優しいモノ

今日も見守る路肩の隅で

大きい人に、小さい人に

縮こまって歩く人、早いものに乗っている人に

四角い何かに話しかける人、自転車なるものに乗る人に

色々な人が通るけれども


今日も見守る路肩の隅で

背に鞄をつけている子が花をくれ

拝む人が「お供え物」をくれる日々

何人も声をかけてくれるし

誰かが誰かを待つ場所にもなるここで


今日も見守る路肩の隅で

飽きぬ風景、飽きぬ声

当たり前が


今は何が起こっているのだろうか

あっという間に水に呑まれて

汚泥の中で見たのは

日々見てきたモノではないだろうか

なぜ笑うことなく

なぜ無表情で

なぜ人の形を成さず

窓を叩く誰かの叫び

張り裂けそうな悲鳴の木霊


信じられない

今日も見守っていた路肩の隅に

イロイロなものが転がっている

これはなんだと、俺が言う

「なぜ、助けられぬのだ」と俺が言う

張り裂けんばかりの内なる何かが

取り戻せと叫んでいる

弾けた身体が地を駆ける、燃え続ける何かを壊すため

生きているモノを引き千切る

「なぜ、生きているのだ」と俺が言う

あの路肩の隅に帰るため、駆けて駆けて夢想する

邪魔するモノを引き潰す、帰せ帰せと咆哮し


今日も誰かを喰い殺す

なぜこんなにも苦しまなければならないのかと

誰も答えをくれないが、そんなことはいい

そんなことはいいから、あそこへ帰せ

あそこへ

「――どうして、こうなったのだ」

久しく止まらなかった足が動かない

「――これは、なんだったのだ」

首が熱い。肉を噛んではいるが引き千切るまでには至らない

霞む視界の中、俺の耳元で誰かが言う

「いとおしい、と言うのです」

優しい声音だ。見守る路肩の隅で何度も聞いた

何度も、何度も、聞い――


首が飛ぶ

地を失ったモノは、その体躯を血の海に沈めた

今日も「ただ優しいモノ」が壊れていく

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