洋弓部へようこそ!

月夜見柚香

はじめましてアーチェリー

新歓祭

 私はバスを降りた。桜が咲いている。でも、まだ少し寒い。

 この春から私は大学生になる。数週間前に受験でみたはずの景色はまったく別もののように思えた。

 スプリングコートのポケットに冷えた手を突っ込みながら、人が流れる方へと歩いた。


 昨日、一人暮らしをはじめるマンションへの引っ越し作業が完了した。

 入学式は、数日後だ。

 引っ越しの手伝いをしてくれた母は、入学式の前日にまた来るといって帰って行った。

 暇だ。

 まだ友人もいないし、特にすることもない。

 適当にSNSで、大学のことについていろいろ見ていたら、ちょうど今、新歓祭というものを大学でやっているという情報を手に入れたので、様子を見に行くことにした。


 新歓祭とは、いろんなサークルや部活が一斉に説明会や催しをするというものだ。


 グラウンドに到着した。たくさんのブースがある。

 何人かで楽しそうに話しながら会場に入る人だらけのなか、私は一人。

 同じ大学に進んだ同級生はいない。知り合いもいない。


 大丈夫だ、私。


 とりあえず、私は、この新歓祭のパンフレットをもらい、適当に歩き始めた。


 大学生になったら私は、部活に入りたいと思っていた。中高とは違う部活に。


 中学生の時から、私は吹奏楽部に入っていた。元々音楽が好きで、吹奏楽も好きだった。

 しかし、高校で、顧問にいろいろ問題があって、吹奏楽は嫌な思い出になってしまったのだ。(あまり思い出したくない。)

 音楽自体は全然嫌いになってないから、大学ではオーケストラにでも入ろうかなとか考えていた。

 でも、いっそのこと、音楽と離れてみるのもアリなのかもしれない。


 私は、交響楽団のブースの前を通り過ぎていた。


 音楽と離れる。ということはどういう分野になるのだろうか。

 やっぱり、体育会系なのだろうか。

 しかし、私はあまり運動が得意ではない。


 小学生のころ、みんなと外で遊ぶとき、ドッジボールやサッカーなど、チーム分けが必要になることが多い。そこで、スポーツが得意な二人が、自分のチームに入れたい人を交互に一人ずつ選ぶ。小学生とはなんと残酷な生き物なのだろう。いつも私が最後まで残る。毎回そんなことをされると、当時の私はとてもつらくて、教室の中で本を読んだり、電子ピアノを弾いて遊ぶようになっていった。

 そんなわけで、中学高校で運動部を選ぶことはなかった。(吹奏楽部は、よく文化系運動部とか言われるが、それは気にしないでいただきたい。)


 ということで、体育会系も気が引ける。


 いろんなブースの前をパンフレットの体育会系のページを見ながらふらふらと歩いていると、新入生を一人でも多く入れようと必死な人たちが声をかけてくる。

 がたいのいいひとがラグビー部のマネージャーにならないかと声をかけてきた。

 たしかにマネージャーも体育会系だよな……


 でも、サポートじゃなくて、自分が主役になりたい。


 ぱらぱらとパンフレットをめくっていると、あるページに目がとまった。


 あった。

 運動が苦手な私でもできそうな部活。


 左のページに弓道部、右のページに洋弓部が載っていた。


 勝手な偏見なのだが、これなら私でもできると思ったのだ。

 さて、どっちにするか。


 さっきから、袴を着た人が和弓を持って歩いているのを見かける。

 かっこいい。

 やっぱり弓道部かなとか考えながら、弓道部のページをよく見る。


『練習は週に6回です!』


 あ……

 となりの洋弓部のページに目を移す。


『自主練は好きなときにできます。全員で行う練習は週に2回です。』


 これは、よくわからないけど洋弓部だな。

 私は洋弓部のブースに向かった。

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