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「お待たせいたしました」

「待ってました」

「ダーティ・ホワイト・マザーです」

「わー、来たー、凄く久し振り!」

 マリコさんに作ったのはブランデーとコーヒーリキュール、それから生クリームを注いだ甘いデザートカクテルだ。

 一見酒飲みで辛いのしか飲まなさそうに見えるマリコさんだが、実は甘いのも好きだ。って酒飲みが甘いの苦手って噂は嘘だと思う。俺も甘党だし。

「なになに~? もう帰れってこと?」

「まさか、とんでもない。そろそろ甘いのがいいかなと思ったからですよ」

「ふふふ、頂きます」

 嘘。本当はそろそろ飲むのやめた方が良いかなって思ったから締めの一杯を出した。マリコさんがグラスを傾けている隙にミネラルウォーターのグラスを置いた。マリコさんは明日も仕事のはず。バーのマスターとして客をさっさと帰すのは変かもしれない。けれど、彼女が少しでも楽しい酒で終わってくれたらいいと思うのは悪いことだろうか。

 明日に響かない酒であって欲しい。なんて、マスターの請け負いなんだけど。

「はぁ、美味しい。想太君どんどん上手くなるね」

「いえいえ」

「月一じゃなくて毎週でも想太君のお酒を飲みたいなぁ」

「飲んでもらえると俺としても嬉しいですけどね」

 ニヤリと少し意地悪な顔で返した。マリコさんはそれを見て同じようにニヤリと返す。

「あと十五年待ってね」

「もちろん」

「子供が独立したら毎週でも来られるから」

 あはは、とあっけらかんと笑う。

「まだまだここでお酒を作って行くつもりですから、いつでもいらしてくださいね」

「おじいちゃんになるまで続けてね」

「言われなくても」

 ふふ、と笑い合うと扉のベルが鳴った。四人組の客が入って来る。しかし席は三つしか空いていない。

「お客様、大変恐れ入りますが」

 断ろうと声を掛けると、それをマリコさんが制した。

「あー待って待って、大丈夫。すぐに空くから」

「え?」

「想太君、チェックお願い」

 にこやかに右手を挙げた。四人組お客様に声を掛けて少し待っていただく。マリコさんはご機嫌で支度をしていた。

「すみません、私があんな一杯を作ったから気にしてくださったんでしょう?」

 マリコさんを心配したのは間違いないけど、こんな感じで追い出したりするつもりはなかったのに。

「いいのいいの、それにあんまり遅いと旦那が心配するから。こっちこそごめんね、気を遣わせて。また来るね」

 マリコさんは少しも嫌な顔をせずに、むしろ涼やかな顔で帰っていった。とても彼女らしくて素敵だと思った。

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