072.デリバリーに負けないピッツァを-②(途中別視点有り)

 






 ◆◇◆









「せーのっ、と!」


 ぽんっと宙に浮かせて、素早く手を入れたらくるくると回していく。


「すごいわ!」

「ふゅゆ!」

「やっぱり何度見ても飽きないねぇ」


 観客の皆さんがパチパチと拍手してくださるので、正直照れます。

 クラウは音は出せないけど、一生懸命皆さんの真似をしようとしているので大変可愛い!


「体のハンデをものともしないわね? そこはやっぱり癖がついてるせいかしら」

「そうでしょうね?」


 何せ布巾で練習してたのは小学生からだったし、中学からはお母さんに許可もらって生地づくりを独学とは言えずっと作り続けてきましたから。専門学校と就職先ではいくらか修正はさせられたけども。


「ファルミアさんもやってみますか?」

「うーん……破く以前に落としそうだからやめておくわ。今日はそこまで時間もないし、今度ゆっくり教えて?」

「はーい」


 なので、僕はぱぱっと焼く枚数を伸ばしていきます。


「ふゅ、ふゅゆゆ!」


 一枚一枚広げる度にクラウは羽根をピコピコさせながら終始楽しそうにしている。よっぽど面白いみたい。

 ちょこっとだけならアクロバット取り入れて出来なくもないけど、時間もスペースもないから自重します。クラウには今度見せてあげようっと。


「生地、ソース、具材全部大丈夫……って、肉系はバラ肉とルースト以外は照り焼きチキンだけかしら?」

「え、十分じゃないですか?」


 ツナマヨもあるからこってり系のボリュームとしてはいいとは思うんだけど?


「せっかくのピザだから、サラミも欲しいわ!」

「ああ!」


 それは僕もうっかりしてました!


「サラミってなーに?」

「ルーストのようなものを干した腸詰めのことです!」

「ってことは……こっちで言うラミートンのことかな?」

「ええ、そうね」


 なので取ってくるとファルミアさんがささっと行かれました。


「あんなおつまみの肉も使えるんだ?」

「薄ーくスライスして使うんです」


 日本の冷凍ピザの定番はサラミピッツァもといミックスピザなんだよね。

 さて、ベンチタイムに時間割いちゃダメだから、まずはまかない用に回す方のツナマヨピッツァ焼いていきます。


「ジェノベーゼを薄ーく生地に塗ってからアリミンのスライスを散らして、スプーンでツナマヨを1ピースに均等になるように乗せます」


 量は大さじ1くらい。

 場所は中央じゃなくて耳に近い広いとこに半円状に乗せます。

 これを三枚同様にトッピングしてチーズを散らしてから石窯へ投入。

 ただし、一枚だけはクリームチーズを少量散らしたダブルチーズの試作品。

 超極暑な石窯に投入した途端、クリームチーズはすぐに溶け出して薄っすらキツネ色になったからピールでくるくる回します。


「カッツの焦げるいい匂いだわ!」


 戻ってきたファルミアさんが、厚紙に包まれたサラミらしいモノを手にうっとりとされた。


「すぐに焼けますよー」

「この石窯だと数分もかからないのかしら?」

「そうですね、2、3分程度ですよ」


 この石窯と魔法の火力がすごいお陰だからだけど。

 すぐに出来た三枚をお皿に移してカットしていき、マリウスさんとライガーさんも呼んできて新作ピッツア実食と相成りました。


「ノットが白っぽいですな?」

「オーラルソースを混ぜ込んだからこの色なのよ」

「この白いものは何でしょうか?」

「カッツクリームです」


 試食はクリームチーズ入りの方に注目が集まったので一人1ピース食べることに。クラウには十分冷めてから食べるよう注意を忘れず。


「いっただっきまーす」

「いただくわ」

「「「いただきます」」」


 とろけた二種類のチーズでもクリームチーズは塩っぱさがあまりなくまろやかで、ツナマヨと一緒に食べれば病みつきになってしまう。アクセントの玉ねぎがジェノベーゼといい仕事してる!


「美味しい!」

「この組み合わせ、ありね」

「まろやかでメインのカッツとの相性が何とも言えませんな」

「ノットとの相性も抜群ですよ」

「ふゅ、ふゅーぅ」


 僕も僕もー!、とクラウがぴこぴこ手をばたつかせたので、ほんのり温みを残したピッツアを一口サイズに切ってあげてから手渡した。


「ふゅ」


 あーむっ、と一口で頬張ったので喉に詰めないか心配にはなったけど、それは杞憂ですみクラウは水色オパールの目をキラキラさせた。


「ふゅふゅぅ!」

「美味しい?」

「ふゅ!」

「そろそろエディ達にも知らせた方がいいわね」

「僕が呼んであげるよ」


 ぱっちん、とフィーさんが指を鳴らすとぽんぽんって薄っすら透けた鳥さん達が数羽出てきた。クチバシには何か手紙のようなモノを咥えています。

 フィーさんがもう一度指パッチンをすれば、鳥さん達は壁をすり抜けながら行ってしまわれた。


「今のうちに軽く打ち合わせしましょうか。生地を伸ばすのはカティ。トッピングは私。カットはフィーでいいかしら」

「はい」

「異議なーし!」


 それと僕は、ピールに乗せて石窯に投入するのも役割に加えられました。








 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(エディオス視点)








