05.LETS ピッツァ‼︎-②
一度生地の様子を見たけど、一時間も経ってないから膨らみは全然だ。
なんで、ジェノベーゼの準備に取り掛からないと!
フードプロセッサーやミキサーはないから、代わりにすりこぎとすり鉢をフィーさんに持ってきてもらいました。最初は首を傾がれたけど、僕がバジルやナッツとかを入れてったら合点がいったみたい。
「塩を入れてからすり潰して……」
時間もないけど根気よくやるしかない。
ごりごりごりごりすりこぎを回して、バジルの原型がなくなるまですり潰していくよ。フードプロセッサーとかなら一瞬でも、これの場合はかなり時間がかかるのはどうしようもないからね。
ある程度までペーストに出来たら、その中にオリーブオイルをフィーさんに入れてもらってさらに混ぜ込む。これを煮沸しておいた蓋つきの瓶に入れれば完成!
「うっわー……すっごい真緑」
予想以上に引いてますね。
たしかに緑のソースって、そうそうないかも。もちろんこのままじゃエグ味が凄いから舐めないよ?
ジェノベーゼが出来上がってからトマトソースの煮え具合も見れば、大体いい具合だったからフィーさんに火を消してもらうことに。
「んー……冷めるかな?」
量は少なめにしてるが、熱々ぐつぐつのままじゃ生地に塗れない。
「じゃあ、冷却魔法かけてあげるよ」
「おお」
今度は指を鳴らさずに軽く人差し指を振れば、彼の指から氷の結晶みたいなキラキラしたものが出てきて鍋に向かう。
それは鍋の表面を覆い尽くし、やがて溶けて消えたが水滴とかは出来ながった。触ってみなよと彼に言われて指を当てれば、キンキン程じゃなくてもちゃんと冷えていた。さすがは魔法だ。あれ?
「もしかして、さっきのすり潰しも魔法で出来たんじゃ……」
「あ、うん。君がやる気だったからあえて止めなかったけど」
「先に言ってくださいよ……」
無駄な労力ではないけど、他にもやることはあったのに。
まあ、まだ時間に余裕があるので一度洗い物をしてからトッピングの下ごしらえをすることにした。
家電製品はないのに、蛇口が赤外線センサーのように手を当てれば水が出るなんてびっくり。これは魔力に反応して出る仕組みだそうだ。
「僕にも魔力があるんですか?」
「聖樹水を飲んだのと、この世界に順応しやすいように体を造り替えたからだよ」
「つくり、替えた?」
「だって、聖樹水の副作用をどうにかするにはそれも必要だったからさ」
「…………」
自分の欲望のままに行動したのを後悔した。
とは言え、あの水を飲まずともこの体が元に戻る保証はなかったかもしれない。それを聞けば、フィーさんもそうだねと頷いた。
「ただでさえ、ここは僕が住まう神域だからね。魔力がない人間が来て生きていられるかは試したことはないけど」
なんとも怖い場所ですね。
今の僕もだけど、水を飲む前にうろちょろしまくってた時も特に問題なかったのに?
それと、聞きたいことを思い出した。
「なんで僕の近くにいたんですか?」
もしずっと見てたなら、水を飲むのを止めれたはずなのに。
「ああ、それ? あの木の枝のとこでうたた寝してたら君の気配を感じてさ? 起きたら泉の側で大の字に寝てる君が見えてびっくりしたよ」
タイミングが悪かったってことか、それは仕方ないね。
けどお客さんが来るのに寝てていいのかなぁ? まあ、それは個人の自由だけど。
洗い物を全部終わってから野菜のカットに移り、これはフィーさんも暇だからと手伝ってくれました。切り方を教えればあっという間に出来上がっていく。自炊も出来るのは本当みたい。
「もう大丈夫かなぁ?」
異世界で初めて作る生地にドキドキと濡れ布巾を外せば、今度はボウルいっぱいにまで膨らんだ白い生地とご対面。
よし、成功だ。
これをガス抜きと言う工程をするのに思いっきり拳を押し付けて潰し、中身を台の上に置いてよくこねる。
また表面をツヤツヤになるまでこねたら10等分に分けて、両手に一個ずつ持って台の上で団子状になるまで転がす。この時、生地の端がまとまる部分が星型になればちゃんと成形出来てる証拠です。
「もう焼いていいですか?」
「そうだね。先に味見させてよ、片方でいいから」
「わかりました」
じゃあ、マルゲリータにしよう。
ただ、ここで一つまずいことを思い出した。
「焼くにもピールがない……」
「ピール?」
「専用のヘラです。生地を乗せて窯に入れたり取り出すのに使うんですが」
「うーん、このパンに使うのじゃ?」
「細過ぎですね……」
大きさはMサイズくらいにするから、食パン型を取り出すくらいの幅じゃ全然足りない。
「じゃあ、ちょっとごめんね?」
お、記憶を読むのかな?
