06.LETS ピッツァ‼︎-③

 


「エディ……まーた人の家に勝手に上がりこんでっ」

「わーるいって。けど、腹減ってたし美味そうな匂いしてたからつい、な?」

「ついじゃなくてだねぇ……」


 怒りをあらわに、フィーさん腰に手を当てております。せっかくのピッツァ食べられちゃったのか大分怒っていますね?

 僕もちょっぴりショックだ。一番に食べてもらいたかったからちょっと一緒に怒りましょう。ぷぅっと頬を膨らませていると、エディさんと言う青年は手についてたソースをペロリと舐めていた。

 …………なんか、エロいです。恥ずかしいから言わないでおこう。


「っかし、うめぇな? フィーが作ったように見えねぇし、そこのちみっこがか?」

「ちみっこって……」


 まあ、今は小学校低学年サイズの体。ちみっちゃいっちゃそうだけど、なーんかムカつきます。


「僕が“ちみっこ”で悪かったですね」

「あれ、その声の感じ……お前、女か?」

「ほぇ?」


 一発で分かった模様です。

 幼少期じゃ体つきが男女わかりにくいので、声でわかってもらえたようだ。それと“僕”って言い続けてたからやっぱり女ってわかってもらえなかったかもね? フィーさんも目ぱちぱちしちゃってるし。


「女の子って……そー言えば記憶見たのに忘れてたね?」

「フィー、女にこんなうめぇもん作らせたのか?」

「とりあえず、居候になるからね。出来る事はしてもらわないと」

「ふーん」


 と、すかさず二枚目を取ろうとしたエディさんにフィーさんがぱちんと手を払い除ける。音が綺麗に響きました。


「って」

「だーからって、呼んだのはこっちだけど、君がそれ食べまくろうとするのはいただけないね? この子が僕の為に作ってくれたんだから」

「だってうめぇしよ」


 どーやらいたく気に入ってもらえた様子だ。

 それはいいことだけど、たしかにこのマルゲリータはフィーさんのだ。もとい、味見用だしね。

 とりあえず、二人の喧騒に巻き込まれないようにその皿を避けておこう。なんか言い合いが始まっちゃったから。


「この腕だったら、うちに連れてってもなんら遜色そんしょくねぇ」

「あのねー? 見つけたのは僕なんだし、ここに居ていいかって聞いてきたのあの子なんだからだーめ」

「なんだよ、ケチだなぁ?」

「気に入ったものは手放したくないタイプなのさ」

「お、とうとう嫁決めたのか?」

「それとは違うよ。妹みたいなものだね」


 あれ、後半意気投合してないですか?

 と言うか妹枠ですか僕は。


「って、せっかくの焼き立て食べ損なっちゃうから」


 と言って僕のところにやってきて、マルゲリータを1ピース持ち上げた。そのまま口元に持っていきはむっと頰張る。


「​──っ、美味しいっ‼︎」

「良かったです」


 美少年のきらっきら笑顔いただきました。恐縮ですっ。

 その横からエディさんが腕伸ばしてきたけど、見えてたのかまたペシって叩かれてた。食いっぱじ強いねぇ、このお兄さん。


「フィーのケチぃ……」

「この後も食べれるからいいでしょーが。とにかく、これは僕の。美味しいね、ピッツァって」

「へぇ、変わった名前だなぁ。ところで、お前なんっつーの?」

「うっ」


 どうしよう……挨拶はした方がいいのはわかってるんだけど、いかんせん自分の名前が現状わからないままだ。それと異世界人と言って信じてもらえるだろうか?


「エディ。自分が先でしょ? この子の料理に先に手出したわけだし」


 フィーさんが割り込んでくれました。

 ちょっと感謝ですっ。


「まー、それもそうか?……俺はエディオス=マルスト=セイグラム。エディでも好きに呼びな?」

「じゃあ、エディオスさんで……」


 気軽に愛称は呼べませんよ。フィーさんは別です、呼びにくいのもあったもので。

 さて、もう言い逃れは出来ないので唾を飲み込んでから口を開けた。


「あの、初めまして。名前が、その……フィーさん曰く、封じられててわかんない状態です」

「封印、だと?」


 ふざけた表情が一変して、険しい表情に。

 ちょっ、怖っ!

 それと今気づいたけど、彼の緑色の短い髪が乱雑に逆立ってます。思わずフィーさんの後ろに回ってマントの裾掴んじゃったよ!


「おやおや、大丈夫?」


 フィーさんは呑気にマルゲリータを頬張っていました。

 そんなに美味しかったのかな?

 じゃなくって、目の前っ! 目の前に気づいて⁉︎


「フィー、お前が解けねぇ封印って厄介じゃねぇのか?」


 まだ若干髪が逆立ってるエディオスさん。

 呑気にピッツァ食べてるフィーさんに近寄り、ずずいっと顔を覗き込んできた。フィーさんはと言うと、最後の一切れを頬張ってから皿を卓に置いた。


「うん。蒼の兄様んとこの世界から来たってのは辿れたけど、そーいったのはてんでわかんなくてね?」

「は? こいつ異邦人?」

「そ。まあ、今はこちらの住人にもなってもいるけど」

「神のお前の領域にどーやって……」


 経緯を話そうにも、僕もフィーさんもわかってないからどーしたもんだか。


「それも封印されてて全然わかんないんだ。だから僕のとこに居候させようと思ってね?」

「記憶読んでもか?」

「うん、全然」


 これだけはフィーさんもふざけた態度は取ってない。僕の見える範囲からでも表情は真剣でした。

 エディオスさんはそれ以上聞くことはせずに小さく息を吐いた。


「……まさかお前の用事ってこれか?」

「ううん、違うよ」

「んじゃなんだよ?」

「それは後で言うから。とりあえず、お昼にしようよ。さっき食べたピッツァをこの子がまたいっぱい作ってくれるから」

「マジかっ!」


 フィーさんの提案に空気が一変して、エディオスさんも表情がパッと明るくなっていった。よっぽど気に入ってくれたみたいです。

 よし、それでは気合入れて作りますよ!








