240.幼い狭間(フィルザス視点)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(フィルザス視点)
なんで。
なんで。
なんでなんで!?
どうして、カティアが何もしてないのにいきなり倒れちゃうわけ!?
慌てて、抱きとめたセヴィルのところへ全員で駆け寄って。目を閉じてしまったカティアの額に僕は手を当てたんだけど。
「……魂が、ない?」
「「「え!?」」」
「ふゆぅ!」
残滓くらいは残ってても、源に等しい魂が、神である僕の手を伝わせてもどこにも存在しない。
なのに、カティアの身体はまだとても温かい。
「……どう言うことだ」
カティアを抱えたままのセヴィルが僕に片手を伸ばしてきた。
当然、胸ぐらを掴まれても僕は抵抗出来なかった。だって、信じれなくて。
「カティアの魂がないとはどう言うことなんだ、フィルザス神!」
「お、おい、ゼル!」
セヴィルの怒りが僕に向くのも無理はない。
こんな所業が出来るのなんて、僕を含めた他世界の兄様姉様達最高神のみ。
けど、僕は何もしていない。
(いったい、誰が……)
そして、なんのためにカティアを連れて行ったのか。理由が全然わからない。
それを考えようにも、セヴィルは正気でいられないし、僕も正直焦っている。
いったい何故、カティアから魂を抜き取ったのか。
「ゼル、落ち着けって! カティアのことだからってお前らしくもねーぞ!」
「しかし……」
「そうよ。カティアちゃんがいきなり倒れたからって、フィルザス様だけを責めるわけにもいかないわ!」
「…………」
「二人とも、ありがとう……」
「ふゅ、ふゅぅ!」
「はは、クラウもね?」
けど、レイ兄様は昨日の晩に会ったからまずあり得ない。
なら、クロノ兄様? もしくはサフィーナ姉様?
どっちにしても、早く確かめなくちゃいけない。
「セヴィル、カティアを女性の寝室に運んで寝かせて。僕が夢路で飛んで魂を追いかける!」
「……わかった」
とにかく、急がなくちゃ。
片付けをディック達に任せて全員で寝室に向かい、カティアの身体を横たわらせてもらったら、僕もすぐに横になって手を握った。
「急いで追いかけるから!」
「頼んだぞ、フィー!」
「お願いします!」
「ふゅゆぅ!」
目を閉じて、詠唱を省くことなく唱えて。
カティアの頭の中に入り込む勢いで、自分の頭の中で想像して。
詠唱を唱え終わったら、僕は黒い闇の空間の中に立っていた。
「……カティア。カティアー!」
ここは、夢路の空間。
魂も行き交う、狭間の空間。
ひょっとしたら、サフィーナ姉様もいるかもしれないが、僕が叫んでても誰も返事が返って来なかったが。
「……導け、導け」
導きの腕を動かして、反応がある方角に何度も角につまずいては走ったが、カティアはどこにもいない。
魂の導きを使っているのに、どこにもいないだなんておかしい。
走っても走っても、魂の残滓だけは辿れても、カティア本人の魂がない。
いったいどこに!
「カティア! 僕だよ、フィー! いるなら返事して!」
魂はあまり身体から離れ過ぎてはいけない。
僕ら神はともかく、寿命の長い黑の世界の人間だからって、例外はない。
魔力が切れて、魂の緒も切れて。
繋がりが消えてしまった身体は、やがて死を迎えてしまう。
そんなこと、カティアにあって欲しくはない!
「……………………だぁれ?」
一生懸命叫んでたら、幼子でも今のカティアよりさらに幼くしたような子供の声が届いた。
振り返ると、僕より茶色寄りの黒髪の少女が立っていた。
初めて見るけど、これはカティアだ!
「カティア!」
「お兄ちゃん、だぁれ?」
「僕だよ。フィー、フィルザスだって」
「知らない。僕、かてぃあじゃないもん」
「え、じゃあ……」
「
「……レイ兄様の世界にいた時の、カティア?」
どう言うことだろうか。
カティアの魂が、おそらく幼体化している?
セヴィルが異界渡りをした頃の時間流まで。
けど、そんな事を考えている場合じゃない!