頭に手を置かれたからすぐに思い浮かべて用法も伝えてみた。そうすれば、彼はすぐに手を離した。
「かなり大っきいね? この世界じゃ見かけたことはないから、今回は作ってあげるよ」
フィーさんは右手を高く上げると、掌の中が白く光り出しました。
「§※∇★⌘」
やっぱり何言ってるかぜーんぜんわかんない。
でも、そうこうしているうちに、あれよあれよとピールが出来上がっていく。新品同様に、先の銀色がまぶしいです。
「こんな感じかな?」
「十分です」
これで焼き作業に移れる。
それには生地伸ばしからと生地の一つを手にして、打ち粉を振ってからその上に生地を押し付ける。ある程度両手で広げて丸く
「フィーさん、少し離れててください」
「うん?」
僕が今から何をするのかわかんないみたいだ。そこまで記憶は読んでいなかったかもしれない。
小さい体でいつも通り出来るか少し心配だけど、やるしかない。
「よっと」
「おお?」
ぽんっと僕が宙にそれを浮かせると、フィーさんが歓声を上げた。
上手くいきそうかも。
生地がもう一度手に戻る瞬間を狙い、両手を上に向かせて中央に滑り込ませる。
そしてくるくると回しながら広げていくのだ。
「すっごいねぇ」
ぱちぱちと拍手してくれるフィーさん。
えへって僕も声をこぼしちゃったけど、今は生地優先だ。
上下左右均等に広がったのを確認してから台に戻す。
「生地はこんな感じです」
「随分薄いんだ。記憶読んだ時はちょっと膨らんでいたけど」
「焼いたら少し膨らみますね」
これにトマトソースをスプーンですくって、生地の上でのばします。次にカットしたチーズとバジルを乗せてこれで終わり。
「これだけ?」
「最初は、ですけど」
マルゲリータだから、これだけで良いのです。
これを作っていただいたピールの上に乗せて、石窯に投入。炎の手前で焼きます。
「すぐ焼けちゃうので、お皿いいですか?」
「いいよ。大き目のね?」
言うなり、ひょいと魔法でお皿登場。
その間にもう焼けてきたので、僕はピールでピッツァを軽く回しながら取り出す。端の生地を炙る為です。ポイントですよ。
カッティング用のピザカッターがないので、ここは包丁で。8等分に切ります。
「いい匂いー……」
文字通り、フィーさん鼻をヒクヒクさせていますよ。
僕もチーズの香ばしい匂いでお腹鳴りそうです。
とにかく、冷めないうちにお皿へピッツァを移しました。
「これどうやって食べるの?」
「基本は素手ですけど、フォークを使う人もいますね。熱いから気をつけてください」
「うん。いただきまーす」
「お、うまそっ」
今別の声しましたけど? 思いっきりひっくい美声でしたが。
なんだなんだとフィーさんに向き直ると、彼に後ろに背のたっかい青年がいました。んでもって、フィーさんが手にしようとしてたピッツァのピースを奪い取り口に……っておい⁉︎
「エディ⁉︎」
「お、うっめ。何これすっげー美味いんだけど」
絶賛どうもです。
じゃなくて、この人がエディさん?
呼び名無茶んこ可愛いですが、見た目ゴツい男の人です。イケメンですが。
僕はてっきり女の人かと思ってました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます