第97話 カヤ―5
『全知』?
確か世界の果てである『銀嶺の地』から生還した『六英雄』の一人で、『勇者』の仇を取る、ただそれだけの為に同じく『六英雄』だった『剣聖』と二人で世界へ戦いを挑み――そしてもう少しで勝ちかけた、怪物だった筈っすね。
けど……『剣聖』は敗れ、『全知』自身も行方知らずになったと、昔、薄狐から聞いた気がするっすけど。
でも、お師様は今、『当代』って言われたっすよね?
エルミア姉が、声を荒げられたっす。
「――ハル、皮肉を言ってる場合じゃない。ここまであんな碌でもないモノに浸食されているなら、仕方ない。殲滅すべき。今なら私一人でも殺せる」
「駄目だ」
「――どうして?」
「簡単な話だ。俺は彼女に約束をした。『必ず生かしてみせる』と。そして、彼女はそれを信じた。信じてくれた。さっき会ったばかりの、しかも、多少なりとはいえ、俺の過去を知ってて、だ。ならば――それを果たさないのは、男がすたるだろう? 第一、自分よりも年下の女の子を殺して生き残るなんて……あの世で先に逝った戦友へ説明出来るか? くっくっ、また殺されるのは御免だな」
ドクン。心臓が大きく跳ねたっす。
お、お師様って……こ、こんなに、その、なんすね……。
隣のサシャも、ぽぉ~とした後、首を大きく振ったっす。
「……ロス、違うから。これは違うから。先生がカッコいいのは仕方なくて。その、私が好きなのは――」。
……何か、色々大変そうっすね。口調も演技じゃなくなって……。
エルミア姉は、『遠かりし星月』を両手で抱きしめ、お師様を見つめているっす。うわぁ……もう、完全に恋する乙女状態じゃないっすか。
拳と拳がぶつかる激しい音。兄貴の愉快そうな
「いいのであるっ! それでこそ……それでこそっ、我が師!! 何かしら、策があられるのだろう? 雑魚は任されよ!!! 血路は吾輩と」
「――私が開く。サシャ、カヤ、援護」
「り、了解っ」「了解っす!」
「イシス達が具現化している間なら何とかなる。最悪『月虹』を犠牲にしよう」
「――……ハルの好きにすればいい。私は私の役割を果たすだけ」
「おおぅっ! 『勇者』殿の遺刀までもかっ! そこまでの覚悟……愉快、愉快なるぞぉぉぉ。これは、久方ぶりの『激戦必至! 待て、次号っ!!』というやつであるなっ! 先陣は貰い受けるっ! 『
兄貴が、右手を前に出し気合と共に、咆哮。風属性の魔力と闘気が練り上げれられ――姿が消えたっす。気付いた時には
「『
繰り出された横薙ぎの一閃が、回復した少女達を『盾』ごと両断し、射線上にあった宮殿を破壊したっす。残りは四体。
奥の御姫様は――武器を持っていない?手持ち武器も、人化させたんすか? 何の意味が……。
いや、今はそんなのはどうでもいいっすね。
八体の『狐将』を兄貴に続けて突進させると、隣からはサシャの援護射撃。次々と着弾。猛火、吹雪、竜巻が巻き起こったっす。
全部、特級魔法っすから、豪気っすねっ!
……これ、まずいっすねぇ。兄貴の病気に感染したのかもしれないっす。
今、あちし、楽しくて楽しくて、たまらないっすよっ!
――魔法の中から、少女達が疾走してきたっす。
あの魔法を喰らってその動きっすか。とんでもない回復力っすね。
見れば、先程、兄貴が両断した子達も復活――天から降り注いだ巨大な『白い槍』が四体を串刺しにしたっす。
抜け出そうともがいてるっすけど……な、何すか、これ? 込められている魔力が、桁違いなんすけど。回復力を上回ってるっすよ!?
「――ハル! 今なら、あの『女神』だか『魔神』だか『勇者』擬きに届くっ!」
「ああ。では……やってみるとしよう! ラカン、サシャ、カヤ、そっちは任すぞ!」
「了解なのであるっ!」「了解です」「了解っすっ!」
お師様が駆けだされたっす。
迎撃しようとする少女二体に、四体ずつ『狐将』をぶつけ、足止めをはかるっす。残り二体は兄貴が粉砕中。気持ち悪い回復力っすね、ほんと。
……さっきのは、まるで、どうすれば御姫様に辿り着く事が出来るのかが、エルミア姉には分かっているみたいだったっす。
幾らあの姉弟子が凄まじくても、こんな戦場じゃ上空から見れないと、そんな事――なるほどっすね。『天見』ってそういう魔法っすか。
確か『時詠』は、刹那先の未来視だった筈っすから……今のエルミア姉って、射手の到達点なんじゃないんすかね? ……さ、寒気が。
お師様が悠然と進まれていくっす。
対して御姫様は無手。目まで閉じられてるっす。
……嫌な予感がするっす。さっきから、肌がざわついて……何なんすか、この気持ち悪い風は。
かっ! と目を見開かれた御姫様が両手を左右に開かれたっす。
「――っ! ハル!!」
「馬鹿なっ!? 幾ら何でも覚醒するにはまだ早過ぎるのであるっ! マズイのであるっ!!」
少女達の姿が消失。
お師様が振り下ろされた美しい刀を――禍々しい真紅の『剣』と『槍』が止めたっす。衝撃と暴風で、そこら中の人工物が破損。
とんでもない魔力のぶつかり合い!
そして……おどろおどろしい女の声が聞こえてきたっす。
『オオオオオオオオオオオ。ワレマタヨミガエレリ。コンドコソコノセカイヲホロボサン!!!!!!!!』
御姫様の大咆哮で、お師様が弾き飛ばされ、それを兄貴が受け止めたっす。
口から吐血。う、嘘っすよね?
「師よ……これは流石に洒落にならぬぞ」
「好きだろう? 仕方ない。『命』を賭けるとしよう……昔のように!」
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