066.情報の共有-③

「それにはまず確認しないといけないことがあるわね。フィー、私のことはどこまで知っていて?」

「んー? 多分君が考えてる通りでいいと思うよ?」

「そう。なら、完全に知らないのはエディとリュシアだけね」


 ファルミアさんはひと息吐かれてから自分の胸に手を当てた。


「この際だからはっきり言うわ。私は、前世の記憶を持った転生者なの。ただし、この世界じゃなくてカティと同じ蒼の世界のね」

「はぁ⁉︎」

「ファルミア様が異界からの転生者ですの⁉︎」


 事情を知らないでいたエディオスさんとアナさんは目を丸くされた。だがセヴィルさんは本当に知っていたようで、特に驚かれていなかった。


「なんでずっと黙って……って、ゼルはなんで驚かねぇんだよ」

「俺は以前に知る機会があったのでな。口止めはされていたが」

「まあ、ずるいですわ。ゼルお兄様」

「ずるいも何も、不意打ちだったから致し方なかったんだが……」


 どう言う経緯で知ったんだろう?

 聞いたら教えてくれるかな?


「まあ、ゼルに伝わったのは偶然なんだけどね」

「あ、じゃあミーアがよく言ってたニホンって国がカティと君の出身国ってことかい?」

「ええ、そうよ。時間軸がどうズレたかはわからないけれど、私もカティも過ごしてた時代はほとんど一緒らしいわ」

「なんでわかったんだよ?」


 エディオスさんが質問を投げれば、ファルミアさんはちょっと待ってと僕がお借りしてる机に向かった。

 その上には僕が手なぐさみに書いていた日記帳が置かれていて、ファルミアさんはそれを持って戻って来られた。


「カティのこの日記よ」

「「「日記?」」」

「この中に書かれている文字が、私とカティには馴染みのある日本語だったからよ。それに、レシピの書き方も、私が転生する以前に本とかであるようなので見てきたのとほぼ同じなの」

「へぇー、カティ読んでみてもいい?」

「ど、どうぞ」


 ユティリウスさんが興味津々になっていたので、無碍に断れないなと了承をした。

 奥さんから僕の日記帳を受け取ってパラパラとめくられていくが……段々と険しいお顔になっていった。


「……全然読めないや」

「無理もないわ。こっちの言語文化とは真逆だもの」

「どれ…………さっぱりわかんねぇ」


 エディオスさんも覗かれたが、全然読めないので首を傾いだ。

 僕としては、こちらの世界の言語の方が断然難しいですよ。僕がいた世界でも摩訶不思議な言語は多種多様あったが、絵文字記号?みたいなのになってくるともうお手上げ。


「これを読んで、カティのことを最初私と同じ転生者なのかと勘違いしてしまったけど……どうやら違うようだものね」

「多分、ですけど」


 トリップの方法は未だわかっていないが、少なくとも転生ではないと思う。それも憶測でしかないが。


「ですが、ファルミア様。わたくし達はお会いして40年近く経ちますのに、何故今までお教えくださらなかったのですか?」


 不安気な面持ちになったアナさん、ちょっと凹んでいるようだ。

 たしかに数年ならまだしも、そんなけ長い期間秘密にしていたのは僕でもおかしいと思う。

 注目がファルミアさんに集まると、彼女は細く長い息を吐いていた。


「言い出すきっかけ、と言うか。偏見意識を持たれたくなかったって、前世から引き継いでた知識で躊躇っていたのもあったの。ただでさえ、今の私の実家のことを公表するのにも時間が必要だったし」

「ファルミアさんのご実家?」


 そこは僕は知らないからクラウと首を傾げたが、他の皆さんは納得されてるみたいだった。


「ミーアの実家はねぇ?」

「又聞きだが、うちにも似た系譜はあるからな?」

「あの家の者として生まれたから我らが守護下にいられたが……」

「簡単には言えまいな」

「「相違ない」」

「えーっと?」


 一体どう言うお家なのだろうか?


「カティにも言っておくわ。うちの実家は『暗部』を育成したり、出身者が多いところだったの。暗部はカティにわかりやすく言えば、スパイなんかを生業とする隠密組織の要ってとこね」

「それのどこがいけないことなんですか?」


 物凄くカッコいいお仕事ではないか。

 映画の見過ぎのせいもあるかもだけど、ちょっと憧れちゃうんだアクション物って。


「カティなら、そう言ってくれると思ったわ」


 何故かファルミアさんは物凄く安心されたお顔になったよ。


「暗部はね。王家の守護を任される程の重大な任務を課せられるけど、表舞台にはほとんど出ちゃいけないって暗黙の了解があったんだよ」


 説明してくれたのはユティリウスさんだった。

 こちらもかなり安心されてるご様子。


「王様とかの影武者って存在ですか?」

「大雑把にはそう言う任務もあるわ」

「大雑把?」

「他は流石にカティにもキツい内容があるの。そこはごめんなさいね」

「あ、はい……」


 スパイって、映画じゃドラマとかではカッコよく描かれてるけど武器やなんやら使って汚れ仕事こなすのが大半。細かい事は無理に聞かないでおこう。


「まあ、そんな家の者が王太子の御名手みなてだったってことがわかったから余計に言えないのもあったのよ。リースには、勘でバレちゃったんだけど」

「だって、態度は装えても根本的なとこはなんだか普通の暗部の人間とは違ったしね」

「結構巧妙に隠してたつもりではいたのよ?」

「うん。だから、逆に気になった」


 ……路線が変わっちゃいますがいいのかな?


