誰何
★☆★☆★
クレアは、普段とおなじ頼り甲斐のなさそうな笑みをうかべたダニエルを
「よくもだましてくれたわね」
「すまない。こうするほかに方法がなかった」
「まあ、たしかにどうしようもないわね、こんなものがあるんじゃ」
わずかに
「――
鳳の結界にとらわれたシュリは、いまだにダミー情報との対話をつづけていた。うつむいたクレアがつぶやく。
「シュリを、……助けにいかないと」
「付きあおう、お嬢ちゃん」
「そうはいかないわ。これはもう、捜査じゃないもの」
「だが私は君のバディだろう?」
「……どうしてそこまでして、私に力をかしてくれるの?」
「ラーマーヤナをしっているか? シータ王女を救いにいくラーマ王子を、ハヌマーンという猿が手助けするんだ」
「いつもそうやってはぐらかすのね。ねえ、あなたは一体、誰なの?」
「そうだな、すべてがおわったら話そう。約束だ、お嬢ちゃん」
オニキスのごとき
「ひどいことになるわよ、もし約束をやぶったら」
「了解だ。よくしってるさ、お嬢ちゃんがおっかないのは」
ところで、とクレアはわずかに表情をゆるめる。
「ひとつ、提案があるんだけど」
「何かな?」
「いまの私も名前でよぶべきよ。私が鳳だったときは鳳とよんでいたのだから」
「気恥ずかしくていまさらそれもな」
一度、私を名前でよんだでしょう、と言いかけた言葉を飲みこむ。鳳がかたらなかった記憶だった。インドラジットにうたれて意識をうしなう直前、あらわれた人物はたしかに自分の名をよんだのだ。なつかしい響きをもって。
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