「か……カナタ。聞いて」
僕は自分も落ち着かせるために、膝をついてカティアの肩に手を置いた。
「なーに?」
「このまま、君はここに居たら死んじゃうんだ。それはわかる?」
「しん……じゃう?」
「そう。君は今自分の身体にいないんだ。この空間は夢に似てるけど、夢じゃない。死んだ後の世界にまで行ったら……セヴィル、ゼルお兄ちゃんのところにも行けないよ?」
試しにセヴィルの事を引き合いに出すと、カティアはぼーっとしたままだった表情から、すぐに笑顔になった。
「お兄ちゃん、ゼルお兄ちゃん知ってるの!?」
「うん。知ってる。君が戻ったら、すぐに会えるよ?」
「行く! 行くよ! ずっとお兄ちゃんに会いたかったから! でも、怪我してるのにいいのかなあ?」
「怪我?」
「お腹、痛いの……」
カティアの腹部を見てみると。
血で赤くシャツが染まっていたのだった。
(まさか、これって!)
クロノ兄様が言ってた、カティアが蒼の世界で死んだ原因。
たしか、刺されて死を迎えたって言ってたけど。
「怪我してるから、ゼルお兄ちゃんにはずっと会えないと思ってたの」
「…………」
どう言うことだ?
魂の年齢と、カティアが死んだはずの年齢が相互していない。
なら、この幼いカティアはいったいなんなのか?
それに、ここに連れてきた神はいったい……?
「大丈夫。傷は僕が治すから、君はフィー達の世界に戻れるよ?」
「だぁれ?」
「く、クロノ兄様!?」
僕に似て、僕とは違う虹色の瞳の持ち主。
突如となく現れた、僕ら世界の神々の上に立つ流浪の最高神。
クロノソティア兄様は、いきなり僕らの目の前に現れたのだった。
「少しぶり、フィー」
「兄様。まさか、兄様がカティアをここに……?」
「惜しい。手引きしたのは、サフィーナだけど、カナタの傷を癒すために僕が動いたのは本当」
「傷……?」
「サフィーナから聞いてるはずだよ? 僕と君で造ったカティアって身体に、カナタの魂を繋ぎ止めようにも綻びが出来てたって」
「それは姉様が封印をかけたから大丈夫じゃ……」
「それが。ついさっき、カナタ……カティアがセヴィルへの想いを自覚しちゃったんだ。それで魂は暴走しかけたんで、僕とサフィーナが協力したわけ」
「なんのお話?」
「んー? お兄ちゃん達が君の怪我を治すための話」
「ふーん?」
「けど、そのカティアは……?」
「急いで引っ張ってきたから、退化しちゃっただけ。一時的なモノだから身体に戻ったら忘れてるよ」
さて、とクロノ兄様は膝をついてカティアの傷がある腹部に手を当てた。
「痛いの痛いの飛んでけー」
なんともずっこけそうな詠唱だが、カティアには効果あったみたいだ。
「痛くなーい!」
「うんうん。これでゼルお兄ちゃんのところに行けるよ?」
「早くあいたーい!」
「じゃ、あっちのお兄ちゃんのとこに行っておいで?」
「うん!」
カティアは兄様の言葉に従って、僕の隣に立った。
その時に、髪は金髪に戻り、瞳も兄様と同じ虹色になった。
「あ、あれ。フィーさん?」
ついでに、退化してた記憶も元に戻ったみたい。
「セヴィルとカナタの
兄様は僕らに向かって、にっこりと笑顔になった。
「綻びはいずれ、ほどけてしまうものさ。カティア、今の自分に自信を持って?」
「……は、はあ?」
「じゃ。送ってあげるから、起きたら大変だよー?」
「「大変??」」
質問を返したと同時に、勢いよく風で吹き飛ばされてしまった。
僕は、目を開けると隣にカティアがいなかったんだけど。
実際は、カティアの傍に付き添っていたセヴィルに抱きしめられてたのが見えたのだった。
「せ、せせせ、セヴィルさん!?」
「…………無事で、良かった」
「ふゅぅううううううう!!」
とりあえず、疑問は色々残ってるけど。一件落着となったわけだった。
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