彼女のネガイ - 2

 イドニスを筆頭に僕たちは今、宮殿内の訓練施設へとやってきている。

 もう夜更けだというのに、施設内には未だに魔法の勉強をしている人や実践訓練を行っている魔法使いたちで溢れ返っている。


「ごめんなさい、我儘言ってしまって」

「いえ、どの道事件について調べるにしても、まだ取っ掛かりが無いですから。ここに居る魔法使いさん達に話を聞けば、何か情報が掴めるかもしれないですしね」


 あの後早速調査に乗り出そうとしたんだけど、プエルタさんから『何も分からなくても良いから、私の魔法を見てほしいんです』とお願いされたので、僕とミュウも彼女に着いてきたのだった。

 それにここには、『雷神の神鎚トールハンマー』の内部事情に詳しいとまではいかなくとも、それなりに情報を知っている人が居るはずだ。

 調べるとすれば、やっぱり気になるのはさっきプエルタさんが話していた"グレゴール"って言う人の事か。

 作戦当時、"ソラウス"さんに一番近しい人間だった訳だし、『真実ほんとう』に近い人の筈だ。


「……あ、あの。カザキさん」

「ん……はい、何でしょう」


 プエルタさんは、少し恥じらうような素振りを見せる。

 な、なんだろう。釣られてこっちも恥ずかしくなってくるぞう!?


「あのね……? も、もし、良ければ、これからは敬語じゃなくて、話しやすい言葉で話してくれると、嬉しいな……って」

「へ?」

「あ、いやあの、本当に気が向いたらで大丈夫だから!」


 そう言いながら、プエルタさんはチラチラとこちらに視線を向けてくる。

 ……なんだか気恥ずかしいけど、確かにここまできたら確かに『友達』と言っても良い筈だ。

 彼女がそれを望むなら、僕もそうしたいと思った。


「うん、わかったよ。宜しくね、プエルタ」

「――っ、うん! よろしく、カザキくん!」


 彼女はこれ以上ないと言わんばかりに、にこやかに微笑む。

 その笑顔は、宛ら太陽のように、僕にはちょっと眩し過ぎるくらいに晴れた笑顔だった。


 その時、目の前がまるで閃光花火が飛び散るようにバチバチっと音を立てながら真っ白になる。


 気がつくと、僕の身体は真っ白な空間に放り出されていた。

 得も言われぬ恐怖に、次第に全身から脂汗が噴き出してくる。

 身体が、熱い。


 何処から沸いてくるのかわからない謎の罪悪感と無念と――色んな負の感情が織り混ざった、途轍もなく苦しいものに全身が押し潰されるような感覚がする。


『――俺は、間違えた』


 頭の中で、声がぎる。

 微かだったけど確かに、誰かの声で『間違えた』と。


 何が、どうなっているんだ……!?

 僕が一体、何を間違えたっていうんだ……!


 突然の出来事でパニックになり、頭が真っ白になる。


 何も、見えない……分からない!


「――ザキ! カザキっ!」

「――――え?」


 ハッと意識を取り戻す。

 目の前には、心配そうに僕を見つめるミュウの姿があった。


「…………ミュウ」

「カザキ、大丈夫? 急に立ち止まって、びっくり。あと……顔、怖い」


 ミュウは僕の顔をペタペタと触ってくる。

 ……一体何があったんだろう。

 自分の事なのに、さっきまでどうしていたのか何一つ覚えていないのが恐ろしい。


 確か、プエルタさん――じゃなくて、プエルタの笑顔がとても見ていられないくらい眩しかったのは覚えてるんだけど……。

 それから何で気を失ったのかがまったく分からない。

 まるでそこだけ、時間を切り取られてしまっているかのような……。

 いや、あまり考えるのはよそう。本当に眩しすぎて目が眩んでしまったとかかもしれないし……。


 なんて馬鹿げた事を考えていると、少し先を進んでいたイドニスとプエルタが戻ってくる。

 プエルタは僕が立ち止まっていた事に気付くと、駆け寄ってきた。


「カザキくん。へ、平気?」

「はい……じゃなくて、うん。ちょっと目眩がしただけ」

「ここには病人診てもらうとこはねえのか」

「あ、ありますよ、救護室。お怪我された人とか、魔力を激しく消耗してしまった人とかを診てくれるんです」

「一旦そこへ行くぞ」


 そう言って、イドニスは歩き出す。

 大袈裟だなとも思ったが、ミュウとプエルタを心配させるわけにもいかないので、ここは大人しく診てもらうとしよう。


 ミュウとプエルタに支えられながら、僕たちは救護室へと向かった。


 * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 救護室は案外近く、人も多くなかった為すんなりと入ることが出来た。

