第28話 タバサ―11

「侵入者っ……むぐっ」

「……声が大きいです……」


 叫びそうになった私の口を、ニーナの手が再度覆い、小さな魔法が発動。

 ――すると、複数の男の声と、足音。

 もう、近くまで来てる……。


『これは――』

『……とんでもねぇな……』

『だ、団長っ! こ、こいつを見て下さいっ! こ、これ、真龍の爪なんじゃ……』

『な、何なんだ……い、いったい、此処は何なんだっ!!』

『宝の山だ……』

『気持ちは分かるけど、騒ぐな。団長、周囲に反応無し』

『そうか。まだ先があるが、取りあえず証拠の物を幾つか回収しとけ。なに、終わった後でも時間はある、適当でいい』

『『『『おう』』』』

『標的はおそらくこの奥。奇妙な建物だが、そろそろ行き止まりな筈だ』

『ああ』


 声の数からすると――複数。

 幾らニーナが強くても……厳しいわよね。

 視線をやると、唇だけを動かしてくる。遊びで覚えた読唇術が役に立つ日が来るなんて。


「(どうするの? ニーナでも厳しいわよね?)」

「(……かなりの高階位冒険者です。特に先頭の二人は私よりも格上かと)」

「(……それじゃ)」

「(標的は不明ですが……目的は拘束もしくは殺害でしょう。大旦那様達へお報せしなければなりません。ハル様が部屋を固定化されたので、このままではすぐ辿り着かれてしまいます)」


 部屋の固定化。さっきもハルさんが言ってたけど……うん、今はちょっと置いておこう。

 あ――ポケットに入った物――鈴を確認。


「(鈴は鳴らしたの?)」

「(……いいえ。その余裕がありませんでした)」

「(そう)」

「(今、そうするのは自殺行為です。さ、移動しましょう。消音の魔法が効いているいる内に。タバサお嬢様、離れないでくださいね)」

「(ええ……)」


 ニーナの後をついてゆっくりと動き出す。

 男たちは手当たり次第に、物を集めているみたいだ。

 押し殺した声だけど、その興奮がこっちにも伝わってくる。


「――――」

「!?」


 突然、袖が引かれた。

 声を上げそうになるのを必死で抑える。あの女の子だ。

 ……駄目だ、この子も連れて行かないと。

 膝を曲げ、視線を合わせて小さな手を握る。

 きょとんとした表情。状況が分かっていないみたいだ。

 ニーナがこちら振り向いて、怪訝な表情。何よ?


「(タバサお嬢様……いえ、今はいいです。行きますよ)」

「(ええ。貴女も付いてきてね?)」

「――――」


 部屋の扉を通り、お爺様達が作業をされている部屋へ――首筋に寒気。


「タバサお嬢様っ!」


 ニーナが私の前に立ち塞がり、金属音と共に何かを弾いた。ボルト?

 両手に短剣を握り、視線は前方。こちらにクロスボウを向けている獣人の男。

 舌打ちと「……やはり護衛が。厄介な」という小さな声が聞こえてくる。


「ニ、ニーナ……」

「行って下さい。すぐ追いつきます」

「で、でも……」

「行きなさいっ!」


 ニーナの叫び声。と、同時に女の子の手を握り走り出す。

 後方からは激しい金属音と、魔法の気配。

 

 ……振り返らない。ニーナは強いもの。大丈夫……大丈夫よっ!

 

 加工部屋は廊下の奥。すぐそこだ。

 お爺様はニーナのお師匠様でもあるから強い筈。急がないと。

 突き当りの扉、あれね。

 すると勝手に扉が開き、ネイさん達が出てきた。

 手にはそれぞれ武器。私を見て、ネイさんが片目を瞑る。


「さっきから、妙な気配がすると思えば……何とまぁ命知らずな事をする人達がいるものだね」

「そうじゃのぉ。まったく、最後の作業中じゃというのに」

「ハルちゃんは留守なのね。外に出るなんて珍しいわ」

「……無駄口はよい、行くぞ。タバサ、お前は奥の部屋に隠れておれ」

「は、はいっ!」

「大丈夫だよ、無理はしないからね」


 ネイさんが私へ笑顔を向けて、廊下を進軍して行く。

 私は女の子の手をぎゅっと握り奥の部屋へ。


「うわぁ」


 こんな時だというのに、声が漏れてしまう。

 部屋は最初の倉庫と同じ位に広く、様々な見た事もない加工機械が置かれていた。いったい、ハルさんって何者なの……。

 

 そんな事を考えていると激しい剣戟の音。


 お爺様達が次々と飛び込んでくる。

 殿は、ニーナとネイさんだ。全員、服には鮮血。そこかしこで治療魔法が発動。


「ニーナ、お爺様っ!」

「やれやれ、久方ぶりの実戦とはいえ、なまったものだね……」

「なんじゃ、軟弱者め。だがこ奴等、かなりやるぞ?」

「そうね。第1階位から第4階位ってところかしら。貴方達、誰かに恨まれてるんじゃないの?」 

「……貴様等の可能性は薄かろう。あるとすれば」

「まさか、あのシキ家の先代がこれ程の手練れとはなぁ。護衛もやりやがる」


 獣人の男――大柄だ。熊族かしら?――が部下を従えて、部屋へゆっくり入ってくる。

 その横には目が細い、狐族の男。さっき、私を狙った奴だ。


「……貴様等の目的は儂の命か?」

「命は取らねぇよ。大人しく着いて来てくれれば、何もしねぇ」

「……嘘だの、それは」

「はぁ?」

「拘束ならばこれ程、激しく戦う必要はあるまい? それにそう思っているのは、お主だけのようだ」

「どういう意味」


 その時だった。が突然疾走。

 目標は――


「タバサお嬢様っ!!」「タバサっ!」


 ニーナが一人を抑え、更に攻撃魔法を高速展開、一人を牽制。

 ネイさん達も二人を相手にし――が、残った狐族の男は私を



「ごふっ……」

「やはりな。情報は貰っておくものだ」



 ――お爺様に短剣が突き刺さっていた。

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