第124話

「よぉ閣下ぁ!」


 そこへメリーベルが合流する。カ・ナンが港を得た事で正式に海軍を持つ事になったので、海兵団はカ・ナン湖畔基地を引き払って、ガンプに移転してきたのだ。


 今までは将校用の黒いコートを適当に羽織っていただけだったが、正式に海軍の指揮官に任命されたため、きちんとした制服が制定され支給されていた。


 とはいえメリーベルはスタイルが良すぎるため、制服を内側から打ち破らんばかりに肢体が自己主張していた。


「そっちはどうだ?」


「順調も順調だよ。まあ、見とくれ」


 案内されたのは海辺のドッグ。ドッグの中では中型船の建造が進められていた。


「おお、本当に作っているんだ」


 このドッグで建造されているのは、ソウタが持ち込んだ技術を基にした船だった。地球で発展してきた木造帆船の技術から、現時点で盛り込める技術を導入した設計になっており、大きさ以外のあらゆる面でこの世界の船舶の水準を大きく上回る船となる予定だ。


 革命的な船となるため、カ・ナンの船大工だけでなく、セキトやクブルからも船大工や技術者が集まって建造に携わっている。そしてこの技術に興味を示したゴ・ズマの造船技師も極秘に建造に参加していた。


「技術の確認と、閣下のゴ・ズマ入り用だから、あと三ヶ月で完成して出発の時には万全になってる予定だってよ!」


 カ・ナン海軍の現在の戦力は中型帆船四隻と大型船一隻という小規模なもの。小国ゆえに数多くの船を揃えるだけの財力は無いが、港と周辺の海域の治安は守らねばならない。


 彼らはほぼ全員が元海賊なだけに素行に不安はあるが、今のところは極端な問題を起こしてはいない。


「この町は急ごしらえでも、大勢の軍人相手だったから酒場はきちんとしててねぇ」


「ああ、そうだな。今日は無理だけど楽しみにさせてもらうよ」


 視察を一通り終えて、その足で港に向かう。この日、ガンプに来たのは視察だけでなく、出迎えの為でもあった。


 ゴ・ズマとの戦いの間、カ・ナンにアンジュを置いたままにするわけにいかなかったため、断固としてカ・ナンに残ると言って譲らなかった彼女を、ソウタは止む無く送還していた。


「アンジュさまは気丈にしておられましたが、毎日カ・ナンを、閣下の事を気にかけておられました。何卒、ご配慮を」


「了解。責任持って俺が何とかするよ」



 その日の午後、クブルのバンドウ家の所有する白い塗装がされた大型船が入港してきた。


 戦火と混乱が落ち着いたと連絡を受けたので、事業を再開すべくアンジュらが戻って来たのだ。本当なら休戦協定が結ばれた時点で馳せ参じたいところだったが、ゴ・ズマとクブルの関係は全く微妙だったので、情勢が落ち着くまでは戻ることができなかったのだ。


「トウザさま……。よくぞ、よくぞご無事で……」


 周囲から押されるようにタラップを降りてきたアンジュ。彼女は周囲の、特にヒトミの目を気にしてか、軽く会釈するに留めた。


「心配かけて済まなかったアンジュ。クブルの、バンドウ家の、君の尽力には心から感謝する」


 優しく抱きしめると、そのままアンジュはたまらず泣き崩れてしまった。


「トウザ兄さま、いえ、タツノ宰相閣下お久しぶりです!」


「ああ。久しぶりジュシン。見ない間に随分立派になったじゃないか」


「姉上はクブルで、すぐにでも工事が再開できるように電線と資材、そして技師の育成を行ってきました」


 ジュシンの言うとおり、他の船から荷降ろしされているのは、クブルで製造された電線を巻いた木製のドラムの数々だった。


「ありがとうアンジュ」


「いえ……。これが私にできた数少ない貢献でしたから……」


 その様子を見ていたヒトミは、アンジュに優しい目線を送っていた。


「それじゃあみんな、私はメリーベルさんと海に出るね」


 ヒトミはメリーベルたちの船団と二泊三日の警備航海に同行することになっていた。


「ああ。それじゃあメリーベル、ヒトミを頼む」


「任せときな!」


 帆船で船旅がしてみたいというのはヒトミからの要望だったが、アンジュが久しぶりに合流するので気を使っていたからでもある。


「ヒトミ将軍……」


 気にしているアンジュだったが、ヒトミはにこやかに笑顔を向ける。


「アンジュさん、しばらくソウタくんをお願いします」


 ヒトミはソウタと関係を持つ他の女性以上にアンジュには思うところはあったが、本人の意思を押さえてつけて帰国させられていた彼女の事をずっと気にかけていた。

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