒々井へと投げた。
「僕もアマミヤさんが黒だとは思わない。この考察に関してはキリシマさん、貴方自身が一番よく分かっているはずだ」
「まあね。ま、ガナハ君のおかげで色々と面白いものが見られたからよかったんじゃないかな?ありがとう、ガナハ君」
「全然嬉しくないんですけど……。めっちゃこわかったんですけど」
疑惑が晴れて嬉しかったのか、隣でアリスが自分の事の様に微笑んでいた。
「さて、全員の結果が全部白だったってことでわかる事が一つある」
霧島の進行が再開された。
「共感者は2人とも生きてる。そして人狼が仕掛けてきていない。つまりこれは、まだこちら側に余裕があるってことだ」
「余裕あるのか」
「ああ。これはあまり根拠の無い予想だけど、恐らく人狼は3人か4人。そして今一番優先すべきは、妖狐の対処だ」
唐突な妖狐という存在への言及に、少なくない動揺がそれぞれを襲った。
「妖狐って、勝利条件が開かされてないあれか?でも対処っていったってよぉ。ああ、あれか?術師が占えば殺せるってやつか!」
「そう、まさにそれ。みんな役職の説明を覚えているかな。術師、霊感師共に把握出来るのは【人狼か否か】だけなのさ。術師は妖狐を占った時点でその人が妖狐であるとわからず、投票で処刑したところで霊感師もそれが妖狐であったかどうかは判別出来ない」
「じゃあ、今白の人は妖狐じゃないっていうこと?」
「まあ、真の術師が占った人に限るけどね」
我那覇はアリスからの質問に優しい声で答える。アリスは首をゆっくりと横に捻りながらウンウンと唸っていた。
「でも勝利条件は判別してないんだから、下手に殺しちゃうのも不味いんじゃないか?それこそ、妖狐死んだ途端に妖狐の勝利でーす!なんてなったら」
「それはないよ。そもそも村人陣営の勝利条件は【他の2陣営の排除】だよ。つまり村陣営が勝つ為には妖狐の死亡は必要条件なんだ。妖狐の勝利条件が死ぬ事なら、この村陣営の条件と矛盾する。つまり、」
「【妖狐の勝利条件は生き残る事】?」
悠木が呟いた途端、広間に不快な音楽が鳴り響く。
まるでそのワードが何かのトリガーであったかの如く、真っ黒の背景に大きなクラウンの顔が映し出され、驚きのあまりか悠木が悲鳴を上げた。
[妖狐陣営の秘密を明かす条件が達成されました]
全員がモニターの変化に目を懲らす。
(ん……?)
いや、正確には2人。霧島と紺野だけが、ぼんやりとしていた事に我那覇は気付く。
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ルール1
・参加者は三つの陣営に分かれて陣営毎の勝利条件を満たす事が目的である
1-1 =勝利条件=
村人陣営:自身以外の二つの陣営を全員排除する
人狼陣営:生存している人間の数を人狼の数以下にする
妖狐陣営:妖狐陣営のプレイヤーにのみ開示する
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ルール1(改訂後)
・参加者は三つの陣営に分かれて敵陣営の勝利条件を達成させない事が目的である
1-1 =勝利条件=
村人陣営:自身以外の二つの陣営を全員排除する
人狼陣営:生存している人間の数を人狼の数以下にする
妖狐陣営:ゲーム終了時点まで生存する
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「これは……」
「あれ?正解しちゃった?」
「……そのようですね」
各々が思い思いに言葉を交わしているそんな中、鬼桐院が語り出した。
「なあシスイ。もしかしてお前が二日目に言っていたのは狐の可能性ってやつか?」
「狐の可能性?どういうことだい?」
酒々井が言葉を返すより先に染内が聞き返していた。
「ちょっと違うな。正確には狐の可能性もあった、というべきだと思う。今は少し違う風に考えているけどね」
酒々井は少し思案顔で喋りだした。
「染内さん、昨日、僕は貴方に【サエキさんが人狼とは限らない】と言いましたね」
「あ、ああ」
「単純な話、人狼が術師を騙るのは手っ取り早いが確実です。なんせ味方を吊らせないように、そして村人を吊るように誘導しやすいから。でも可能性だけを考えるのなら、他にもパターンが存在するんですよ」
「それが、妖狐が術師を騙っている可能性、か」
霧島が横槍を入れる。
「ん~。その話も興味深いが、あまり話している時間は無さそうだ。昨日と同じ様に各自の怪しんでいる人間、そして術師、霊感師をどう見ているのかを発表し合おう」
時間は既に残り45分を切っていた。現在16人、1人頭3分も話せる時間は残っていないのだ。
「今日は各自、狼だと思うところの他に妖狐が何処にいるのかも考えていて欲しい」
かくして、時間は過ぎ去ってゆく。
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