 中に入ると、病院の医師のように白衣を着て、恐らくカルテであろう資料にペンで何かを書き込む男性の姿があった。

 長い黒髪を後ろでまとめ、眼鏡を掛けている。いかにも医者然とした人だ。

 

星療術師せいりょうじゅつしの"クエル"先生だよ。わ、私もいつも診てもらっているの」

「おや、こんばんはプエルタさん。今日も受診ですか? それとも、そちらの方かな?」


 そう言って、クエル先生は僕の方を見る。


「は、はい。目眩がしたっていう話で……」

「なるほど。診てみましょう」


 クエル先生は僕を椅子で座らせた後に、僕の胸に手を当てて星療魔法を行使する。

 星療魔法による診断は、一分も掛からず終わった。

 

 その間ミュウは、クエル先生の診断の様子をじっと見ていた。

 同じ星療術師同士、何か学べるものがあったのだろう。


 クエル先生はしばらくカルテとにらめっこしながら、僕に質問をしてくる。


「失礼ですが、この国の方ではありませんね?」

「はい。旅をしてきました」

「なるほど……大分お身体を酷使されているようで。疲労が溜まりに溜まって風邪になった、といったところでしょうか」


 ……うん? そんなに疲れるような事をした覚えは無いんだけどな。

 確かに旅は辛いものだけど、他の大陸に比べてイースタウッド大陸の街道はまだ歩きやすいものだって聞く。


「街に着いた安心感で、疲れがドッと来る……というのは旅人あるあるです。今日はもうお休みになったほうがいいですよ。ベッドを用意しましょう」


 そう言って、クエル先生は助手のナースさんに「部屋を用意するように」と告げると、ナースさんは僕を個室に連れて行く。そしてその後ろをミュウが続く。

 イドニスとプエルタはもう少し話を聞くとの事でクエル先生の診療室に残った。

 ナースさんに抱えられ個室に案内された後、僕は用意されたベッドで横にさせられた。


 横になっている間、ミュウはずっと離れず見守ってくれていた。

 前にもこんなことが、あったような気がする。


「あの時みたい、ね」

「うん? ――ああ、僕も思った。最初にこの世界に来た時、ボロボロだった僕をミュウが一週間くらいずっと診てくれてた」

「カザキ、変わらない。いっつも心配かける」


 まったくミュウの言う通りで。僕はいつもこの子に助けられている。

 そう考えると、ちょっと情けないなと思った。


「ミュウは大分変わったね。あの時よりずっと優しくなって、強くなった」

「カザキの、おかげ。カザキ、居るから、強くなれる」


 ミュウの頭を左手で優しく撫でる。感謝の意を込めて。

 ミュウは最初不思議そうな顔をしてそれを見ていたが、照れ臭くなったのか顔を背けながらも撫でられ続けている。


 ガラリと扉が開く音がして、僕もミュウもそちらを振り返る。

 先生のところから、イドニスとプエルタが戻ってきた。

 プエルタは水を用意してくれたようで、それをベッド横の机の上に置く。


「ほ、本当に大丈夫? カザキくん」

「うん。もう何とも無いよ」

「おら」


 イドニスは薬のカプセルみたいなものが沢山入った小さな瓶を放り投げてくる。

 それを慌てて左手でキャッチして、イドニスに怒鳴りつける。


「あ、危ないだろ! ミュウとプエルタも居るんだから、割れ物を投げるなよ、バカ!」

「…………」


 いつもなら減らず口のひとつやふたつ叩くイドニスは、珍しく黙り込んだかと思ったら訝しげな目でこちらを睨みつけてくる。


「な、なんだよ……。間違ったこと言ってないでしょ」

「…………何でもねえ」


 そう言って、医務室の椅子にドカリと座り込む。

 ……一体なんだって言うのか。

 イドニスも心配してくれているって考えたいところだけど、イドニスのその眼は――。

 左手に握った小瓶を見ながら、少しの間考え込んでしまう。


「イドニス、ごめん。僕……」

