017.食事と第2王女
「まあ、お兄様方。わたくしに隠れてこそこそと何をしてらしたのです?」
いや、お姉さん違うんです。
僕のこともだけど、セヴィルさんと婚約しちゃったのをどう説明するのかが難しくて……言ったところで信じてくれるかなぁ?
ちろっとセヴィルさんを横目で見ると、従兄妹と言えども気軽に説明出来ないなって雰囲気だった。それはお兄さんのエディオスさんも同じ。
かく言うフィーさんはグラスを手の中で遊ばせていた。ほんっとーに自由人だなこの神様は。
「……まあ、まずはあれだ。アナ、お前こいつに名乗ってねぇだろ?」
「あら、そうでしたわね」
たしかに、お互い名乗らずでいた。
ここは僕からかなと思ったけども、先にお姉さんが軽く会釈してくれました。
「アナリュシア=ミラルド=セイグラムです。先王の第2王女になりますが、今は統括補佐をさせていただいておりますわ」
「えと……カティア=クロノ=ゼヴィアークです」
やっぱり高位のお人のようです。
と言うか、忘れてたけどエディオスさんの妹さんだから王族の人だったよね!
なんか高確率で凄い人達に出会い過ぎやしないか?
「まあ、カティアさんと仰るのですか。可愛らしいお名前ですわ」
「あ、あの……敬語じゃなくていいですよ?」
王女様に使われると大変こしょばゆいです。
「まあ、よろしくて? フィルザス様とご一緒でしたから、
「……おるふぁ?」
またファンタジーな用語に首を傾げていると、フィーさんがくすくすと笑い出した。
「違うよ、アナ。大声では言えないけど、この子は異界渡りしてきたんだよ」
「異界……? まさか、異邦人ですの⁉︎」
「声上げんな!」
「お前の方がうるさいぞ」
給仕さん達がまだ来なくて良かった。
これくらいの歓談なら日常茶飯事のようだからか、裏から来ることもない。
「でしたら、なおのこと敬語は外せませんわ!」
「そ、そうなんですか?」
「それはそうですわ! 異界渡りなど、夢のまた夢。神であらせられるフィルザス様でさえ、ご自身のお身内の方々とも直接的にお会い出来ないと伺っておりましたのに……一体何故こちらへ?」
「そこはまだ色々未明のまーんま」
「まあ……」
やっぱり凄いことみたい。
異世界トリップする事自体あり得ない現象なんだからそれはそうだろうね。
「んでもって、アナにもう一つ朗報があるよ?」
「まあ、なんでしょうか?」
「んふふー、セヴィルについてだけど先にご飯食べてからにしようか?」
「お待たせいたしました」
タイミングを見計らったかのように、フィーさんのあやふやな発言と同時に給仕さん達が料理を持ってきていた。
会話聞かれてないよね?と内心ドキドキしていたが、給仕さん達の顔色はいたって普通。聞いていたとしても胸の内に留めておいてくれてるのか? さすがはプロと感心しそうだった。
(うわぁ、綺麗……)
順番が回ってきて僕の前にもオードブルみたいなのが置かれた。
野菜のミルフィーユかテリーヌかな?
外側と層の境目は緑色の野菜で、層には赤だったり黄色だったりと彩り豊かな野菜達が挟み込んである。提供する側では作らなくもないが、食べる側としては久しぶりだ。師匠達の試作とかでも最近作ることがないので味見するのもなかった。
食事のスタートはエディオスさんが先に食べるのが合図みたい。
全員が食べ始めてから僕もフォークとナイフを両手に持った。
(お、美味しいっ!)
調理もとっても丁寧にされたのがよくわかる一品。
塩加減もちょうど良くてぱくぱく食べそうになるのを抑えるのに大変だ。フィーさんだけはすぐにぺろっと食べてしまってたけど。
壁際で待機していた給仕のお兄さんはすぐに彼のお皿を下げて、別のお兄さんがスープを持ってきた。僕も食べ終わってからすぐに出されたけど、コンソメスープだった。あったかくて優しい味がこれまたやみつきになりそう。
それからスープにパンも出て来て、ある程度食べ終えてからメインのご登場だった。
見た目ヒラメのムニエルっぽいです。
添え物の隣には、タルタルソース的なのが半月型に盛られていた。しかしすべてが絶品でしたが、いかんせん小学低学年サイズの胃袋。パンを泣く泣く1個だけにしてなんとか平らげたよ。
ちなみにお肉の方は、なんのお肉かわかんないけどフィレステーキ的なのが出て来ました。ぱっと見120gくらいの肉の塊……僕どちらかと言えば魚派だからステーキは苦手です。食べられないんじゃなくて、多くて残しそうだから。焼肉は薄いからいいんだけども。
「……さて、ご説明願えませんか?」
デザートも食べ終え、食後の珈琲らしい飲み物が出て来てからアナさんが切り出してきた。
ああ、美味しい食事の余韻に浸りたかったけども、やっぱりそうはいかないみたい。
さっきのアップルパイみたいなデザートの甘味が、舌の上で苦く感じるよ。
「うーん。 でもその前にっと」
ぱちんとフィーさんは指を鳴らした。
その音と同時に、奥の方から騒ぎ声とあちこちにどしーんと何かが落ちた音が聞こえてきた。
なんだと思って見てみると、バックヤード的な出入り口辺りが黒い壁で見えなくなっていた。
「まあ、封鎖するほどのことですの?」
アナさんをはじめ、皆さん至って落ち着いています。
奥の喧騒も壁の所為でちっとも聞こえないけども、いいのかな? まあ、それが目的らしいよね。
「君が下手したら卒倒しかねないからね。給仕とは言え、下の子達にそんな姿がもしあったら見せたくないでしょ?」
「あら、わたくしを驚かせてくださいますの?」
「先に言ったじゃない。セヴィルのことだって」
「ゼルお兄様の?」
僕やセヴィルさんを他所に、フィーさんは言う気満々だった。
「なんとなーんと、セヴィルがカティアの御名手だってことがわかったんだよ」
「御名手……って、えぇっ⁉︎」
ガタンとアナさんの椅子が倒れる。
僕は目を逸らさず、固唾を飲んで彼女の反応を待つ。
アナさんは驚いた拍子に立ち上がり、両手を机について向かいにいる僕とセヴィルさんを交互に見てきた。
その目線にも『驚愕』は見て取れたけど、怒ったりとかはしていない。
と言うより、なんか段々楽しげになって……あれ?
「…………まあ、まあ⁉︎ わたくしを差し置いてそんな楽しい儀式を執り行いましたの! 何故呼んでくださらなかったのですか、エディお兄様‼︎」
いきなりアナさんが声を上げてエディオスさんに詰め寄っていく。
え、楽しい?
「え、はぁ? んなもん無理あるだろ。急だったし」
「御名手の儀式など、わたくし達王族でも滅多にお目にかかれませんのに薄情ですわ‼︎」
「そりゃそーだが、知るかっての!」
「えーっと……?」
この場合どう反応すればいいの?
とりあえず、ほっとは出来たけどさ。
「アナ、ひとまず落ち着け。カティアが事情を飲み込めないでいるぞ」
「あら、すみません」
アナさんはこほんと軽く咳をすると、倒れてた椅子を戻して座り直した。
「……たしかに、一瞬卒倒しかけましたわ。ですが、ゼルお兄様。誠にカティアさんと……?」
「ああ……フィルザス神に伝えられてな」
「まあ⁉︎」
その相づちの仕方、アナさん違和感ないですね。僕がやったらただの大根役者だ。
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