異常物品回収業者(AMR)だけど何か質問ある?

暮準

異常物品回収業者(AMR)だけど何か質問ある?

海外の電子掲示板のAsk Me Everything(AME)のスレッド、「異常物品回収業者(AMR)だけど何か質問ある?」より抜粋し日本語訳したもの。


異常物品回収業者(AMR)とは、超常的な特異性を持つ物品を安全に回収・処理することによって報酬を得る職業である。「世界で最も危険な職業」とも言われており、その人数に対して死傷者の割合が極めて高いことで有名。(Wikipediaより)



(OP) なんでも聞いてくれ。恐らく知人にAMRがいるって奴は少ないだろうからな。もし居るのだとしたら、それはご愁傷様。



Q. AMRになるには何か資格はいるの?

A. 州によって様々だが、基本的に「異常物品取扱許可」のライセンスは必須だ。


Q. 武器は携帯したりする? 使う羽目になったことは?

A. いや。銃を持つ業者もいるが、それは俺たちの仕事にさほど役に立つものではない。


Q. 仕事はどうやって受けるの?

A. 警察から頼まれることや、個人のクライアントから頼まれることなど様々だ。俺はフリーランスだが、事業として展開している会社もある。たいてい長続きはしないが。


Q. 報酬はどれくらい貰えんの? おれもAMRになってみたいんだけどさ。

A. ピンキリだ。俺は600ドル以下の仕事は受けない。稼ぐ奴は年間100万ドル以上もらっているだろうが、俺はその20分の1くらいだ。だが、そんな俺みたいなのでさえ全体の0.01%にも満たない。俺個人の意見としては、この職に就くのはオススメしない。


Q. なら何故アンタはまだこの職を続けているんだ? 命の危険もあるだろ。

A. 未知なるものへの単なる好奇心だ。それとスリル、報酬……。


Q. あなたの家族や恋人は、あなたがこの仕事に就いていることに何と?

A. 家族はいない。両親はもう亡くなった。恋人ももういない。逆に、俺は家族がいるのにも関わらずこの職を続けている奴の気がしれないよ。



Q. 最初に回収した異常物品を覚えてる?

A. まだ軍にいたころ、俺は道端のIEDを解除する任務を仰せつかった。500ポンド級だったな。失敗したら肉片も残らないようなブツだ。俺は最強にビビりながらそいつに近づいていった。そしたらそのIEDから声が聞こえた……「おい、北東の建物の角にいる男、アイツを止めてくれよ」って。最初、俺はそれを空耳だと思った。だが無線から同僚の「北東? なんの話だ」という声がして、それが空耳じゃないと気づいた。すると、次にまたそのIEDは「さっきから携帯でおれを起爆させようとしてるんだ! 必死に拒否してるんだが、そろそろ限界なんだよ!」と話しかけてきた。それで、俺はその男を取り押えるように無線で同僚に伝えた。30秒後、M4A1を持った兵士たちが男を取り囲み、その手から携帯を落とさせた。するとそのIEDは俺に向かって「助かったぜ相棒。アンタはおれの命の恩人だぜ」と言った。その後、男は捕まり、IEDは回収された。キャンプに戻り、その奇妙なIEDのことを上官に伝えると、きっとそれは異常物品だろうと言われた。そして、異常物品と遭遇したのにも関わらず冷静な対応をした俺を褒め、お前にはAMRの職が向いてそうだと言った。その言葉は、軍を辞めたあとの俺の人生を決定づけた。



Q. 異常物品かと思ったら違った、普通のものだった、なんてことはあるのかい?

A. ああ、多すぎるくらいだ。人は自分が理解できないものを異常物品だと思い込むが……。5歳児が物理学を理解できないからと言って、物理学がなにか異常なものだという訳ではないんだよ。




Q. 警察は異常物品に出会う事が多いんですか?

A. ああ。俺たち以上に。異常物品があれば、そこで事件が起きる。そしたら、その場に警察が来るのは当然だ。

└・具体的に、最初に来た警察はどんなことになったりしますか?

 └(OP) 例を出そう。10年ほど前、アパートの一室に異常物品があるとの連絡を受けた。どうやら、最初に現場に到着した警官のひとりが「汚染」されたとのことだった。向かうと、警察官のひとりがその場で棒立ちになりながら、高揚した声で「見つけた! 見つけたぞ! そこにあったんだ! なんで今まで気がつかなかったんだろう! 見つけたんだ!」と叫んでいた。そいつが汚染された警官だった。そいつの相棒が、バスルームを指差して、そこに異常物品があると言った。中に入ると、水を張ったバスタブの中で男が手首を切って死んでいた。まるでミイラのような男で、目は落ちくぼみ、すべての体毛はなかった。そして、そいつは間違いなく死んでいるはずなのに、口だけが動いて何かを低い声でつぶやいていた。誓っていうが、それは地球上のどこの国の言語でもなかった。直感で、これ以上この言葉を聞くのはマズいと俺は悟った。そこで、俺は耳栓をして、さらにその上からヘッドホンで音楽をかけながら、そいつの言葉を聞かないようにして死体の処理をした。そいつは処理している間中、自分の言葉を聞こうとしない俺を恨めしそうに見つめていた。……ちなみに、汚染された警官はその4日後に自殺したそうだ。バスルームの中で手首を切ってな。



Q. 回収した異常物品をこっそり持ち帰って自分のものにしたことは?

A. ない。どんな有用そうに見える異常物品でも、実際にはどんな効果があるか分かったもんじゃない。注ぎ口から無限に砂金が出てくるティーポットがあったとして、そいつが1秒毎に持ち主の寿命を短くする効果を同時に持っていたとしてもおかしくないんだ。


Q. 軍が異常物品を軍事利用しようとしているって話を聞くけど。

A. デマだろうと思う。特異性の安定しない異常物品を使って敵を100人殺すためにかかるコストと、兵士たちを一から育て上げ銃を持たせ100人敵を殺すまでにかかるコストじゃ、後者の方がはるかに安上がりだよ。



Q. もし回収を依頼された異常物品を、誰か他人が所有している場合にはどうするんだ?

A. 時と場合による。話し合いで解決する場合もあれば、クライアントから金を積んでもらって買い取ることもある。

└・交渉が決裂して、撃ち合いになったりはしないのか?