「飯当番三回プラスだ」

「ああそうかよ、謝ろうとした僕がバカだったよ!!」


 イドニスを指差しながら、僕は大声で叫ぶ。

 そんなバカみたいなやり取りを見てか、ミュウとプエルタはお互いの顔を見合わせて笑いあっていた。

 ふと、ミュウがプエルタの袖を掴む。プエルタは不思議そうに、ミュウを見つめている。


「ね、プエルタ」

「う、うん。何かな、ミュウちゃん」

「ありがと。カザキ、心配してくれて」

「ああ、それは僕からも。ありがとう、プエルタ」


 プエルタははわわとなりながら、照れ隠しするように両手をブンブンと振る。


「そんな! お、お礼を言われるような事は何も! そ、それより、良くなったとはいえまだ目が覚めたばかりなんだから、今夜はもう宿に帰った方が!」

「ううん、大丈夫。プエルタの魔法、早く見てあげないと。約束だからね」


 そう言って僕はベッドから身を起こし、手足を動かして身体に何か異常がないか確認する。

 どうやら、今は特にこれといった異常はないようだ。


「で、イドニス。何この怪しげな薬」

「お前を診てくれたセンセが調合してくれた栄養カプセルだ」

「そっか」


 このカプセル、僕の居た世界とそう変わらないものだ。

 この世界にも薬剤師みたいに薬を精製出来る人が居るのか。


 カプセルを見つめていると、ミュウがカプセルについて話し始める。


「大丈夫。カプセルの中、小さな星療魔法せいりょうまほう用の魔導石、入ってる。魔導石の魔力、切れたら、魔導石も溶けて消える」

「あ、そうなの。これも魔法で作られてるんだ」


 ……なるほど、これは知らなかった。

 だけど、同じ星療術師であるミュウが説明してくれたんだ、間違いはないだろう。


 つくづく思うけど、魔法って本当に何でもありだな……。


 プエルタが持ってきてくれた水で、カプセルをひとつ口に含んで飲み込む。

 疲れが溜まってたとは気づかなかったけど、これでしばらくは大丈夫な筈だ。


 ベッドを降り、何ともない事を三人にアピールする。


 ミュウとプエルタは心配そうにあれこれ聞いてきたけど、渋々納得してくれた。

 イドニスは何も言わずに、ミュウとプエルタとの話が終わった後に立ち上がる。


「少し準備する時間が要る。お嬢さんは俺に着いて来い。お前らは好きにしてろ」

「わかった。僕は事件について、少し調べてみるよ」


 イドニスは扉に手をかけて、振り返る。


「昼間言ったこと、忘れんなよ」

「忘れてないよ。イドニスじゃあるまいし」


 イドニスは僕の言葉を聞くと、ふんと鼻を鳴らし部屋から出て行く。


「ま、また後でね、カザキくん。無理、しないで」


 イドニスの後に続いてプエルタも部屋から出ていく。


 さて、倒れて迷惑をかけちゃった分、気合いを入れて聞き込みしないとな。


「ミュウはどうする? 」

「着いてく。またカザキ倒れたら、誰が診る?」

「ははは……わかった。ありがとう、ミュウ」


 ミュウが差し出してきた手を右手で握る。

 少しだけ違和感がしたが、きっと寝ている時に痺れたりしたんだろうと思い、然程気にならなかった。


 扉に手をかけ調査に向かおうとしたその時、クエル先生が部屋に入ってくる。


「おっと……お身体はもう大丈夫ですか?」

「あ、はい。元々そう辛いものではなかったので」

「恐らく、お仲間の方が仰られていると思いますが、無理は禁物ですよ」

「は、はい……ありがとうございます」


 うーん、耳にタコが出来そうだ。

 自分の健康管理ミスにしたって、先生はともかく皆ちょっと心配しすぎなのではないだろうか。


「担当者としては、もう少しベッドで横になっていてもらいたいところですが」

「いえ、そういうわけには。僕にはやるべきことがあるので」


 ふむ、とクエル先生はメガネを手でクイっと調整するあの動きをして、顎に手を当てる。

