女騎士と四畳半と行方知れずの大賢者・スズの場合

ギア

探索開始から19時間後

 書斎に戻ってきた騎士団長は、直立不動のままの私を一瞥もすることなく通り過ぎた。書き物机の向こう側へと向かうと、そこに置かれた大きな皮張りの椅子にぐったりと身を預ける。一線から退いてからさらに増した目方に、頑丈な作りの椅子が軽いきしみをあげた。

 少し間を置いてから、背もたれに身を預けた姿勢のまま、下目使いで私を見た。

「どうやら君の言う通り、あの杖がゲートの役割を果たしていたらしい。これで魔物の出現も止められるだろう。お手柄だな。おめでとう。ヴィソカヤ将軍もお喜びだろうな」

 言葉とは裏腹に不機嫌そのものな団長の表情も不思議だったし、なぜ義父の名がここで出てくるのかも分からなかったが、とりあえず褒められているのだろう、と私は頭を下げた。

「ありがとうございます」

 素直に礼を返した私に、団長はどこか鼻白んだ様子だった。

「ああ、それと将軍のお口添えもあって独断専行の件は不問に処すそうだが……」

 なるほど、そういうことか。私は内心ため息をついた。自分の力を示そうとしてこうやってまた義父に迷惑をかけてしまっているわけだ。

「聞いているのか!」

 鋭い声に我に返る。

 申し訳ありません、と返した私に大きなため息をつく。

「処分がないとはいえ行動を把握していなかったでは済まないから、昨晩のことを詳しく報告しろと言っている」

「今でしょうか」

 一晩寝ないで活動していたせいで、判断力が鈍っていたらしい。つい分かり切ったことを聞いてしまう。

 しまった、と心の中で自分に呆れるが後の祭りだ。

 ひとしきりお小言を頂いている間、報告を簡潔に終えるためにも昨晩の出来事をあらためて思い返しておいた。賢者を探しに出向いた異世界で出会った、別の賢者との出会いを。

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