 ◆◇◆










「なんだぁ、この緑ぃのは?」


 ジェノベーゼの瓶を出した途端、エディオスさん顰めっ面になりました。

 まあ、普通ないもんね。こんな色のソースって。彼の髪色よりも、ちょっと濃い目です。


「ヘルネを使ったソースですよ」

「ヘルネって、野草だろ? 食えんのか?」

「失礼だね、僕が育ててるのに」


 ご自分で適当に育ててるって言ってたけど、やっぱり愛着あるんだね。でなきゃあんなに綺麗な庭園出来ないもの。

 とにかく、生地をもう一個伸ばして台に置く。

 フィーさん同様に、エディオスさんも拍手してくれました。


「ちみっこいのにやるなぁ?」

「元はこの年齢じゃないと思うけどね。ねぇ、いくつ?」

「あ、ちょうど20歳はたちです」

「「はたち?」」


 あ、そっか。呼び方違うのかもしれない。


「えっと……にじゅっさいです。一応向こうじゃ成人していますが」

「たった20年で成人⁉︎」


 んなアホなとエディオスさんはまた顰めっ面。

 あれ、こっちは違うのかな?

 フィーさんは何故かぴゅぃっと口笛を吹いていた。


「兄様、時間操作早めにしたんだね。こっちじゃ、成人って200年以上経たないと出来ないようにしてるんだけど」

「にひゃっ」


 なにその馬鹿長寿な年齢は⁉︎

 ってことは、エディオスさん見た感じ元の僕より少し歳上に見えるけど……超歳上なの?

 思わずじっと見つめれば、彼はぽりっと頬をかいた。


「あー……フィーの言う通り、俺は345だ。そっちじゃどんくれぇだろうな?」

「あんま変わんないんじゃない? 多分、3つか4つくらい君のが上だろうけど」


 と言うことは24歳くらい……わかっ、もうちょっと上かと思ったけど。図体でかいし、ガタイいいもの。顔も欧米風で整ってるイケメンさんだからね。

 おっと、生地がベンチタイム入っちゃってるから、急がないと。


「ソースを塗ってっと」


 瓶の蓋を開けて、スプーンで適量すくって生地の上に伸ばす。具材は本当は魚貝類があったほうがいいけど、カッツもといチーズがあるからいいでしょ。

 パプリカもとい、こちらトウチリンのスライスと新タマでなく新アリミンのスライス乗せて、小さいマトゥラーのカットとカッツも降っておく。

 ちょっと具材多めだからピールに乗せる時慎重にしないとね?


「ほぉ。野菜ばっかだな?」

「僕ん家でなかなか肉食べれないのわかってるくせに」

「まーな。けど、あれは肉も合うと思うぜ?」

「乗せたりしますよー?」


 ベーコンやブルスト、ソーセージやハムなんかの燻製ですね。

 たまーに家で照り焼きチキン乗せてマヨもかけたりするけど。

 あ。


「フィーさん、卵ってありますか?」

「卵? それも具に使えるの?」

「今回のじゃ合いにくいですが、あるんですよ」


 それはまた次回だね。

 カッツを乗せ終わったら、いざピール登場。

 二人には離れてもらって、ピッツァを窯に投入。


「パンみてぇだなぁ?」

「エディ。君、僕が食べようとしてた時に入って来たの?」

「おぅ。美味そうな匂いしてきたからよ」

「胸張って言う事じゃないでしょーが」


 そう言えば、フィーさん神様って言うからもっと歳上だろうな? 失礼だから聞かないでおこうっと。

 そうこうしているうちにピッツァ焼き上がりました。

 ピールをえいっと。


「熱いんで、少し離れててください」

「ん」

「おぅ」


 くるっと中で回転させてからヘラの部分に乗せ、勢いよく取り出す。

 うん、いい焼き色です。台に置いて包丁で分等し、さっき使ったお皿に移します。


「ジェノベーゼピッツァですっ!」

「お、焼くとちぃっとばっか色が薄くなんな?」

「へぇ。香草の良い香りがするね?」


 まだかまだかと言う感じですが、忘れてますがここ厨房。食べるなら、さっきの広いリビングに行きましょうよ。

 僕がそう提案すると、フィーさんがそうだねと言ってくれて行くことになった。

 あ、生地には新しく濡れ布巾被せたんで大丈夫。

 多分、エディオスさんもいるから全部食べることになるだろうしね。

 普通は、使わない生地は冷蔵庫に保存しておくものだけど。

 そして、取り分けのお皿を僕が。フィーさんがピッツァの皿を死守。でないとすぐにエディオスさんに平らげられそうだから。


「フィー……」

「お客と言えども、マナーを守らない子にはあげないよ」

「へーへー」


 あれですね、フィーお母さんとエディ坊や。

 絶対言わないけど、そんな構図が出来てるよこれって!

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