幕間 神様少女と不思議な木
ぱったりと止んだドクトールからの手紙。1週間待っても、1ヶ月待っても、ルーナへ手紙が来ることはなかった。
村の人に聞いても、村に手紙を運んでくる来る郵便ギルドの人間に聞いても、ドクトールからの手紙はない。
彼に何かあったのだろうか、それとも自分のことなんてもおうどうでもよくなってしまったのっだろうか。ネガティブなことばかり考えてしまう。
それでも、長年作り続けてきた薬の効果は変わらない。相変わらず村の人からの評判は良い。不安を抱えつつも、いつも通りに薬が作れてしまうことを喜ぶべきか、悲しむべきか。
そうして心の中にもやもやを抱えたまま数日が過ぎたある日のことである。
「……地震?」
ルーナは自宅で薬を作っていると、地面の揺れを感じた。
決して小さいとはいえない揺れに、ルーナはその場にしゃがみこむ。1分も経たない内に揺れは収まり、ルーナは念のために外に出てみる。家のドアは開けっぱなしにしておく。今のが前震で、この後大きな本震が起こるかもと考えてのことだ。しかし、待っても待っても揺れはこない。
結局、ただの地震だと思って家の中に戻ると、ルーナは再び薬作りを始めた。だが、次の日、薬を届けに村へ向かったルーナの目に信じられないものが映った。
村の中央に大きな木が1本、生えていたのだ。村の中や村の周辺に生えている他の木とは見た目からして違う。誰かが植えたにしても、村に木を植えるなんて話は聞いたことがない。
「な、何これ……」
「ルーナさんでも分からんかね?」
呆然と木を見上げるルーナの所へガショウがやって来る。
「ガショウさん。この木はどうしたんですか?」
「昨日、村の地面を突き破って現れたのだよ。そして根っこを器用に動かしてここに移動して、そのまま居座ってしまった。近づくと根を振り回してくるから誰も近づけない状態でね。ほれ、こんな風に……」
そう言うとガショウは地面に落ちていた小石を拾って、木に向かって投げつけた。すると、木は地面から根っこを出して、飛んできた小石を叩き落とす。
「あ、危ないですよ⁉」
「まあ、遠くからこうやって何かを投げるくらいなら、ああやって叩き落とすだけで済むんじゃが、人が近づくとあの根っこで襲われちまうもんでね。正体が分からない以上、下手に触るのは危険っちゅーことで、木が出てきた穴も埋められない状況な訳なんだね」
「下手に触るのは危険って、たった今石ころ投げた人のセリフじゃありませんよ……」
げんなりしたようなユキの言葉に、ガショウはハッハッハと笑って誤魔化す。
「それよりも、植物に詳しいルーナさんでも分からないとなると、これはもう国の研究機関にでも頼むしかありませんな」
「研究機関……ですか?」
ルーナの言葉にガショウは頷く。
「ええ、国の中心であるケジャキヤにはこういった不思議を研究する機関があるのですよ。そこに木の一部を持っていけば、この木の正体も解き明かしてくれるかもしれません」
「確かに、それなら何か分かるかもしれませんけど、どうやって木の一部を手に入れるつもりですか? あんなに根を振り回して危険な存在ですよ?」
道端に生えている花とは違うのだ。1本の木となれば、根の大きさも段違いだ。それをムチのように振り回しているのだ。当たれば痛いどころの話ではない。
「実を言うと、もう手に入れてあるのですな。木が村の中央に移動した時に落とした破片を偶然拾いまして」
そんなルーナの心配はその一言であっさりと消え去った。むしろいろいろ考えた自分がなんだか恥ずかしいじゃないか。
「ワシはこれからケジャキヤに行き、木の破片を研究機関に渡そうと思います。それで、相談なのですが、ルーナも一緒にケジャキヤまで行ってもらまえませんかな?」
「私も、ですか?」
ガショウの突然の申し出にルーナはきょとんとする。
「はい。ワシではこの木について分かることに限界があります。ですがルーナさんは花人で、しかも薬学師をしている。人よりも植物についての知識はずっと多い。破片とはいえ、正体も分からぬ木です。ユキさんならば、ワシよりも扱いや正体について、ケジャキヤに着く間に何か分かることが出てくるかもと思ったのですが、どうでしょうかな? 無理にとはいいません」
「いえ、分かりました。その申し出、お受けします」
「そうですか? もう少し悩むと思ったのですが、意外と即決でしたな」
驚いた顔のガショウ。
ガショウや村の皆には悪いが、ルーナはチャンスだと思った。
ケジャキヤに行けばドクトールに会えるかもしれない。そして、分かるかもしれないのだ。彼からの手紙が途絶えた理由も、彼に何があったかも。
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