070.デリバリーに負けないピッツァを-①
◆◇◆
今日は僕とファルミアさん主体で作ることになり、フィーさんにはクラウが邪魔にならないよう抱っこしてもらっています。
「ただ、何枚作るかですよねー……」
クラウも入れて全部で13人。
レストランでもそこそこな団体予約並みだ。おまけに出すのはピッツァだけだから種類も豊富にしないと飽きがきちゃう。
「大きさは中くらいにして一種類を二枚か三枚がいいんじゃないかしら?」
「一番大きくなくていいんですか?」
「色んな味比べした方が楽しいじゃない。それに、お代わり出来る分も用意しておけば大丈夫じゃないかしら」
「えーっと……じゃあ、多めでとりあえず50枚分作りましょう。ここにもまかない回せれるのも考慮して」
「そうね」
粉の方はマリウスさん達に頼んであったのですぐに取りかかれました。
「粉以外の材料を順番に入れて混ぜて、粉を入れたらまとまるまでひたすら手でこねればいいんです」
「ピザ生地にはぬるま湯って聞いたことはあったけど、オイルも入れるのね?」
「僕の作り方ではですけど」
僕も本やネットなんかに加えて、レストランでの仕込み方とか色々学んできたが最終的には今のやり方でいる。
もちもちな食感はもちろん、薄目に焼けばクリスピータイプにもなるから面白い。とりあえずは、粉を入れてから二人で終始無言になって生地をまとめます。
「大分まとまってきたかしら?」
ねちゃねちゃな感じはそこまでない綺麗な生地がボウルの中に出来上がっていた。
「じゃあ、次はもっと綺麗にまとめるために台に乗せてこねましょう!」
「りょーかい!」
僕もまとまっていたので、台に打ち粉をまぶしてから自分の生地を乗せる。それから見本のためにこね方を披露した。
「最初は半分に折るのを繰り返すんですが、生地が柔らかくなってきたら中心に向かってまとめていくんです」
見た目はおへそが出来るような感覚なんだけど、口にするのはちょいと下品なのではしょります。
「一朝一夕で出来そうにないわね……」
とりあえずやってみてくださったけれど……全然出来てますよ。初心者だから僕ほどはっきりした形じゃないが、手順としては間違っていない。
「十分いいですよ?」
「そう? これってどれくらいこねればいいのかしら?」
「ツヤが出て、耳たぶくらいの柔らかさになればいいですよ」
「じゃあ、もうしばらくね」
なので、ここからも二人で無言でこねていきます。
出来上がったら、ボウルに戻して濡れ布巾をかぶせておく。
「次はソース作りかしら?」
「はい。でも、三種類作ります?」
「私は食べたいわね」
「僕も食べたーい」
「ふゅ」
元々ファルミアさんとユティリウスさん達に振る舞う予定でいたからご要望は出来るだけ叶えますとも。
なので、ここからはマリウスさん達コックさん達にもご協力してもらうことになります。
「アリミンのスライスとマトゥラーを潰すのを、たくさんお願いします」
「わかりました。あとはカッツを削っておくのも致しましょうか?」
「あ、そうですね。お願いします」
ひとまずは、それらを皆さんにお願いして僕とファルミアさんはマヨネーズから仕込みに入った。
「ねぇ、カティ。せっかくだからツナマヨも作らない?」
「え、ツナマヨですか?」
僕が見てないだけの食材はまだまだ豊富にあるからツナがあっても不思議じゃないけど。
「ええ。ツナはこっちじゃノットって言うのだけれど、保存食として庶民が使う方が多いわ。おそらくこの厨房でもあるでしょうし、なければ中層か下層まで行ってもらってくればいいわね」
「下には行かれたことがあるんですか?」
「ないわよ? 一応は他国者とは言え王妃ですもの。
「でも、詳しいですよね?」
「まあ、王妃になる前は色々とね」
そこは横に置いといて先にマヨネーズことオーラルソースを手早くたくさん作っていき、マリウスさんにツナを拝借出来るか聞いてみました。
「ノット、ですか? ええ、ほとんどまかないにしか使いませんが」
「じゃあ、氷室から借りてもいいかしら?」
「ですが、ノットをピッツァにとはどのように?」
「こちらにはまかない用に回してあげるから楽しみにしててちょうだいな」
「わかりました」
ツナマヨピッツァはほとんどデリバリーピザメニューに多いけど、いったいどんなのになるだろうか。
ただどのソースを土台にするんだろ?
マヨネーズじゃないのはわかるけけど、残りの二つどっちにしても美味しそうだ。
氷室に行き、どこかなどこかなと探していたらファルミアさんから『あった』と声が上がった。
「これね」
「どう言う状態なんですか?」
「ラベルがない缶詰めよ。開け方もプルタブをひねればいいの」
見せてもらうとアルミと言うよりは銀製に近いのかな?
