あああああああああああああああああ

ちびまるフォイ

だいたい最後にホラーに書き飽きる

「心霊小説?」


「そうそう。心霊写真みたいに自分は意図していない場所で

 書いていないはずのものが入り込むみたい」


「そういう話ってどこでもあるよな」


フォロワーから聞かされた話を真に受けることはなかった。

なんならそれをネタに小説でも書いてやろうかと、商魂たくましい考えすら浮かんだ。


そんな考えが浮かんだのも最近はめっきりネタ切れだったのもある。


「ちくしょーー……思いつかねぇな……。

 降りてこい! アイデア! 地球のみんな、オラにアイデアを!」


誰もいない部屋で両手をかざしても降りてくるのはホコリばかり。

自分の創作腺を刺激するために、自分の過去作を読んでいた。


―――――――――――――――

「このまま切り刻んでやる!!」


僕は研ぎ澄まされた光の刃を敵に突き刺した。

ドラゴンは尻尾をのたうち回らせる。急所に入ったんだ。

さちこはにこりと笑う。


「うおお!! シャイニング・ライトニング・ソード!」


突き刺さった剣を持ちながら体のラインを沿うように走る。

傷口から噴出される鮮血が――

―――――――――――――――


「……誰ださちこって」


登場人物ページに戻ってもそんなキャラはいない。

こんな緊迫した場面でニコニコ笑って緊張感削ぐ必要もないだろう。


もしかして別作品のキャラが混じったのだろうか。


別の話を読み返してみても「さちこ」は登場していた。

でも、それはまるで物語に関係していない。


まるで最初からそこにいたようにずっと笑っている。



"さちこはこちらを見て笑っている"



そんな描写が勝手に追加されていた。

カクヨム運営に問い合わせしても知らぬ存ぜぬの一点張り。


「俺の小説が誰かの手によってイタズラされてるんですよ!」


「いや、弊社ではそのようなハッキング確認できていません。

 それに★0の小説を書き換えることになんの意味があるんですか?

 イタズラって周りに見てもらえるから効果あるんでしょうし」


「それは……」


まさか、これが心霊小説なのか。


映ってはいけないものが映る。

書いた覚えのないものが入っている。


「まじかよ……なんで俺なんだよ……」


ホラー映画は見ていても殺人鬼のマヌケぶりにツッコミ入れたりしているが

ガチの呪いとくれば話は別だ。

スタッフロールが流れれば呪いが終わる、というものではない。


ネットで除霊をしている専門家を調べて小説を見せた。


「これは……間違いなく呪われていますね……!」


「や、やっぱりですか? でも墓地にもいってないですし

 心霊スポットで悪ふざけもしてないですよ!?

 呪われる要素も恨まれるようなこともしてないのに!!」


「この邪悪な幽霊にはそんなこと関係ないんですよ」


「俺はどうすればいいんですか!? このまま呪われ続けるしかないんですか!?」


「大丈夫、この幽霊を題材にした小説を書くんです。

 そうすれば幽霊は満足して除霊されるでしょう」


「わかりました……!」


「不幸中の幸いだったのは、入り込んだのが不人気小説だったことです。

 幽霊はその小説を読んだ人の作品に入りますから、

 感染者があなただけで本当によかった」


専門家の助言を受けて、「さちこ」を題材にした小説を書くことに。

とにかくすぐに除霊したい一心で内容も雑にし、タイトルもいい加減につけて投稿した。


小説には今回も身に覚えのない表現が追加されている。

パソコン内に保存した文章と、投稿されている内容とにずれが出ている。



"さちこは近くで笑っている"



「これで除霊されますように……!」


手順は完了したので除霊師に報告した。


「ちゃんと小説を投稿しましたよ! これで大丈夫なんですね!」


「ええ、霊をメインに据えれば満足して消えるはずです。

 で、投稿した小説はどれですか?」


「作品名は『ああああ』です。検索すれば出ませんか?」


「これは……!!」


除霊師の表情が焦りへと変わった。


「あれほどほかの人間には読ませてはいけないと言ったでしょう!!

 どうして非公開設定で投稿しなかったんですか!!」


「そ、そんな機能しりませんよ!?」


「★が大量について、レビューまでつけてもらっていますよ!!

 こんなに注目されたら……」


「小説削除します! 今すぐに!」


「もう遅い! これを読んだ人全員に幽霊は感染しているんですよ!!」


「そんな……俺のせいで……」


雑に投稿したはずのさちこ小説はまさかの大人気になった。






小説の人気から書籍化さらにはコミカライズが決まり、2018年にアニメ化決定。

メディアミックス展開もはじまりグッズも販売開始。

ハリウッドで実写映画化が決まり、日本では3Dアニメとして上映される。


映画のヒットから実写ドラマ化が毎週火曜日のゴールデンタイムに放送され

「さちこ」ブームは勢いを増し、さらにアプリゲームまで配信される。


コミケでは「さちこ」のエロ同人誌が大量に刷られエスカレーターが壊れるほどの大盛況

動画サイトでは彼女を使ったネタ動画がランキングを席巻。

のちに、この一連のブームは「さちこラッシュ」と呼ばれた。




やがて、俺の小説に心霊文章が追加される。




さちこ:もうこれ以上おもちゃにしないで……




あれだけ笑っていたさちこが泣き崩れていた。

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