015.名前が決まる
「けど、家名とか守護名はどーする?」
「あ、そだねー? セヴィルは覚えてるでしょ?」
「……あ、ああ。だが……本当に20なのか?」
「この子のいた世界じゃ寿命が短すぎるからね。こちらじゃ赤児でも向こうじゃ君達より100年くらい年下じゃないかな?」
「……そうか」
フィーさんの説明に納得がいったのか、セヴィルさんは姿勢を正して僕らの方へ戻ってきた。
途中手を広げ、あっと思った時には紙と羽根ペンが出てきて手の中に収まっていた。呪文も何も言わずに魔法って、やっぱり凄いなぁ。
セヴィルさんは僕の前に立ってから紙に筆を走らせて何か書いていった。
「他はこれだけだったが……」
「どれどれー?」
「んー?」
先にフィーさんとエディオスさんが覗きにいかれたので僕には見えず。ぴょんぴょん跳んだところで意味がないくらいタッパの差が半端無いもの。
「へぇー? これねぇ?」
やけに意味ありげに呟くフィーさんに全員が首を傾げるも、彼はまだぶつぶつと言っている。
「なんか他にも意味あんのか?」
「あー、うん。けどまだ憶測の域だからうまく言えないよ」
「お、おぅ」
ビシッと指を立てられたフィーさんに、エディオスさんは口を
僕も気になったけど、フィーさんの言い方からしてまだ懸念材料が多過ぎるからと伺えたから黙っておく。
「でも、これが家名にはいいんじゃない? それと、こっちのが守護名にはちょうどいいし」
「……なるほど」
どうやら名字とかが決まりそうだ。
セヴィルさんが紙にまた何かを書き込むと、僕の方に屈んできた。
「……読めるか?」
僕の目の前くらいに、その紙を差し出してくれた。
一応見てはみるけど……達筆過ぎてかえって読めない。
ローマ字っぽいが英語とも言えない言語が書き込まれていたために、理解しようにも頭が拒絶してしまう。
「……読めないです」
「……そうか」
「セヴィルの字が綺麗すぎなのもあるんじゃない? もう少し崩してあげたら?」
「……わかった」
そう言って書き直してくれたのをまた見せられるがやっぱり読めませんでした。話すには問題なくても、翻訳は無理なのね。
「字は読めねぇのな?」
「しゃべるのは問題なし、か。ひょっとしたら、そこは泉の力かもね」
「泉?」
「えっとねー?」
一人事情を知らないセヴィルさんに、フィーさんがひと通り話してくれました。
泉の水の副作用については目を丸くしたが、エディオスさんの登場の仕方には思いっきり眉間に皺を寄せてから片手で彼の頭を殴った。
今更だけど、この二人ってものすっごく親しいんだよね。けど、王様の部下さんなのに殴るなんていいのかな?
「勝手に公務を放り出した上に、フィルザス神のところで馳走になっていたのか?」
「フィーからの依頼済ませたんだからいいだろ!」
「討伐依頼だけならばさっさと済ませて帰ってこい! あれらが苦手なのは俺もだが、帰らせるのにどれほど苦労したことか……」
「無視しときゃいいだろ?」
「そうもいかないのをわかってて言うか」
「まあそこはいいから。セヴィル、カティアの守護名読んであげてよ?」
「……わかった」
エディオスさんにもう一度睨みつけてから僕の視線に合わせるのに膝を折ってくれた。
そうして僕の前に名前とかが書かれたらしい紙を見せ、一列に並んでいる箇所をなぞった。
「こちらがカティア。真ん中が守護名と言う守り名に使うものでお前の場合はクロノ。その隣が家名になるゼヴィアークと読むんだ」
カティア=クロノ=ゼヴィアーク。
守護名とやらはミドルネームなのかな?
日本人じゃ馴染みがないからピンとは来ないけども。
(でも、これが僕の新しい名前なんだ!)