 └(OP) ないな。AMRとして長生きしたいなら、そういったことを避ける嗅覚に優れてなければいけない。


Q. 平和に話し合いで解決できるような人間が異常物品を持っているもんなのか?

A. ああ。例えば、俺はある老人が、クライアントが失くしたと思っていた異常物品を持っているのを発見した。小さなオルゴールで、音を鳴らすとその人間の人生で最良の時間が周囲の空間に再生される、という物だった。老人はそれを古い友人から貰ったと言っていた。俺は、それはおそらく盗品で、持ち主に返すよう老人に言った。すると彼は、もう自分の寿命は長くないから、最期の瞬間にこのオルゴールを鳴らしたいんだと言った。このオルゴールが鳴っている間だけは妻に会えるんだ、と彼は言った。そして、自分が死んだら返すと。俺はその言葉を信じることにし、契約書にサインをさせた。すると老人はオルゴールを俺に手渡し、鳴らしてみろと言った。

└・よぉ、それで何が見えたんだよ?

 └(OP) 俺の周囲に広がった光景は、車の中だった。親父の車さ。まだ小さい俺が助手席にいて、うつらうつらしていた。手には、今はもう引退したベースボールプレーヤーのホームランボールが握られていた。窓の外は夕方で、道路のアスファルトがオレンジ色に染まっていた。ラジオからは音楽が流れていて、少し開けた窓から吹き込んできた風が俺の頬を撫でていた。……つまり、それが俺の人生で最良の瞬間だったんだろうな。音楽が鳴り終わり、老人は何が見えたにしろ、それは素晴らしかっただろうと俺に言った。その2年後、契約書通りにオルゴールが俺の元に届けられた。俺は、持って来た老人の孫に、彼の最期について尋ねてみた。老人は暖炉の前の揺り椅子で息を引き取っていたそうだ。その孫が第一発見者だったらしい。もちろん、老人の手には、そのオルゴールが握られていた。そして、その老人の顔は、何か恐ろしいものを見たかのように苦悶に歪んでいたそうだ。あのオルゴールは、最期の瞬間に何をあの老人に見せたのだろうかと、今でも考えたりする。



Q. 今までで一番「これはヤバいな」と思った瞬間は?

A. とある州立病院での仕事の時だ。個人部屋である2045室が存在しなくなった、という案件だった。医師も看護師も、その部屋を知覚することができなくなったんだ。俺も実際に行って、表札を数えながら移動してみたが、2042、2043、2044、2046……うん? といった具合だった。2日の試行錯誤の末、俺は「2045室に行こう」という意識さえ持たなければ2045室にたどり着けるということに気がついた。……わかるかな。

└・待て待て。「2045室に行こう」と思わないで、どうやって2045室に行くんだよ?

 └(OP) あらかじめタブレット端末に、最終的に病院の図面上では2045室にたどり着けるようなルートを入れておいた。あとは他のことを考えつつ、音声ナビゲートに従って歩いたんだ。それでふと気がつくと、俺は2045室の前に立っていた。中に入ると、点滴やら人口呼吸機に繋がれた男が意識不明のまま眠っていた。それを見た瞬間、今回の異常物品は病室ではなく、この男なのだと悟った。俺はAMR規則に則り、異常物品の処理をしようとその男から生命維持装置を外そうとした。遺族からも許可は得ていた。だが、次の瞬間、気がつくとなぜか俺が点滴やら酸素マスクに繋がれてベッドに横たわっていた。身体は動かせず、ベッドの横にはさっきまで意識不明だったはずの男が手術用メスを持って突っ立っていた。青い入院患者用ガウンを着たそいつは俺の元へとゆっくりと近づくと、メスを振り上げた。俺はとっさに、今思うと細いセンの懸けだったが、「受け入れろ、お前はもう死んだんだ」となんとか男に言った。……男はメスを振り下ろさなかった。そして次に気がつくと、俺はベッドの上にいるその男を見下ろしていた。さっきまでと同じ体勢のままだった。2045室中に、心停止警告音が鳴り響いていた。やがて、俺の耳に医師や看護師が走ってくる音が聞こえてきた。あの時が一番ヤバかったと素直に言えるよ。だってあの時2045室にいたのは、間違いなく俺とその男だけだったんだからな。



Q. 最後に質問。正常な人間が異常物品になってしまう原因は何だと思う?

A. わからないな。だが俺が思うに、それは歩道に空いた穴みたいなもので、不運な奴がそこに落ちてしまうものなんだ。それか、興味本位でその穴に入ったはいいが、出れなくなった奴なんかもいるだろうな……。



(OP) よし、ここまでで質問は終わりだ。もし回収して欲しい異常物品があれば、俺のところまで一報くれ。間違っても警察なんかに電話して時間を無駄にしないでくれよ。彼らは犯罪に対するエキスパートであって、異常物品に対するエキスパートではないんだからな。

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