「おーい、お前らの惚気話はいいからそろそろ終いにしねぇか?」

「あら」

「ごめんごめん」


 間にエディオスさんが割って入ったことで路線変更は中断されました。


「とりあえず、カティアの容体も大したことなかったからそう言った話はまた明日とかにしようぜ。つーか、カティアはクラウのこととかピッツァ作ったりとかで強行軍だったから早く休ませねぇとな」

「あ、そのピッツァ俺明日食べたい!」

「リース? エディの話聞いてたの? カティは下手したら私達以上に疲れてるかもしれないんだから、そんなワガママ言わないの!」

「えー……」


 ユティリウスさん、物凄いがっかりされました。

 ただ、僕はあることが疑問に思った。


「ファルミアさん」

「なーに?」

「えーっと、ピッツァ……ピザをユティリウスさんに作ってあげたりしなかったんですか?」


 洋菓子をあれだけ手際良く作れるのなら、お料理だってなんでもござれだと思うんだけど。


「ああ、ピザね。けど、私一から生地で作ったことは前世でもなかったから無理だったのよ。パンピザをするにも、ピザソースも同じように作ったことなかったから」

「ああ、市販のあの味付けですね」


 僕のはレストランのレシピから作ったものだから、パンピザをするには味付けが薄味になるだろう。

 ならば、


「明日でしたらいいですよ?」

「え、本当かい⁉︎」

「カティア、無理はしなくていいのだぞ?」

「ぜーんぜん無理じゃないですよ?」

「本当にごめんなさいね。私も手伝えることがあるのなら遠慮なく使って! と言うか手伝わせて‼︎」

「え、あ、はい?」


 勢いに飲まれて僕は頷いてしまった。


「ふゅふゅぅ!」


 枕横にいたクラウは嬉しそうにピコピコと翼や手足をバタつかせていた。

 そんなに嬉しそうにしてくれると作り甲斐があるよ。とりあえずはいい子いい子と撫でてあげました。


「あ、ゼル? さっきのことは、最低カティには近い内にちゃんと話すのよ? すぐにとは言わないけど」

「あ、ああ……」


 思い出した‼︎

 でも、今その話題がすぐに言わないでくれて助かった。心の準備と言うか、まだ自己完結出来てないとこが多々あるから。


「……なぁ。ゼルはともかくとして、カティアはまだ気づいてねぇみたいだな?」

「いい感じではあるのですけれど」

「え、御名手みなて同士なんだからもうそう言う間柄じゃないの?」

「ユティんとこと違って、こっちはマジの意味での御名手みなてだからな。公務もあっから、逢い引きもまだだしよ」


 小声のおつもりでも物凄い聞こえていますよ?

 もしくは、わざと聞かせている感じですか?

 とは言え、


「あいびきって、なんですか?」


 お肉のことじゃないのは流石にわかるよ?


「ああ、日本でももう廃れかけてる言葉だものね。つまり、デートよ」

「でででででデートぉおおおお⁉︎」


 出会って?一週間かそこらでデートなんて出来ますか!

 しかも、この超絶美形さんと並んで歩いたら親子はないにしても兄妹としか見られませんって!


「……カティ。聞くけど、ゼルと城内を歩いたりとかは?」

「ありませんよ‼︎ お忙しいんですから、お手をわずらわすことなんて出来ませんし」

「なんですって⁉︎」

「はぇ?」


 なんでファルミアさんがそんなにも怒るような表情をされるの?

 けれど、彼女は僕の反応は我関せずにセヴィルさんに詰め寄っていった。


「ゼル? なんで必要最低限のことをカティにしてあげていないの? 散歩くらいあなたの処理能力があれば合間にいくらでも出来るでしょう?」

「い、いや、その……」

「エディのお目付役って言い訳はナシよ? 近侍も近習だっているんだから、やりようはいくらでもあるじゃないの」

「だ、だが、式典の準備も」

「即位記念の? まあ、それはわかるけれど。ほんの八半刻も時間が取れない理由にはならないわ。明日とは言わないけど、城内を案内する機会くらい作りなさい。カティをここの区画だけに保護させ過ぎもいけないわ」

「おいおい、ファル⁉︎」


 なんかとんとん拍子に決まりそうになりかけてたが、エディオスさんがストップをかけてくれたので助かった。


「散歩はいいが、区画を広げるのは待て。カティアのこの外見は多少変幻フォゼでもさせねぇと、ゼルと並ばせる抜きにしてもマズいだろ⁉︎」

「っと、ああ……それはそうね。うっかりしてたわ」

「ふぉぜ?」

「俺が初日に髪色変えたりしてただろ? とりあえずはああ言う魔法だと思っとけ」


 たしかに、髪色もだけどこの摩訶不思議な虹色の瞳はまず過ぎる。コンタクト入れたの?にしても、無理があるね。


「フィーさん」

「ん?」

「僕のこの瞳って、物質変換とかでは」

「関係なかったよ? 僕が君を見つけた時からその色だったし」

「おお……」


 やはり身体に関してはまだまだ未明なことだらけだった。


「とーにーかーく、御名手みなて同士なんだから必要最低限の交流くらいちゃんとなさい」

「…………わかった」

「え、え?」


 これはもしやデート決定?

 けれど、話はここで打ち切りとなり男女分かれてお風呂になりました。

 クラウは性別関係ないから僕とだったけど。

 ただ、僕はファルミアさんを見れませんでした。

 だって、アナさん以上の美貌とナイスバディが合わさったお人形さん風のお人のなんて、同性でも羞恥が湧いてとてもじゃありませんが見れません!

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