名無し問題が解決してひとまずはほっと出来た。
他の問題は全然だけど一歩前進だ。
「……そう言えば、俺は自分から名乗っていなかったな?」
セヴィルさんは紙と羽根ペンをまた何も言わずに消してしまい、僕の前にきちんと跪いた。
「俺はこの国の宰相を務めるセヴィル=ディアス=クレスタイトだ。エディオスや一部の者はゼルと呼ぶから、お前も言い難いようならそうしていい」
「え、あ、でも……セヴィルさんって呼ばせてください」
同意はしてないけど、婚約者さんだからきちんと名前は呼びたい。
恥ずかしながらも答えれば、セヴィルさんは少し目を見開いたがすぐに柔らかく目を細めた。
「ああ、よろしくな」
「っ!」
次第に形作られていく表情に、僕は目が釘付けになってしまった。
だって無理がある。
無表情か不機嫌か赤面だったのが、そのどれでもない綺麗な微笑み。
あまりにも綺麗過ぎて目が離せないのだ。
「……これ夢か?」
「んふふ、これ本当にお似合いだねぇ?」
横でふざけた物言いをされてるのも耳から素通りするくらい、僕はセヴィルさんから目が離せなかった。絶対今、僕の方が顔真っ赤だ。
◆◇◆
「では、また後でな」
僕の顔の赤みが引いてから、僕らはエディオスさんの執務室を後にした。
今日はもう遅いのと僕とフィーさんはしばらくお城に滞在してもいいとエディオスさんが提案してくれて、これからご飯をご馳走になることに。
セヴィルさんはエディオスさんの私室の罠を解除するからと一旦別れることになった。
マントを翻して颯爽と去っていく様は本当に王子様みたい。役職からどうも違うようだけど。
「んじゃ、行くか?」
のんきに欠伸されてる方が王様なんだよね。
「食堂は久しぶりだなぁ」
「食堂?」
行くのは王様が食事をする部屋じゃ?
フィーさんの言葉におうむ返しで聞けば、彼はくすくす笑い出した。
「エディやセヴィルとかが食事をする部屋があるんだよ。そこを食堂って呼んでるんだ」
「なるほど……」
とりあえず、歩きながら話すことになりました。
「しばらくは、俺の客人扱いでいいな?」
「そうですね」
宰相さんの婚約者だって言われても誰も信じないだろうからその方がありがたいです。元の体に戻ったからって受け入れられるかは怪しいがそこは今考えないでおこう。
「けど、まさかあいつが先とはな? 従兄弟の俺より先ってのもちぃっと妬けるぜ」
「いとこ?」
「おう。あいつのお袋さんが親父の妹でな? って、何間抜け面してんだよ」
いやならない方がおかしいでしょ!
王子様みたいと思ってはいたけど、まさかの血縁者⁉︎
「いいいいい、いいいんですか、僕みたいな他所者が婚約者になるなんて!」
王家云々の血筋なら許嫁さんとかいたっておかしくないはず。
いくら『みなて』とかどーのこーの事情があったにしたって、周囲が黙ってないだろうに。
「だから、この世界じゃ御名手の方が重要視されんだよ。身分とかそう言うのは関係ねぇな。俺のお袋だって元は商人の娘だぜ?」
「………え?」
告げられた事実に僕は口をぽかんと開けるしかなかった。
「貴族間同士の差別とかはあんまりないよ? セヴィルの親はたまたま王家と公爵家との成婚だったけどね」
「じゃあ、仮に僕がいても?」
「仮にじゃなくてほぼ決定なんだけど……まあ、そうだね。特に真名を開示出来たから証拠は揃ってるし、誰も文句言わないと思うよ?」
「どうやって証拠に?」
「僕は記憶を引き出して他者に見せることも出来る。司祭に見せれば……ってしなくても僕自身が証拠になるから言い訳なんてさせないさ」
たしかに、神様だからそこはどうとでもなるよね。
「それにあいつがあれだけ気に入ってんだ。俺は王としてもだが、個人的にも良いと思ったぜ? 気にすんな」
そうは言ってもはいそうですかと受け入れ難いのが本音だ。
だって、彼氏いない歴歳の数。
それがいきなり婚約者が出来たからってどうすればいいんだろう。
でも、女子供が苦手らしいセヴィルさんは何も否定的なことは言わなかった。何故?
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