汝、死者ノ喚キヲ聞キ逃サン
[おはようございます。二つの夜が明け、朝を迎えました]
クラウンの言葉が響き渡り、同時にタブレットの電源が落ちた。
我那覇はタブレットを所定の位置に戻し、開いた扉へとゲームの中心地へと向かう。
どうやら今日犠牲になったのは我那覇ではなかったらしい。
広間へと着くと、そこには天宮を除いた16人が集まった。
「あれ……?もしかして!」
我那覇は目を大きくみひらき、モニターに現れる字幕に注目した。
他の全員も又、一様にモニターを見つめていた。
[それでは朝の時間を進めさせて頂きます。]
モニターに、メッセージが映し出されていく。
<平和な朝を 迎えました>
水色で清涼感のある配色に彩られた穏やかなそのメッセージに、緊張していたのか何人かの参加者のため息が聞こえてくる。
我那覇もその一人であり、ほっとしたところにアリスが近寄ってくる。
「誰もいなくならなかった!良かった!」
邪なものが何一つ無い満面の笑みに、我那覇も思わずはにかんだ。
「やったな!」
アリスと手を繋いで喜びを分かち合うのもつかの間、クラウンによる事務的な音声で昼時間へと切り替わり、酒々井が早々に本題を切り出した。
「さて、気持ちいい時間はそこまでだ。モニターを確認して欲しい」
酒々井の言葉に全員が視線を一つに集めた。
モニターに表示されている数字は
1:18:14、1:18:13、1:18:12と時間を刻んでいる。
「もう12分経った?そんなわけ無いよね。シスイさん、つまりこれは」
「そう、議論時間が前回より10分短くなっている」
霧島が酒々井を促し、代わる代わるに全員に伝えていく。
「二日目の議論時間は90分。そして三日目である今日の議論時間は80分」
「明日も同じく議論時間が削られていくとして、この調子でいけば五日目で60分」
「今日のように毎回平和な朝を迎えるなんていうのは調子が良すぎる。もし今後一切平和な朝が無ければ」
「もしギリギリまで人狼を吊りきれなければ九日目まで進む。その場合の議論時間は……20分」
ジリジリと背を焼かれるような焦燥感が我那覇を焦らせた。
「わ、わかったって!そんなに怖いこと言わないでくれ。みんながそれぞれ考えて喋るのに時間はかかるんだ。わかったから、話を進めてくれ」
我那覇は力なく項垂れ、それを哀れむ視線を感じて余計に惨めな気持ちにさせられていた。アリスが心配そうに手を握ってくれていた。
いつの間にか皆が進行を任せていた酒々井が口を開くのを全員が待っていると、その口から発せられたのは思わぬ提案であった。
「キリシマさん、少し任せて良いかな」
霧島に進行を委ねたのだ。
「ん?君が進行をした方が良い。私はまだ誰からも信用されてないだろうから」
「いや、貴方に任せたい。というより、僕ばかりが喋っていては誰も自分から喋らないだろう?」
参加者の何人かは訝しげな視線で二人を捉えていたがその疑念を言葉にすることは遂に無く、酒々井と霧島の会話は直ぐに終わり、霧島が場の進行をし始めた。
「コホン。では改めて、霧島です。ナンバーは7。まず術師二人の結果の前に、霊感師の人は名乗り出て欲しい。ただし結果は伏せたままだ」
霧島の進行に従い、一人が名乗り出た。
「アタシ、です。霊感師」
おずおずと挙げられた掌は、その挙動とは裏腹に真っ直ぐ指先まで伸びきっている。
「他にいるかい?」
霧島の言葉に応じるものは他にいなかった。
「じゃあスゴウさん。こっちにきて。あ、そこの辺りで良い」
モニターの真ん中を陣取る霧島が指定した須郷の位置は正面右側の端だった。
須郷は瞳がギリギリ隠れないくらいに前髪を伸ばしており、少し猫背なのか立ったままだと目元まで髪で隠れてしまい、表情があまり窺えない。
しかし肩を少し竦ませ脇を締め両手の指を祈るように交差させていることから、彼女の自信のなさがそこはかとなく透けて見える。
