239.それは想い








 ◆◇◆









「ふっふっふ、ふふふ! だーいせいこーう! 今日は宴だよ、二人とも!」


「おおおおお!」


「さすがです、フィルザス様!」



 お茶会もひと段落していると、転移の魔法で戻ってきたフィーさんが開口一番にそう言って。


 僕とセリカさんは当然嬉しくなったので、拍手喝采!



「え、え、お料理とかどうしますか? お二人とも、すぐには戻って来られませんよね?」


「ま、僕も言っちゃったし。積もる話も多いだろうから……お昼は、さっき作ったメイン以外は簡単に作って皆で打ち合わせしようか?」


「「打ち合わせ??」」


「だーって、御名手みなての儀式しちゃったんだよ。二人ともお互いに認め合って事実上の夫婦になっちゃったんだよ? そりゃぁ、『結婚式』の打ち合わせじゃないか!」



 たしかに、それは打ち合わせしなくてはいけない。



「けど、結婚式って僕達が勝手に打ち合わせしちゃってもいいんですか?」


「と言うか、エデがいるし? 自分の妹と親戚がだよ? 神王抜きにして、計画してるんじゃないの?」


「エディお兄様ですものね」


「そうなんでしょうか?」



 世界の常識が違うから、結婚式のプランとか決めるのも、やっぱり違うのかな?


 とりあえず、アナさん達はしばらく戻って来ないからとお昼ご飯を手早く作ることになり。


 ディックさんにお願いしてエディオスさん達を呼んできてもらったら。



「よっし! 御名手の儀式も成立してんなら、婚約期間も合わせて一年後にゃ結婚式させんぞ!」



 もう既に考えていたらしく、フィーさんからの報告もそこそこにエディオスさんは決定を下しました。



「まあ、そこは妥当だな」



 お茶を飲みながら返事をされたセヴィルさんは、いつも通り涼しいお顔だ。



「一年、ってこの世界の感覚だと早いんですか?」


「いや。御名手となれば……が前提だな。普通は王族でも三年は婚約期間が必要だ。その間に、本当に御名手であるかどうか見極めねばならない」


「何代か前のじい様らが決めたんだけどよ?」



 つまりは。


 僕は置いとくにしても、セリカさんとエディオスさんの場合も儀式が成立しちゃったら……同じくらいにスピード婚になっちゃうかも?


 ちょっと気になったので、フィーさんを引っ張って壁際に連れて行く。



「フィーさん、エディオスさんとセリカさんの場合はどうなるんですか?」


「んふふ。やっぱ、気になるぅ? まあ、回りくどい事は言わないけど……神王だから、儀式が成立したらトントン拍子に進んで、二ヶ月かそこらでスピード婚?ってやつかなぁ? ディオは婚約期間伸ばしたいからって、一年以上は期間置いたけど」


「おお」



 やっぱり、神王様って地位は特に別格なんだ。


 それにしても、デュアリスさんは恋人期間がほしいって、結構ちゃっかりされてるんだね?


 けど、エディオスさんも言いそう。


 セリカさんと離れてた期間は結構長い。


 今の時間も大事にしたいだろうけど、恋人期間もね?



「あ。自分の事ないがしろにしちゃダメだよ、カティア? 君は本来の御名手の儀式しちゃってるんだから、体が元に戻ったらいつだって出来るんだよ?」


「ぶ!?」



 予想外の斜め上。


 まさか、考えないようにしてた自分自身の事を突きつけられるとは思わなかった。


 いや、そうじゃない。


 目を逸らしてたから、だ。


 身体はいつか元に戻るとしても……セヴィルさんとそう言う関係になってしまうのが。



「……あれ、カティア?」



 僕自身、自信がないんだ。


 だって、僕の取り柄って、料理以外に特にない。


 いくら、セヴィルさんが僕を好きって言ってくれても。



「カーティーア?」


「! うぇ、はい!」


「んもう。またしょーもないこと考えてるんでしょ?」


「え、え?」


「心は読んでないよ? その顔見てたら、だいたいわーかる!」


「いだ!」



 フィーさんに、渾身のデコピンをお見舞いされてしまった。



「君が自分に自信がないと思い込むのは今更だけど。君だけの問題じゃないんだ。セヴィルの気持ちも含めて、もっときちんと受け止めてあげて?」


「え?」


「だって、君との出会いがなきゃ。あの子はあそこまで変われたんだよ? 最初と2回目どっちでも」


「!」



 そうだった。


 僕は、今の僕は……セヴィルさんの気持ちを蔑ろにしてたのと同じ。


 自分に自信がないからって、変わろうとしてるセヴィルさんが僕を好きって言ってくれたのは紛れも無い本心から。


 そして、僕の気持ちがはっきりしてないのを今も待っててくれている。


 それは、御名手抜きに、相手に対して失礼過ぎる事だ。



「だからさ。まずは、セヴィルのことが好きか嫌いかを考えようよ。セリカからも言われたじゃない?」


「そう、ですね」



 好きか嫌いかと答えるなら、の質問で僕はひとまず『好き』を選んだ。


 だけど、それは単純なlikeとloveなのかを答えていないのと同じ。



(僕は、セヴィルさんを……どう思ってるんだろう?)



 それは、like以上にlove未満?


 ちょっとだけ、意識してセヴィルさんを振り返ってみると……何故かそのまま目がばっちり合っちゃった!



「……何を話しているんだ?」



 ただの、なんて事のない質問でも。


 僕には、心配されちゃったのかな?と思うくらい、嬉しい事に思えて。


 胸がキュンキュンし出した。


 すると、横からフィーさんが囁きかけてきた。



「君。今、すっごくセヴィルが好きって顔してるよ?」


「ふぇ!?」



 自覚がないのに、そんな顔をしていた?



「いつまで隅っちょでだべってんだよ。時期の調整すんだから、お前らも来いよ」


「ほいほーい」


「は、はい!」



 エディオスさんに呼ばれて慌てて席に戻ると。


 途中、ちらっと見たセヴィルさんは。


 何故か、口元を優しげに緩めていました。



(ああ。そうか)



 その表情を見る度に、胸が締め付けられる思いになる。


 それが、もう『好き』って事なんだ。


 そう自覚すると、ずっと気を張ってた気持ちが緩んでしまい。


 僕は、何故かそのまま気を失ってしまったのだった。



「カティア!?」



 セヴィルさんの声が、少し遠い。


 彼に抱きしめられたとわかっても。


 僕の意識は、閉じるのを止められなかった。



「ふ……ふゅゆううううううううう!」

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