 それから、ズイっと僕の方へ顔を近付ける。眼鏡が光で反射し、キラリと光る。


「な、なんでしょう……」

「彼女――プエルタさんとは、どういったご関係で?」

「へ」


 そういえば、クエル先生とプエルタは知り合いなんだっけ。

 突然現れた旅人と、プエルタが仲良くしてれば怪しむのも当然、といったところか。

 特に隠すようなことでもないので、今までの経緯をクエル先生に説明する。


 すべて説明し終わった後、クエル先生は口を開く。


「なるほど……そんな事があったのですね」

「ですので、僕は当時の事件について調べたいんです。あまり時間もないから、今ここで寝ているわけには」


 何とか説得しようとしたその時、クエル先生は両手を僕の肩に乗せる。


「まあ待ってください、カザキさん。もしかすると私もお力になれるかもしれません」

「……何か、知ってるんですか!?」


 クエル先生はコクリと頷くと、僕とミュウを個室の奥へと誘導する。

 そして僕達を椅子に座らせた後、向かいの席に座る。


「私は昔、ソラウス総操舵指揮官ドライブコマンダー率いる、魔導戦艦"イシュクール"艦隊に所属する星療術師でした。船員のバイタル・メンタルヘルス担当として」

「……それってつまり、貴方も"イシュクール"墜落事故の生き残りなんですか?」

「それは違います。私は当時のソラウス指揮官の命によって、編成から外されていました。街に戻ってきた怪我を負った魔法使いたちの治療をする為にね」


 そう言ってクエル先生は机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってくる。

 そして僕に目を合わせ、数拍置いてからクエル先生は話を始める。

 ――どうやら、ここからの話は大分踏み込んだ話になるらしい。


「私が編成から外された理由は、もう一つあります。これは誰にも……プエルタさんにもお話していない事です。といっても、彼女も薄々気付いてはいるのでしょうが」

「……グレゴール氏の事、ですか」


 クエル先生はコクリと頷く。

 そうして眼鏡をクイッと調整した後、また口を開く。


「当時、総操舵指揮官であるソラウスさんとその補佐を務めていたグレゴールさんには、ある意見の食い違いがありました。グレゴールさんは特に魔族絡みの事については過激派でして。ここから西の『サンドリウセ台地』という場所に以前、魔族の『門』が多数存在していたのですが、『魔族を直接叩くか』それとも『魔界へのゲートである『門』を破壊するか』という話で、彼らは作戦直前まで」


 先生が言う『門』とは、こことはまた別の異世界『魔界』に繋がる門だ。


 魔界には大昔にリーフェンに侵攻してきたという『魔族』が棲んでいると言われている。

 その侵攻の際、魔族たちが勢力を拡大するために各地に創り出したのが『門』だ。


 『門』は物理的に破壊することは不可能だが、魔法で封印する事は可能であり、特に魔法に特化しているアルマドンなどでは、『門』を封印する為の組織が作られていたりする。

 『雷神の神槌』の中にも、そういった組織があるらしい。


「普通の『門』であれば、『雷神の神鎚』の星文術師せいもんじゅつしの部隊が『星文破唱ワードブレイク』で『門』を封印出来る筈でした。しかし、『門』のひとつに大規模な術式が敷かれたものがあったのです」

「そんな……今もその『門』は残っているんですか?」


 クエル先生は首を横に振る。

 当時を思い出しているようで、目を細めて虚空を見つめている。


「『門』を封印するには、『門』の前での長時間の『星文破唱』の詠唱が必要でした。しかし、長時間詠唱をすれば当然魔族たちはそれを食い止めようとしてくる。当時のこの街に戦士は多くなく、護衛をしようにも魔族たちは強力な力を持っていた。魔導戦艦で援護しようにも、その援護射撃に魔法使いたちを巻き込む可能性があった――」

