第23話 タバサ―8

「――今回の品物はここにある。好きに見ていい。加工するならそこの部屋を使って。何時も通り加工道具は一式揃えてある」

「うわぁ…………」


 エルミアに案内され、私達が辿り着いた部屋(幾つか扉を通り抜けたけど、この廃教会ってそんなに大きかったかしら……)は、一番最初に通りかかった部屋よりも幾分か小さかった。

 棚の数も少ないし、高さもそれ程じゃない。それでも、まるで帝都にある大図書館みたいだけど。

 

 ……ただし、置いてある物はここから見ても分かる位、明らかに別格。


 どうやら分類ごと、綺麗に整頓されて陳列されているみたいだ

 小冊子を確認。

 

 各真龍や特級以上の悪魔、と言った魔物系素材類。帝都でも、まずお目にかかれない代物ばかり。ここにある物が市場に出たら、多くの商家が血眼になるわね。真龍の肺はないみたいだけど……。取り合えず簡単に王蚕おうかいこの糸って書いてあるのは、心の平穏の為、誤植だと信じたい。

 世界樹の葉や枝。そして――実? 上層部にしかならないとされるのにどうやって……誰が採集を……。

 禁書の数々。『星月魔法大全』って、確か魔神戦争時代に書かれたっていう幻の書物だったような……他のもそれこそ帝室書庫にしかないような物ばかりだ。

 薬品類は割愛。取り合えず……全部、見た事がない。

 武具も詳しくないからよく分からないけど……どうやら、普通の物は一切ない。だって、魔剣やら魔鎧、果ては『神』を冠している物が並んでるし……。

 そして、私にとっては慣れ親しんでいる筈の宝玉類。超級の魔石や、幾つか宝珠もある。変わった所では、複数属性を内包している魔石もあるみたいだ。  

 

 ――小冊子を閉じる。

 なるほど……人間って驚きを通り過ぎると冷静になれるのね。初めて知ったわ。

 エルミアの台詞『――ここにあるのはそんなに凄くない』の意味もようやく理解。そして、同時に疑問。


「――貴女は探さないの? もう勝負は始まっている」

「へっ?」


 考え込んでいると、既にお爺様達の姿はなかった。

 どうやら、既に思い思いの品物を探しへ行かれたみたいだ。

 此処に来るまで和やかに話されていたけれど、勝負事は別、という訳ね。

 私も行かないと。だけど、その前に――


「あの、探す前に幾つか質問してもいいですか?」

「――何?」

「此処に置かれている品物は……本当に凄いです。ちょっと信じられない位。でも、誰がこれらを集めたんですか? 一人二人で集められる量じゃありません」

「――簡単。ハルの教え子達」

「初めに会った時言われてた、育成者ですか? その教えられた人達が?」

「――そう。あの子達が、飽きもせず大陸各地から送ってくる。何度もハルが『大丈夫だよ。自分達の為に使いなさい』と手紙で書いたり、直接言っても聞かない。皆、頑固過ぎる。整理する立場にもなってほしい」

「えーっと……こんな物凄い物をですか? だ、だって、例えばこの青龍の牙なんて帝都の競売に出せば、それだけで……。そ、そもそも、真龍や特級以上の悪魔を狩る冒険者って……」

「――? ハルの教え子に落第生はいない。皆、大陸でもそれなりに名は知れている。……そこが厄介でもあるけど」


 エルミアが何かを思い出したらしく、苦い表情になる。

 

 ……もしかして、ハルってとんでもなく物凄い人?

 

 確かに不思議な雰囲気な人だったけど、そこまで凄い人には見えなかったのに。

 だけど、目の前に広がっている棚を見てしまうと自分の認識が揺らぐ。

 これらの物を集めかつあっさりと手放す冒険者。明らかに高位。もしかしたら特階位かも……。


「――他に質問は?」

「もう一つだけ。送って来る、と言いましたけど、どうやって?」

「――この勝負期間中はいるのなら、自分の目で確かめればいい。見た方が早い」

「……分かりました。すいません、ありがとうございました」

「――参考までに聞いておく。子ネズミ一号はどうやって、そして何を選ぶ?」

「子ネズ――って何ですかっ!?」

「――名前を覚えられないから。取り合えず一号、二号」


 ……ニーナ、貴女、二号にされてるわよ?

 まぁだけど勝手に侵入した身だし、甘んじて受けますけど。


「……私はお爺様達のように目利きじゃないし経験もないです。加工する技術も。正直、何故、参加させてもらっているのかすら分かっていません。だけど、何もしないまま負けるつもりは毛頭ありません」

「――ほぉ。でも、勝ち目は限りなく薄い」

「ええ。だけど、ヒントはいただいていますから」

「――ヒント?」

「はい」


 言われた時から引っかかっていたのだ

 突然、私に対して『』と尋ねた事が。

 ――これは、ないない尽くしである私への助け舟だったんじゃないかな?


「なので、私は宝石類に絞って探します」

「――偶々だと思うけれど」

「そうですね。きっとそうです。だけど、私が多少分かるのは宝石類だけですから。やっぱり、そこを探します」

「――ならいい。私から言えるのは楽しめばいい、ということだけ」

「はい!」


 確かに楽しまなければ損ね。

 これだけの品物を見れて、しかも触れる機会なんか私の人生においてもう二度とないだろうし。あ、そう考えると楽しくなってきたわ!

 よーし。ちょっと頑張ってみよっと!



「――――」

「えーっと……」


 宝石類の棚に辿り着き――途中でお爺様にも会った。やっぱり宝石を選ばれたみたいだ――色々見ていたら、視線。

 ……さて、棚に隠れて顔だけこちらへ見せているこの女の子は誰でしょう?

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