悪魔の証明

蓮見総司

プロローグ

コツコツとヒールの音を響かせ、廊下を歩くスーツの女がひとり。


遠くからひぐらしの声が聞こえた。


これから、仕事が始まる。


ロッカーの鍵を開けて、仕事着をスポーツバッグから取り出した。


シャツのボタンを開けると、豊満な胸が露わになる。


誰かが来るまでにサラシを巻かなければ。

私のキャラにエロは不要だ。


ギュッギュッ。


内臓が口から出そうなくらい、キツく締める。

余った肉がサラシに乗っているが、上着で隠せばいい。


スカートを脱いで、ニッカボッカを履く。

特攻服に腕を通す。

くるっとターンしたら裾がはらりと舞う。


これがいつものルーチン。


控え室に行くと、もう先客がいた。


「コーチぃーねー飲みにいこーよぉ〜ねぇ〜ねぇ〜」


ロリータファッションの美少女が、コーチにしなだれかかっている。


甘えた声が発情期の猫を連想させた。


コーチは一瞬だけ不快そうな顔をする

「んー?バンデージ巻こうな〜」

「はーい」


美少女は手を差し出すと、コーチが手際よくバンデージを巻いてグローブをはめた。

彼女パンっパンっと二回グローブ同士を叩いた。


「コーチ、お願いいたします」

「お、おう」

コーチは何も言わずにバンデージを巻いてグローブをはめる。


私はグローブの手を合わせて祈る。

無事に仕事が終わりますように。


その姿を、コーチは優しい目で見た後、ふっと笑った。




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