日本の市販サイズよりは大分大っきいけど、たしかにファルミアさんの言う通り、シールラベルもない缶詰めがどでんと棚にいくつも置いてあった。
無記名かと思ったけど側面に刻印は押されてあったよ。文字の勉強を始めたばっかりだから、僕にはまだまだ読めないけどね。
「うーん。とりあえず、これ一個で200gくらいはあるから足りなきゃまた取りに来ればいいわね」
「これ丸ごとツナマヨにするんですか?」
「ええ。私はほとんどパイかサンドイッチくらいにしか使わないんだけど、リースも食べるけど
「ああ……」
これを持って戻り、フィーさんがクラウを高い高いとあやしてるとこを通り過ぎていく。
そして、ボウルを二つ用意して一つは油切り用、もう一つはツナマヨ用にして、油とツナを分けてボウルに入れていく。
缶が大っきいから油凄いかばと思ったけど、僕が知ってるようなツナ缶のオイル漬け程度に少々多いくらいだった。この油は使えなくないけど、まかないで使ってもらおうと分けておいたらしい。
「アリミン刻んだのを入れてもいいけど、スライスを生地に散らすならこれにも入れなくていいわね」
土台とは分けておいたオーラルソースをドバッと入れてよく混ぜておく。味見に舐めてみたら、馴染みあるツナマヨのお味だった。
「さて、次はカティのジェノベーゼね?」
「魔法があるから楽ちんですよねー」
材料を全部取り揃えてボウルに入れて、風の魔法を行使させれば出来ますよ?
「縦横無尽に回れ、
ボウルにノコギリ歯を表面につけた風の球が出現し、中に落としていけばフードプロセッサーと同じように具材を切り刻んで混ぜてくれる。
「風の魔法をこう使うのね?」
「ファルミアさんは使われないんですか?」
「使わなくないけど、もっと簡易的に済ませる事の方が多いから」
このまま眺めててもいけないので次は具材作りに。
「カティ、照り焼きチキンは私が作っていいかしら?」
「お願いします!」
フィーさん達が絶品と言うくらいの照り焼きチキンを是非とも僕も食べてみたかった。
なので、ここからは分担作業となり僕は他の具材集めとカット。ファルミアさんは照り焼きチキン作りにと別れました。
「トウチリンとアリミンのスライスは出来たし、次はお肉」
マリウスさん秘蔵のベーコンは使わずにごく普通のを使いますとも。ちゃんと普通の豚バラ肉のベーコンの場所を教えてもらって拝借してきましたよ。
ただ、今日はジャガイモは湯がかずにベーコンやソーセージオンリーにする予定。
ジャガイモを乗せたらお腹に溜まっちゃうからね。今日は種類は色々増やす予定です。
とここで、コンロ釜の方から醤油のいい匂いがしてきた。
「あれ、この匂い?」
「カティアちゃんが前に作ってた時もたしか」
「何作ってたんだっけ?」
コックの皆さんも頷かれるくらい超いい匂い!
作り方見たいけど、自分の仕事に専念しなくっちゃ。
ベーコンはとりあえず前回作ったよりも多めにスライスして、ソーセージもほぼ同量に。男性がどうしたって多いから消費量は半端じゃないだろうから。
「カティアさん。カッツ以外の仕込みは整いましたよ」
「ありがとうございます」
トマトソースの下準備が終わったのをマリウスさんがお知らせしてくれたのならば、僕もそっちに取り掛かる。
オラドネのスライスをリンネオイルで炒めて香りが立ってきたら、アリミンのスライスをドバッとその鍋に炒めてしんなりするまで炒める。
「ニンニクにオリーブオイルと玉ねぎだけでいいの?」
「わっ⁉︎ ……もう終わったんですか?」
「ええ、冷ますのにバットに移したわ。あと、つまみぐいされないように結界張ったけど」
少々念入れ過ぎないかと思ったが、振り返ったらフィーさんが指をくわえてたので納得が出来た。クラウもよだれ垂らしてたし。
鍋の中のアリミンがしんなりしてきたら、潰したマトゥラーや調味料をドボンと投入。あとは沸騰するまでしばしコトコト煮るだけ。
「……思ってたより簡単ね?」
「市販のピザソースの作り方は僕も知りませんが、うちの店ではこう言う感じですよ?」
トマトも鍋に入れてから手袋つけて潰すけど、ここは手袋なんてないし衛生的に鍋の中で潰すのはよくない。
「レストランの味、ね。それにしてはコンソメとオレガノに塩胡椒だけってお手軽だわ」
「これでパスタとかも作っていたんですよ」
「オールマイティに使えるの? だとしたら、モッツアレラと合わせたら美味しそうね」
「あーー、言わないでください。食べたくなります……」
フレッシュチーズって昨日わかったクリームチーズ以外なさそうだもの。
「あ」
「どうかしたの?」
「せっかくですから、カッツクリームも乗せましょうよ!」
「あら、そうね。じゃあ私が作っておくわ」
「お願いします」
チーズが一種類増えただけでも、色んな組み合わせが出来るもの。
ファルミアさんがクリームチーズを仕込んでる間にジェノベーゼも出来上がったので、トマトソースの様子も見ながら今度は組み合わせのメニュー決めをすることになった。
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