056.晩餐会への下準備

 とにかく、どれから聞こうか迷っていたら、窓の方からコンコンと何かがノックしてくる音が聞こえてきた。


「おや? リースからの識札のようだな」


 銀髪のお兄さん……とうこつさん? そのお兄さんが窓の方に行って開ければ、外から白い鳥が入ってきたが、食堂で給仕のお兄さんが持ってきてくれた紙で出来た鳥さんと同じだった。

 鳥さんは部屋の中をぐるっと一周して飛んだ後、ファルミアさんめがけて降りてきた。


「何かしら?」


 腕に止まった鳥さんにファルミアさんがふっと息を吹きかければ、さっきのエディオスさんの時と同様に折り紙を開くように崩れて一枚の紙になった。

 あれ本当にどう言う仕組みなんだろう?


「……あらやだ。戻らなきゃいけないようね?」


 美麗な眉を寄せられて、ファルミアさんが困ったお顔になられた。


「どちらにだ?」

「皆の方によ。リースもエディ達からクラウのことは多分聞いたようね。出迎えの準備をされちゃってるようだから、影置いてても後々が面倒になるからって」

「ならば、我が先に言付を伝えてこよう」

「お願いするわ、檮杌とうこつ


 と、ファルミアさんが頷けばとうこつさんも軽く頷いてから手でなんかのポーズを組まれた。


えんに来たせ、【橋萊きょうらい】!」


 カッと、とうこつさんが髪色と同じ銀の光に包まれた。

 眩しくって目を瞑ってしまったが、目を開けた時にはもうとうこつさんの姿はなかった。あれも転移って言うのか?


「カティ、もっとお話ししたいところだけど。どうやら夫に呼ばれたようなの。また後でお互いの疑問は解決しましょうね?」

「あ、はい」


 色々聞きたいこと多いけど、今は目先の問題が第一だ。

 その間にきゅうきさんが他のお二人を近くに呼んで、こちらも転移の魔法の準備に入られているようだ。


「ファル、我の肩に乗れ」

「そうさせてもらうわ」


 よっ、と勢いをつけてファルミアさんが身軽にきゅうきさんの肩に乗っちゃった。

 かなりの身長差あるのになんの障害にもならない。

 そして、そのお姿が美女と野獣のように見えたのは気のせい?


(このお人形さんのようなお人の旦那さんってどんな人だろう?)


 一瞬セヴィルさんみたいな人かなって思い浮かべた時に胸の中がちょこっともやってしたけど、この人既に人妻だと思い出して逆にエディオスさんみたいな人かなと思ってもお似合い以外思いつかなかった。


「じゃあ、カティ。また後で」

「はい」


 ファルミアさんが軽く手を振ってくださると、きゅうきさんがとうこつさんの時と同じく手で何かのポーズを組まれました。


「我行かん、【翔玻しょうは】」


 また部屋の中が眩しく光り出し、反射で目を瞑っている間に皆さんは転移されてしまったようで、目を開けたらもう誰もいなかった。


「はぁー……なんか慌ただしかったね、クラウ」

「ふゅ」


 ディシャスに連れて行かれてクラウの誕生に出くわしたり、パンツェロッティ作ったりクラウの卵の殻を処理したりやなんかで忙しかった。


「……僕もなんか眠いかも」


 お出迎えは僕なんかが行かなくてもいいそうだし、夕飯に呼ばれるまでだいぶ時間がある感じだもの。ちょっとくらいいいよね?





 コンコン。






「あれ?」


 誰だろう?

 とりあえず、クラウはベッドの上に座らせてから僕は扉の方に急いだ。


「はーい」

「カティアさん、私です。コロネですわ」

「コロネさん?」


 誰だったっけと一瞬迷ったが、服選び?の時にいたアナさんの乳姉妹さんだったなと思い出しました。

 扉を開ければ、前にお会いしたようにメイド服を着てるお姉さんがいらしてた。コロネさんはクリーム色のまとめた髪に薄い青の瞳が印象的な可愛らしい女性だ。


「こんにちは、コロネさん」

「こんにちはカティアさん。突然ですが、今からお時間を少しばかりいただけますでしょうか?」

「僕にですか?」


 なんだろうと首を傾げたら、コロネさんはふふっと笑い出した。


「陛下方からお聞きだと思いますが、ヴァスシードから国王夫妻がいらっしゃるようですの。ご夕食がご一緒だと伺いましたので、カティアさんのお召し物をお手伝いに参りました」