 執務も終わりに差し掛かる辺りで、神力の気配を感じた。

 クラウではなくおそらくフィーだろうと推測すれば、俺の背後から鳥の羽ばたく音が聞こえてきて透けた鳥が一羽、俺のいる机に降り立って来た。

 クチバシには言伝が書かれた紙を咥えていたから、十中八九フィーからの通達だろうな。


「フィルザス神からのか?」

「多分な」


 鳥から紙を受け取ればそれに姿はかき消えてしまい、俺の手元には紙しか残らなくなる。

 折りたたまれた紙を開くと『もう出来るからおいでー?』とだけあった。


「後は焼くだけのようだぜ?」

「早いな。おそらくファルミアが一緒だからだろうが」


 執務も昼以降に進める予定以外のもの程度にしてあっから問題はない。

 つまり、カティア達のピッツァを思う存分食えるってことだ!





 コンコン!





 扉をノックする音が聞こえ、近習の一人に目配せして対処するように指示する。

 すると、程なくして声が上がった。


「ユティリウス陛下⁉︎」

「ユティ?」


 放っておくわけにはいかないから中に入るよう指示させた。

 ユティの手には俺と同じようなフィーからの通達の紙が握られ、早く行きたいとばかりに頰は興奮で赤くなっていた。


「もう食べれるんだって⁉︎」

「落ち着けユティ。つか、何でここに来んだ? 先に食堂行けば」

「エディに用があったからさ」


 ちょっと来いと肩を掴まれ、何故かゼルから距離を置いた。


「何だよ?」

「エディにちょっと協力して欲しいことがあってね」

「俺に?」

「ゼルとカティのことさ」

「は?」


 俺への協力と言うのが嫌な予感しかしないが。


「昨夜ミーアが言ったように二人に城内を散歩させる機会を作ってあげようかなって」

「……散歩か」


 範囲は極力絞らなくてはならないが、二人はほとんどと言っていいほど話し合えていないから悪いことじゃねぇな。

 ただ、そうすっと……。


「俺の執務増やす気か……?」

「サイノスにも話はつけてあるからめちゃくちゃ増えはしないと思うよ?」

「サイノスにもか?」

「さっきちょっとね? で、どーぉ?」

「まぁ、ここに連れて来て一回も宮城の案内出来てねぇからカティアにはいい機会だよな…………わーった、許可する」

「ゼルにはまだ言っちゃダメだよ?」

「だな。意識しまくるだろうし」


 女との逢引きなんて多分身内除けば人生初じゃね?

 奴に振り返れば怪訝そうに眉を寄せていやがった。


「俺を除け者にして何を話しているんだ?」

「まあ、後で分かるから」

「今でよいのでは?」

「ユティの言うように後の方がいいぜ?」


 てめぇのカティアへの動揺っぷりはあからさま過ぎっから予測しやすい。おまけにそう言うのが無自覚ときてっし質が悪いのなんの。それはカティアにも言えることだが。


「とりあえず、ピッツァ食べに行こうよ!」

「そうだな?」


 今は何よりもそれが優先的だ。

 ユティは四凶しきょう達を待たせてるので先に行くと言い置いてから退出し、俺とゼルは近習達への指示をある程度済ませてからにした。


「よぉ、そっちも通達来たのか?」


 食堂に続く十字路に着いたとこでサイノスが反対側からやってきた。

 奴を見てそう言えば、と思い出したのでゼルに少し待つように言って廊下の脇にサイノスを連れて行く。


「なんだ?」

「ユティから聞いてんだろ? ゼルとカティアのことだ」

「ああ、散歩の件か?」

「ゼルにはまだ言ってねぇぞ」

「……俺はお前さんを手伝うしか出来んからな」


 ユティが提案してくれた時点でこいつも俺への負担を気づいてくれたのだろう。それは非常に助かる。


「こそこそと……何故俺には言えぬのだ?」

「だーから、あとで分かるっつっただろ?」

「ユティリウスはそう言っていたが、何故サイノスまで加わる?」

「今は聞かない方がいいぜ。せっかくのカティアの料理の味がわからなくなるぞ?」

「……そう、か?」


 サイノスが補足すれば、ゼルは言葉を濁しながら黙ってしまった。

 カティアには悪いが、ダシに使うと聞き分けいいな。これは使える手札が増えていいぜ。


「んじゃ、遅れるといけねーし行こうぜ?」

「そうだな」

「……ああ」


 ファルと一緒だとどんなもんが出来てるのか楽しみでしょーがない。

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