「では術師の二人は反対側に。うん、そこ。じゃあ他のみんなは半円を描くようにして。そう、全員誰かの影に隠れる事ができないように」
自然体で進行していた酒々井と打って変わり、霧島は全員の立ち位置を細かく指定してみせた。
(隠れる事がないように、か。確かにこれなら全員見ようと思えばそれぞれの様子を観察できる。二日目は結構被っていて前の人の表情とか見えなかったもんな。)
「じゃあ二日目はサエキさんから結果を聞いたから、今日はソメナイさんの結果から聞こう」
霧島の促しに染内は体を一瞬ビクつかせたが、すぐさま語り出した。
「昨日ユウキさんが『キョウヤマさんは吊りたくない』って言ってたから、キョウヤマさんを調べてみた。【人狼じゃなかった】よ。」
チッ。
染内の結果をきいて悠木があからさまな態度で舌打ちをかました。隣に並んでいた京山が慌てて嗜めていたが、悠木の染内に対する視線は明らかに鋭いものだった。
「んー。調べてみた、とか人狼じゃなかった、とかわかりづらくないかな?」
「ふぇ?」
霧島が突然切り出した提案にアリスが首を傾げる。
「もっとそれっぽくしよう。っていうか分かり易くしよう。調べてみた、とか確かめて見た、とか曖昧な表現じゃなくて……そう!占った、っていうのはどうかな!結果は人狼なら黒!そうじゃないなら白だ!」
とてもフランクな語調だったが、誰も同調するものはいなかった。
「……黒とか白とかの表現はいいな!一々人狼だった、じゃなかっただと聞き間違いがありそうだ!」
筋肉質の男、真舟が唯一例外だった。しかし、それが切っ掛けとなり少しずつ賛成の言葉がこぼれていく。
「ありがとう、みんな。うん、私は少し泣きそうだ。それは我慢するとして、サエキさんの結果を聞こう」
「私はマシュウ君を占ったよ。私が真っぽいというならまだわかるがソメナイ君まで真っぽいというのはおかしいと思ったんだ。両方にいい顔をしておいて取り入ろうとしているのかとおもってね」
佐伯は二日目よりも横柄な態度を取り始めていた。我那覇はその姿を見て、何か自分の喉に骨が刺さったような不思議な感覚を覚えていた。
「で、結果は?」
「ん?あ、ああ。結果は【人狼じゃない】、白というやつだな」
「では、お待たせしました霊感師の結果を聞こう」
「その前に、一つ、いいじゃろか?」
紺野が口を開く。
「どうぞ、コンノさん」
「今朝誰も犠牲者がでておらんということは霊感師さんの事は信用していいじゃろうか?アマミヤさんが霊感師じゃった可能性はないわけではないのよな?」
確かに天宮は自分が何者なのかを誰かに伝える時間は無かった。
「んー。そうだね、可能性はあるだろう。だけどそれはないんじゃないかな」
「どうして?」
今度は貴志戸が口を挟む。その光景を見て酒々井が端で口角を吊り上げていた。
「彼は非常に寡黙だった。みんなからも色々指摘されていたから当然彼も自覚していたはずだ。そしてその彼は【全員の話を聞いてから吊り位置に言及した】んだ。もし彼が何らかの能力を持っていたなら、吊られる危険を感じて自分から告白しているんじゃないだろうか」
「なるほどの、確かに吊られてしまえば能力を持っていたことは伝えられぬから、だのう。わざわざ説明してくれてすまんのう」
いえいえこちらこそと霧島は返し、須郷に振った。
「じゃあ改めて、結果を。アマミヤさんはどっちだった?」
須郷の言葉を、全員が固唾を呑んで待っていた。
「えと、はい。【アマミヤさんは白でした】」
その結果にある者は緊張を解し、ある者は眉をひそめ、ある者は目をつぶり祈りを捧げていた。
そして我那覇は
「やっぱり、白だったか!」
思い切り声を上げていた。
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