「着替え、ですか?」

「ええ。初日は一応皆様ご正装でいらっしゃいますから」


 それは教えてもらえてよかった。

 何も知らずに一人普段着じゃ浮きまくってしまう。

 あ……と言うことは、だ。


「……えーっと、もしかしなくてもドレスを?」

「もちろんですわ。宝飾類もいくつかお持ちしましたので、お早いうちにお召し替え致しましょう」


 けど、今日くらいは仕方ない。晩餐会には正装が普通だもの。


「ふゅぅ?」


 とここで、クラウがふよふよと飛んできて僕とコロネさんの間に浮かんできた。


「まあ、お可愛いらしいですね。聖獣ですか?」

「あ、はい。僕の守護獣になるクラウです」

「ふゅぅ!」


 名前が呼ばれたらピコっと右手を上げて水色オパールのお目々をキラキラとさせました。

 この子が神獣だってバレちゃいけないから、適度に流しておかないと。

 と思っていたら、コロネさんの目の奥がキランと光った気がしたのは僕の気のせい?


「カティアさん、この子もお連れになられますよね?」

「え、はい。多分そうですが」


 寝る様子もないし、置いてくとひょっとしたらぐずりだすかもしれないから連れて行った方がいいかなとは思ってたけど。


「でしたら、こちらの聖獣にも是非お召し物を!」

「えぇっ⁉︎」


 子供服と言うか赤ちゃんの服でも無理な気がするのに何故⁉︎


「ご心配なさらずに。私が今から簡単にお作りいたしますわ!」

「え、あ、その……この子が着る必要あります?」


 このままでも充分可愛いのに?

 クラウは言ってることがよくわかってないようだから、宙に浮きながら首を傾いでいます。


「お召しにならずともたしかに愛らしゅうございますが、せっかくのカティアさんの守護獣ですもの。ヴァスシード国王夫妻の御二方へのお披露目には更に愛らしいお召し物がよろしいと思いますわ!」

「はぁ……」


 可愛らしい見た目に反して、コロネさん熱い女性でした。

 とりあえず、入り口で話しててもしょうがないのでコロネさんには宝石類を乗せた台車ごと中に入ってきてもらった。

 色んな形のジュエリーボックスに入っている宝石達は凄かった。


「では、すぐに布などを取ってまいりますので。ご覧になりながらお待ちください」

「わかりました」


 僕が了承すれば、コロネさんはさっと一礼して出て行かれました。

 さて、戻ってくるまでそこそこ時間はあるだろうけど、せっかくだから滅多に見れない宝石達を拝見することにしました。


「ふわぁ……綺麗だなぁ」


 こっちの世界でも宝石の種類はそんなに変わんないと思うけど、テレビのCMや映画の小道具なんかに使われるようなジュエリーがこれでもかとありました。

 ネックレスにティアラにブレスレットなんかやイヤリング。

 でも、これ全部子供サイズだとすると。アナさんが昔使ってたものなのか?


「ふーゅぅ」


 クラウは自分のお目々と同じくらいキラキラとしてるオパールのような宝石を眺めてた。

 せっかくクラウと一緒におめかしするって言うならば、それをつけてみようか? 僕は箱の蓋を開けて、オパールのような宝石のネックレスを取り出してみる。


「どーぉ?」

「ふゅ!」


 似合うかなって聞いてみたら、クラウはこくこく頷いた。


(これはお世辞にも似合うって言ってくれているのかな?)


 顔立ちはともかく金髪に虹色の瞳だったら単色の宝石よりはこう言ったのがいいかもしれない。出しては当てたり、また戻すを何回か繰り返してるうちにコロネさんが戻って来られた。

 ちょうどその時は、アクアマリンのような宝石がついたティアラをクラウに乗せてみようかなとしてた時だった。


「あ、すみません」

「いいえ、色々お試しになってください」


 コロネさんは薄い水色のサテン生地のような布とお裁縫道具一式を持っていらっしゃった。


「クラウさんちょっとすみませんねー?」

「ふゅ?」


 裁縫道具を一旦置いて布の方をクラウに当てられると、コロネさんはクラウの背中にある翼には『これは背を開けた方が無難ね』なんて呟かれてから、裁ちバサミを取り出して下書きもしてない布にシャキシャキとハサミを入れていった。


「え、下書きしてないのにいいんですか?」

「大丈夫ですよ。姉の子供達によくぬいぐるみの服をせがまれることがありまして、これくらいのサイズのものでしたら慣れてるんです」


 僕はそこまで力量はないから、ちゃんと型紙作って下書きしないと無理だ。

 シャキシャキシャキンとあっという間にパーツが出来上がっていき、そしてこれまた早いスピードでかつ丁寧に生地が合わさっていく。


「さぁ、仮縫いはこの程度に。クラウさん一度着ていただけますか?」

「ふゅ?」


 ティアラで遊んでいたクラウは呼ばれてこてんと首を傾いだ。

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