「えっ? じゃあ、どうやって『門』を……」


 そこまで言って、やっと気がつく。グレゴールさんが提唱していたその『案』に。

 先程も言ったとおり『門』を物理的に破壊することは不可能だ。

 しかし、魔法的エネルギーによって破壊を試みるのであれば話は別だ。


「――まさか!」

「そう。グレゴールさんが提唱した案とは、幾つもの魔導石でエネルギーを確保し、尚且つ皇位星霊の加護を受けた"イシュクール"の持つ強大な魔力エネルギーを『門』へと直接ぶつける……多くの人命と、星霊と、艦を用いた『特別攻撃』です」

「そんな馬鹿な! そんなの許されるはずがない!」


 思わず立ち上がって抗議してしまうが、ミュウが袖を引いて止める。

 頭に昇っていた血が徐々に引いていき、冷静さを取り戻す。


「……すいません」

「いえ、あなたの気持ちは最もです。そんな事は許されてはならないと、ソラウスさんもそうお考えでしたから。ですが……"イシュクール"は墜落した。『門』があった場所に、ね」


 そう言って、今度はクエル先生が立ち上がる。

 個室に取り付けられていた窓から、王宮の方向を眺めながら話を続ける。


「作戦直前にソラウスさんは私に彼女を、プエルタさんを託しました。まるで、その後の何が起こるのかを分かっていたかのように」

「…………」

「……でも、なんで、グレゴールは、許されてる?」


 クエル先生はミュウの質問に、こちらには目を向けず拳を握りしめながら答える。


「――単純な話です、『証拠がなかった』。勿論、証人も。乗り合わせていた組員は全員亡くなりましたから」

「そんな…………」


 重い静寂が訪れる。まだこの話は憶測の域を出ていない。それでも、グレゴール氏がプエルタのお父さんを……犠牲にした可能性がある。

 ふと自分の拳を見やる。気づかない内に拳は強く握られていた。血が滲むほど。


「旅人の、しかも患者さんのあなたにこの事を頼むのは筋違いだとは分かっているのですが、お願いを聞いて頂けますか。『風來少年』さん」

「……はい」

「もし"イシュクール"墜落事件の調査をするのであれば、是非『サンドリウセ台地』の墜落現場を見て頂きたい。もう何年も前の話ですが、もしかしたら何か遺されたものがあるかもしれない」


 クエル先生の言葉に僕は力強く頷く。

 その頷きに、クエル先生は反応するように頷いた後に握手を求める。


「今回のことを、プエルタさんには私からは話さないでおきます。どうか貴方の手で真実を暴いて、彼女に伝えてあげてください」

「はい、お任せください。必ず真実を探し出してみせます」


 先生のおかげで有力な情報は掴めた。後は実際に足で見て回るしかないだろう。

 明日からのことをどうするか考えていると、イドニスとプエルタが個室に戻ってくる。

 どうやら準備が済んだようだ。


「プエルタさん、今から魔法の特訓ですか?」

「あ、クエル先生。は、はい、もうすぐ『操舵師選抜試験』も近いですし……」

「……貴女ならきっとなれますよ。ソラウスさんのような立派な操舵師に」


 クエル先生の言葉に、プエルタは嬉しそうに頷く。


「は、はい! 必ず、なってみせます!」

「それでは私はこれで。――カザキさん、お願いします」


 そう言ってクエル先生は、個室を後にした。

 僕たちはクエル先生を見送ると、門番さんが用意してくれたという個室制の訓練所へと向かう。

 向かう途中、プエルタが話しかけてくる。


「クエル先生、な、何か言ってた? いっつも私をからかうから、カザキくんにも何か言ってるんじゃないかと思って」

「そうなの? 逆にそれを聞いてみたかったよ」

「き、聞かなくていいから!」


 僕たちは談笑しながら施設の通路を歩いて行く。

 僕達を見張る影の存在にも気付かずに――。

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